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休暇のクマと青春謳歌

初回掲載:2026年8月11日

登場人物

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《第三話 天の歌声 クマ謳歌》(3)‐7

 (七)

「そういえば」

 覚めてきたからこそ一つだけ聞きたい事があった。自分の体がこんな事になり、様々な人が望んで関わったのではない、あの事。

「あの。ゼンルが沙耶さんを」

 本当に殺したのか。もし、それが本当なら、何故。殺してしまったのか。翔太くんはもう聞く耳がもてなかったみたいだったけど。ゼンルの事を、死神の仕事とはどんなものかと常に考え律している者ならば、目の前の事だけに囚われなかったはず。

「壺。その中に入れたンですサ」

「ツ、ツボ? どういう事?」

 彼女は床をせっせと拭きながら、こちらを振り向きもせずそう答えた。

「アタシャね。死の馨りに中っちまった魂を体から抜き取って、壺に収めた。そしてそれを天界執行役の回収班が管理している蝋燭の間の奥にある、アタシの秘密部屋に置いておいたンですよ」

「魂を抜いた?」

「そうです。あの沙耶ってのは、要するに自分の意思では殺人を止められない程に馨りが心と体を蝕んでいた。死神が近づき過ぎたせいで。だから、その責任を取る為に魂から毒気を抜こうと、もうダメになっちまった体を捨て、魂だけでも正常に戻してやろうと壺に入れたんですよ。天界に置いておけば時間が掛かっても魂を清浄出来ますからね。
しかしそれをあのバカは。恋人がアタシに連れ去られたとか言って大それた事を仕出かして。終いにゃ……。全く、いい面汚しですよ」

「そうだったんだ」

「アタシャ一〇〇年か二〇〇年経って。それでもウィリアムがその魂を待てるようなら、彼の元へ返してやろうと思ったンだけどね。でもアイツはそれを待てるような男じゃなかった」

 たしかに。

 彼は、まだ色々な事を真剣に考えられない子どもだったのだと思う。優秀だったから死神になった、面白そうだから沙耶さんと恋をした。そして、恋人が奪われたから復讐した。

 一見、普通の悲恋話に聞こえるけど。

 でもこれは。生死を司り切れなかった、幼い執行役の話、そうとも言えるのかも知れない。責任を果せぬならやるな、それを肝に銘じろ。そんな話。

「それで。翔太くんは」

「今、審議中サね。天界大法廷で」

「裁判?」

「そう。と、言っても。アイツの首をいつ刎ねるか、それを決めてるだけですがね」

「く、首を……。あの、それって、ゼンルが」

「聞くまでもないですぜ。アンタも無粋だね」

「ご、ごめん……なさい」

「良いンですよ。アイツは最後まで死神の大切な事に気づけなかったンですからね。チャンスはいくらでもあった。そして能力も素質もあった。でもそこに真剣味が無かった。だからあんな風で終っちまった。それじゃ助けてやる事も出来ませンぜ」

「助けてやるつもりだったの? 罪人を」

「違いますよ。罪を犯さないようにって意味サ」

「罪を?」

「そう。部下がどうしても役を降りたいなら降ろしてやる事も出来たし、その後も人間にしてやる事も、人間を天上に住まわせる方法も、いっくらでもしてやったンですがね。流れに乗ってるだけで、後も先も考えないでその場の激情ってやつにどんどん流されていっちまっちゃ、いっくらこのアタシでも。何にも出来やしないサね」

 そうだったんだ。

「でも、男女の間で起こる事は。そう上手く解決出来ないものじゃない?」

「そりゃアンタ。執行役じゃなけりゃ、いっくらでも起こして頂いてかまわないサ」

「……ま、そうかもだけど」

 だよね。

 だからこそ。

 目の前の天使も。

 男でも女でもない、本物の天使になったのだから。そのくらいの覚悟が無いなら。死神なんてなっちゃ。

「あたし。元気になったら、もう、死神辞めるね」

 覚悟が無いなら。

「おやまぁ。そうなんですかい?」

 今まで床をきれいにした天使は顔を上げ、振り向いた。

「うん。だって、そんなに死神をしっかり出来る自信、全然ないもん。それに将来は作家になるって決めてるし」

「そうなんですかい? 死神の方が安定してますぜ。それに丁度、特殊行動班にも欠員が出たし。今ならうちに採用してやりますぜ」

「ありがとう。でも、あたし。まだ学生だし。それに普通の人間だし。せいぜい出来る事といったら輝星剣士だけかな」

「輝星剣士だけ? 死神も充分出来ていましたがね。それに素質もある」

「うーん。でも、何ていうか」

「何です?」

「合ってるんだよね、人間をやってる方が。そして輝星剣士をやっている方が」

「そうなんですかい」

「うん」

「そりゃ、残念ですサねぇ」

 でも、彼女はそれでも笑っていた。もう初めから、あたしの答えを知っていたかのように。それどころか、そう答える事をもしかしたら望んでいたのかもしれない。

「けど、そういう事が言えるからこそ、素質があるって言うンですよ。
それじゃこうしましょ、輝星の御方さん。アンタがいずれ天寿を全うしたら、採用させて頂きますサ。このまま輝星剣士をやり抜けたら。それが生きているうちでクリアしなけりゃならない天界執行役最終採用試験並び特殊行動班認定試験て事にしますサ。どうです? 受けて立ちますかい?」

「えーっ!? それって死んだら強制的に死神になれ、自分の下で働けって言ってるようなもんじゃんっ。嫌だよっ、そんなの。しかも死んでからの事まで決められちゃってるなんて、やだーっ」

 もう。お墓に入った先の事まで決まってるなんて、生きてるはりあいが無いってもんよ。よってこの話は。

「お断りっ!!」

「ちっ。食えないお方サ」

 ゼンルはそう言って、床に転がっていた煎餅の器をあたしに押し付け「これを食べたらとっとと帰るんだね」と、いつもの皮肉ったような笑いをした。

 で。

 それから。

 完全に目が覚めたあたしは、まずびろびろ寝間着ネグリジェからとりあえず着物に袴の輝星剣士のカッコ(今回は茜色の着物に紫の袴)に身支度を整えてから、ゼンルに食堂へ案内された。

「大地の神様ほど美味しくはいかないかもしれないけど、沢山召し上がって下さいな」

 白猫さんマリアンヌさんが手作りで出してくれたのは、意外にもカレーだった。しかも本格的なインドカレーみたいなものじゃなくて、どこのご家庭でも普通に出てくるようなカレーライス。

「このカレー、なかなかイケるンですよ」

 と、さっきまでケーキにクッキーをもぐもぐ食べていたのにゼンルはテーブルにつくなりまたもやもぐもぐ食べだした。

「お嬢様。いいえ、プレンティス様は昔から食欲旺盛で。好き嫌いが無いのは良い事なんですけど、どうしてもおやつから食べだしてしまうのが困りものなんですわ」

 うーん。

 やっぱり、この人って。

「ふっしぎ~」

 奥が深いね、ゼンルは。

 そして。

「どうも、お世話になりました」

 あたしは帰り際、マリアンヌさんに「これ、みなさんとどうぞ」と手作りマドレーヌをたっくさん持たされた。それからゼンルは地上へ行く為に準備があるからと、食堂から出て行ってしまった。

 だから、あたしは出されたいちごの味のするお茶を頂き待つ事にした。あぁ、このお茶も美味しかったよねぇ。人世にも売ってればいいのに。

「さあさ、輝星剣士様。もう一杯いかがかしら?」

「あ、頂きますっ」

 白い猫のマリアンヌさんがふわっと飛びポットでカップにお茶を丁寧に注いでくれる。これもまた、ふっしぎ~な光景だけど。

「あの、輝星剣士様」

「はい」

「お嬢様。プレンティス様、あれでかなり今回の事にショックを受けておいでなの」

「え?」

「あたくし、もうあの方のお側に五〇〇年近くいますから良く分かります。いつもとお変わりなく見えますが、部下を失った事は自分の一部を失ったのと同じこと。あの方は責務と同じく、あたくし達部下の事も大切にされていらっしゃいますの。貴女様もご一緒に行動されてお分かりになっているかと思いますが、そういう方なのですわ。
だから出来たら。仲良くしてあげてくださいまし。昔からお友だちがいなかったから」

「そ、そうなんですか?」

 ま、まぁ。何か分かる気がするケド。でも、オトモダチかぁ。うーん、オトモダチねぇ。

「でも、何ていうか。仲良しさんは、えっと。ほら、同僚の人やあの別居中の旦那様もいらっしゃるんじゃありません?」

「えぇ。たしかにそうですわ。でもね、あの方。ちょっと変わってらっしゃるから」

「いえ、かなり変わってると思いますけど」

「ま、まぁ。変わっていらっしゃるから。心を開いてお話出来る人がいないのですわ」

「そ、そうなの? でもマリアンヌさんには何でも話してそうだけど」

「いいえ。あたくしではダメなの。あたくしはあの方の部下であり、教育係だから。対等に接する訳にはいかないの。お分かりになります?」

「うーん。何となく」

 とは言われても。あたしもあんまり対等だとかは思ってないなぁ。だって、死神と人間だし。やっぱり差は大きいと思うけど。

「お分かりにくいかも知れないけど。プレンティス様も貴女の事を気に入っていらっしゃるようだし」

「え!? そ、そうなんですか?」

「それは大層ね。だってご自分で貴女の事を看病されていたのよ。そんな事って、今までにあたくしが風邪をこじらせた時とアレックス様が食中毒を起こして臥せられた以外でおやりになった事ありませんもの」

「そ、そうなんだぁ」

 ってゆーか、マリアンヌさんの風邪はともかく。アレックス様は何を食べたの? つーか、天上に住んでる人が食中毒になるものなの?

「あたし、そんなに気に入られてるんですか」

「えぇ。しかもご自分のお部屋で看病されるなんて。よっぽど気にかけておいでなのですわ」

 くすくすっと白猫さんは、口のところにふわふわで真ん丸い手を当てて笑った。

「それにね、輝星剣士様。この家、オレンハワード家は代々、天上から星見の役を仰せつかってきた家系なの。だから幼い頃からプレンティス様は宇宙や星が大好きで。実を言うと、幻天王様が力をお与えになり地上に降臨された五輝神様のリーダー、輝星剣士様に幼い頃、とっても憧れていらっしゃったの。ご自分が大好きな星々の、その輝く星の力で巨悪に挑まれ、見事に平和を齎した天界の元王太子殿下」

「そ、それってまさか」

 つまり、つまりよっ!! それって!!

「リムズの事」

「えぇそうっ」

 うっひゃ~っ。そ、そ、そいつぁ~驚いた!! あのゼンルがリムズに憧れてたなんて。ゼンルって意外にヒーロー好きなのかぁ!! うわ~うわ~。これは、あとでリムズに報告してあげよっと。なっはっ。

「そして、お小さいお嬢様は星に守られ、星と共に戦う勇者様の」

「お嫁さんになりたかったとか?」

「いいえ。いつか自分も輝星剣士になるって言って、それはもう、毎日、木の棒を振り回して。あの時はホント、何百本取り上げたか」

 あ、そっち。しかも百本単位で回収か。そりゃ、おてんばなお姫様だったんだね。

「だから。大きくなって輝星剣士の名をお継ぎになった、本物の輝星剣士の貴女様にお会いする事になって。ついつい、嬉しくて本気で戦いたいって思っちゃったのですわ」

「そりゃ小さい頃憧れてたヒーローに会えたら、あたしもついうっかり戦っちゃう……? え? え? なにそれ!?」

 戦う? 戦うか? いや。

「戦わないでしょ~普通っ!!」

 だったらサインをもらうとか、一緒に写真を撮るとか、後楽園遊園地に行って握手するとか。ねぇ、色々あるじゃん。ってことは、なに。するってーと。あたしがゼンルと戦ったのって。つまり、憧れ……で攻撃されたって事!? しかも七年も。がーん。

「輝星剣士様。お嬢様は貴女様と戦って帰ってきたあの日、それはそれは嬉しそうでしたのよ。〝わたしが憧れた時のままだわ〟って。五〇〇年ぶりに少女のように笑ってましたわ。ま、もっとも今のお姿でそんな風に仰ってはオカマさん? ですわね」

 猫さんはコロコロと笑い「だからきっと。よいお友達になれると思いますの」と言った。

 そっか。ゼンルって……なんか。

 ま、ちょっとだけなら別に。お友達になっても。

 いいかも。

 あたしはマリアンヌさんに「少しなら」と、返事をすると彼女は満面の笑みをこぼして喜び「また遊びにいらしてね」と握手を求めてきた。だから、あたしもどーもどーもと握り返した。うん、親御さんに頼まれちゃう、あんな感じ?

 けどマリアンヌさんの手もモコモコでふにふに。彼女もやっぱり気持ちが良い。この家の住人ってみんな柔らかだね。

「ほら、アンタ。何やってるんですかい? 地上したへ行きますぜ」

 猫さんとのお別れを惜しんでいると、食堂の入り口から声が聞こえた。

「それじゃ、マリアンヌさん。ゴハン、美味しかったです。また来ます。ありがとう」

 あたしは白猫さんに手を振って食堂を出た。彼女も手を振って「今度は是非、初代様も連れてきて下さいましね」と、笑った。

 初代? あ、そっか。マリアンヌさんの方が輝星剣士そのものではなく、初代がお好きなんだ!! なっはっ。リムズ、良かったね。猫さんにモテて。

「さ。じゃ、アンタを送りますが」

「って。ここはゼンルのお部屋でしょ?」

「そうサ。こっから、飛んで帰ってもらうンですぜ」

「は?」

 宇宙空間そのもの、天窓には大きな地球が望める部屋であたしは「なんですと?」と、焦った。だってこの部屋が宇宙って訳じゃないでしょ。映像か何かじゃないの?

「この窓の向こうは本当の宇宙で、そしてあの地球はアンタが住んでる所なんですぜ」

「へ? あれ本物の地球?」

「そーですよ。天界のアタシの家と宇宙を繋いで、そこを四角に区切って部屋一つ作って住んでるンです」

「はぁ!? 勝手に宇宙すてーちょん?」

「ま、そンな所サ。そこの四方の柱が立ってる所までが一応アタシの部屋。でも、外からは見えませんぜ。マジックミラーのように結界を張ってありますからねぇ」

「そ、そうだったんだぁ」

 はぁ~。宇宙好きの死神って本当に〝すぺくたくる〟だねぇ。

「ってことは。出勤は宇宙から来てるの?」

 す、すごいね。天国からじゃないんだ。

「時間がある時は。マリアンヌがちゃんと起こしてくれた日だけ。そんな悠長な事は滅多にありゃしませんがね」

「なーんだ」

 いやぁ。天界から来てるのだとばっかり思ってたけど。いや~、知れば知るほど。事実は小説より奇なりって事か。

「じゃ、アンタ。これを腕につけな」

「ん? これは?」

 ゼンルは死神バイトをする時に付ける黄色い腕章を差し出した。

「アンタ。そのまんま、外へ出たら死んじまうだろ。人間は宇宙にそのまま行けないからねぇ」

「あ、そっか」

 あたしは渡されたそれを着物の腕の付け根の部分へ強引に括りつけた。すると、前と同じようにちょっと透けて少し軽くなった。

「それじゃ、そのまま。出ますぜ」

「あいあいさー」

 あたしは彼女に続いて「いっちにいーの、さん」とジャンプ。体はそのままフワッと浮き上がる。そして三メートルくらい昇ると、さっきまで見えていたゼンルの部屋がパッと消えた。そっか、外に出ると見えなくなっちゃうんだね。ってことは。本人はどうやって部屋を見つけるの? それともわざわざ宇宙経由で自分の部屋へ帰らないのかな。

 だって地球って。

「遠くて大きいねーっ」

 何十分、いや何時間て掛かりそう。

「そーりゃそうですぜ。そして、美しい。そう思いませんかい?」

「うん」

 目の前には青くて緑で白い大きな地球が輝いていた。一応日本列島も見えてるんだけど。近づいているようでちっとも近づかない。

 でも、このまましばらく。眺めていてもいいかもってちょっと思ったりして。

「アタシャね。この輝きをこの星のもとから見たことがあるンです」

「この星の下から? どういう事? こうして宇宙から見下ろさないと見られないよ。 あ、テレビで観たとか?」

「違いますよ。――アンタ、ですよ。輝星剣士。アンタが剣を持って戦ってるお姿はこういうふうに光るンですよ」

「へ?」

 そ、それって発光ダイオードみたいなもの?

「ちょいと。何か勘違いをしていませンかい? もうちょっと空気を読んで頂きたいものですサね」

 そんな。小粋なギャグだったのに。

「だから。……ま、そういうことですぜ」

「そういう事……」

 そっか。

 だから、ゼンルはわざわざあたしに宇宙から帰ろうって言ってきたんだ。

 なは。うん。あたしもこの輝きのような剣士でありたい。そうであるように、もっともっと頑張らないとね。

 あたしという可能性を信じて。

「なは~。何かもう。これが一番のご褒美って感じだね」

「そうですかい? そりゃ、良かった。これが一番の報酬ですさ」

「うん」

「ホントこれで満足して頂けて、アタシも嬉しいですよ。あ~こがれの剣士様に喜んで頂けて。挙句にこれが報酬で良いだなんて。さ~すが、天下の輝星の御方様。あ~りがたいことだねぇ」

「いや、それほどのこともないよ」

 ん? え? いや、あれ? それは。

「って、あの。何、その締めは!! ちょっとっそれってタダ働きって事じゃんっ。報酬は別よ、別。あたしはちゃんと日本円で払えっていってんのっ。そんな映画ファンやSF好きじゃないンだから、こんな事で誤魔化さないでよねっ。明日あすをも生きられるかどうかが掛かってるんだから、このバイト代は。ウチにはただ飯食らいが二人もいて。あー、もうっどうやって養って行けばいいのっ」

 地球がどれほど素晴しく輝いたってお腹はいっぱいにならないし、ガリガリくんだって買えないんだよ、もぉっ!!

「朝倉奏さん」

「はい?」

 地球を背景バックにして、明日からの生き方に心が荒れ模様のあたしは久しく聞いていなかった自分の本当の名前を聞いた。同じく青い星を背にしている天使に。

「貴女は素晴らしい剣士。いつまでもその気高い心で人々の心を明るく照らしてさしあげて下さい」

「え、あ。は、はぁ」

「大丈夫。貴女はどんな苦難にも打ち勝つ勇気と知恵、そしてそれを使いこなせる力があります」

「は、はい。ど、どうも」

「だって、貴女は最も強き星の力を受け継いだ尊き輝星剣士なのだから。自分の力を信じて。明日はきっとやってくる」

「は、はいっ」

「だから。ビンボーにも、負けちゃいけません」

「はい!!」

「ぜ」

「あ」

「ま、そういう事ですサ」

「うっにゃぁぁ~っ謀ったなっ。この極悪死神ぃぃっ」

「ひひひっ。剣士に二言ありゃしないってね。いや、今回はホ~ントに。何から何まで、アンタのお陰でアタシャ、ラク、さしていただきましたサね。この分じゃ、ま~た来年もアンタのナツヤスミってやつを充分活用さして頂きますぜ。ひひっこりゃ、結構結構」

 あたしの抗議も虚しく。美しい微笑みをこぼした天使は、あかんべをしてとっとと地球へ向かって飛んでいってしまう。

「ひ、ひどいよぉ~っ。貴重な夏休みを帰せ~っバイト代よこせ~っばかゼンルーっ」

 あたしはそんな死神を追って。

 青い青い地球へ。再び帰る事が出来た。

 ――って。無事に帰ってこられたから良いものの。

 あたしはちょうど成層圏辺りで奴に追いつき、一戦繰り広げた。

 が、その時。うっかり腕章が外れ、マイナス三〇度の極寒にさらされひゅーっと落下し、あえなく敗退。挙句、コチコチの状態で朝倉家へと届けられた。

 よって。

「ゼ~ン~ル~さ~んっ。主様をちゃ~んと、解凍して、元通りにしてから、天界へお帰りくださいよっ」

「ちっ」

 死神はぶつぶつ文句を言いながらも誓約を結んだ事には〝絶対〟逆らえない為、しかも神様と約束した事なので無下にもできず、仕方なく氷の彫刻にドライヤーをあて、暖める事となった。

「アンタのせいですよっ」

「ゼンルが悪いんだよっ」

 再び、あたしは彼女の手厚い看病を受けることになった。なっはっ。

「あ~ぁ。お陰で一気に授業が始まる気がするんですけど」

 はぁ~。ため息があの日以来。数万回出ている気がする。今もハムサンドを食べてため息を吐き。そして、眩しい朝日を見てもふぅ~。

 あぁ~あ。明日から学校か。

「アンタねぇ。そのため息、うざったいですぜ。止めてもらえませんかねぇ」

「仕方ないでしょ。それもこれも、ぜーんぶ、あんたさんのお陰なんだから」

「ま~だ根に持ってるンですかい? ちゃんと体は全部解凍してやったはずですがね。ありゃ面倒臭かったんですぜ。それを、わっざわざ、丁寧に、ドライヤーをガーガーかけてやったんですから。感謝して頂きたいモンだね」

「なによーその言い方。ふん、いいもん。今度、マリアンヌさんにたくのお嬢ちゃまがイジワルするから困りますって言いつけよっと」

「な~んです? そんな子ども染みた事を。そんな事を言ってると、その幼稚な行動が紅の魔道士さん辺りにバレて、また外出禁止になりますぜ」

「あーっ。それってゼンルがカルスに告げ口するってことじゃん。そっちこそ子どもみたいじゃんっ」

「そちらがお先におっしゃったンじゃないですかい?」

「なによ~」

「な~んです?」

「もうっこうなったらココで決戦だよ、決戦っ」

「いいですぜ。のぞむところさっ」

 ハムサンドを持ったあたしが勝つか。玉子サンドのゼンルが勝つか。くっうぅ~、こんどこそ負けるもんかっ。

「主様っ!!」

「最高執行役代行っ!!」

 しかし。

 決戦前に。聞こえるはずのない、いや、聞こえては非常にまずいお声が、どこからともなくした。こ、これはまさに。

「主様っ。遅いと思ってきてみたら。案の定じゃないですかっ。もう、いい加減になさって下さいよ!! 毎度、毎回、あっちを壊し、そっちを壊して、そこら中に瓦礫を作って。そんな事より、夏休みの宿題、どうするんですか!! 一日であと二〇曲、どうやって仕上げるんですっ!?」

「プレンティス様っ。貴女も死神なんですから人世をほいほい破壊しないで頂きたいわっ。大体、昨日は皆様と宴会の後、自分の部屋に帰ってからまた床で寝ていましたわね。お菓子もばらまいてっ。図書館でお借りしたご本にカスタードクリームが付いてらしたわよ!!」

 黒い影があたし達の目の前に落ちた。見上げると、魔王の息子、と異名をとる劇的におっそろしい顔のカルスと。どこぞの一家の姐さんが仇討ちにでも出かけるような迫力美人女将の藤花さんが。青筋を立てて宙に浮いていた。

 ひぃ~っ。こ、殺されるぅ~っ。

 しかも。

「あ~あ。もうちっとで輝星剣士対死神の対決が見られたのに。惜しかったぜ」

「俺は今度こそ、御方さんに勝ってもらいたかったのによ。なんせチロルチョコのビスケットとキャラメル、二個も賭けたんだからな」

「私は都こんぶを五枚。プレンティス執行役に賭けた。無念」

 ちょっと遠くでギャラリー達が余分な一言を言った為、火に油が大いに注がれた。

 うぅっ。あ、もう。あたしたち、絶体絶命!!

「ご、ごめんなさい~。もうそーゆー事はしないから許してーっ」

「わ、悪かったですよ。アタシもそろそろ仕事に行こうと思ってたところなんですよ」

「あ、あたしも帰って宿題をや、やろっかな。な、なはっ」

「さ、さぁ。お前たちも今日も一日、頑張るンだね」

 と、あたしたちはお互いサンドウィッチを持っていない手でカタイ握手をする。ほ、ほら。あたしたちってこ~んなに、な、か、よ、しっだよ。

 なはははっ。

 そんなわけで。

「もーっ。帰りますよ、主様っ」

「行きますよ、執行役っ」

「「……はい」」

 頭にコブを作ったあたし、ゼンルは。それぞれのお目付け役に首根っこを掴まれ。引きずられるように。夏休み最後の晴れわたった空を。風に流されながらそれぞれ公園をあとにした。

          第三話 天の歌声 クマ謳歌 了

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
※物語の結末に関するネタバレを含みます。

御礼いらすと&あとがき