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《第3話 車道に立ちはだかる魔術師》(3)‐2
言われてみればこの胡散臭い男もそういう人種だと主張を続けている。つまり、そういう事を平気で言える人間が他にもいる、ということになる。黒い影も、何らかの力を持っているようではある。しかも、このおかしな紳士より、黒い影の方が実際に力を有しているように感じられた。
「奴が使う魔術など、ワタシの力で操る魔法と比べたら差は歴然。大悪魔ならば分かるであろう」
「貴方との差……?」
と、大口を叩いているこの男だが、その裏付けはなかった。この人が魔法で何かをやった、または黒い影と戦った現場を見た訳でも無い。
「貴様、まだワタシの力の本質が見抜けぬというのか? 大悪魔のくせに」
「申し訳ないが、そもそも私は大悪魔ではないので何とも言えない。しかし少なくとも、貴方から大層な力を感じたことは一度も……」
「なんたるマヌケな悪魔めがっ。主の力も分からないで従僕するなど一〇〇年早いわ」
「もう貴方とは話にならない」
この男の力がうんぬん、という以前に、鷹一は、もっと否定したい事項が山積していることだけは分かった。主として認めてもいなければ、従僕など一瞬たりともしていない。一体、この人間の脳はどうなっているのだろう。
「よいか大悪魔。奴は〝あの男〟の下でつまらぬ仕事をやっている者。あの男に忠誠を誓った、下賤で下等な一派の一人なのだ。主の敵くらい理解しておけっ」
けれど自称魔術師の方は、どんどん話を進めている。この男には、この男なりのストーリーがあるのだろう。そのストーリーの中には、あの男、と言われる存在もいるようだし、それが主の敵、らしい。しかしそう言われても、鷹一は、何とも言えない。むしろ「へー」とか、言ってみたい気がした。
「さあ大悪魔よ。いよいよお前の力を見せる時が来た。今からワタシの号令の下、ネクリアードを始末しろ」
しかも自称魔術師のストーリーの中では一つの山場が来た、という状況らしい。鷹一をまるで『やっと入手した最終兵器』と言いたげな口ぶりだった。
だがこちらもそろそろこの茶番をどうにかしないと。キリが無い。
「悪いが、貴方になど従僕などしたつもりは一度たりとも無い」
「主人に楯突くつもりか? いいか。命令に背くとあらば貴様の真の名を晒し、偉大なる地獄の総統の名の下、業火によってその身を焼き尽くすぞ」
「そんなことを貴方が出来ると到底思えない。再三言っているが、私の名は西園寺鷹一。そして仮に、私に真の名があろうが無かろうが、おそらく、それを貴方が晒す事など出来ないだろう。以前からの知人でもなければ友人でもないので」
「うるさいっ。よくも抜け抜けと主人であるワタシに口答えを」
魔術師だ、という男――そう言えば、この男の真の名前こそまだ知らない――は、いきり立ったまま鷹一の前に出る。そして高架橋の方を見上げた。
「ネクリアードよっ。ワタシは遂に見つけ出した。偉大な最古の悪魔。最強の大悪魔をっ」
と、鷹一へ向け勝手に指をビシッとさす。
「なぜそうなる。私は悪魔ではない」
これでは高架橋に立つ黒い影に、おかしな勘違いをされてしまう。自称魔術師は黒い影と、明らかに敵対関係。それに向かって、そういう事を言う。裁判官のように断定的に。それはつまり。
「さあ行けっ。最強の大悪魔の名に恥じぬよう」
鷹一は、やっと手に入れた最終兵器扱い、だった。が、彼はそう言われたところで、右足を一歩後退させた。これでは、もう一旦、事務所へ戻るしかない。だが体を反転させ戻ろうとするよりも早く、自称魔術師の方が後ろへ退いた。鷹一の方が一歩前に出ている状況になってしまう。その先には寂しい夜道が続き、広がる視界には、黒い影の立つ高架橋が闇に浮かんで見えた。そこから影は鷹一たちの方を見下ろしている。
『……サイキョウのダイアクマ、か。たしかにそこの悪魔は、計り知れない力の持ち主のようだな。バシレウス』
道の先からくぐもった声がした。黒い影の声なのだろうか。男の声のようだが、口に布でも当てているようなこもった声だった。そして重要なのは、彼が言ったバシレウスという言葉。これは自称魔術師に向けている。それがこの妙な男の本名なのか? しかし〝βαδιλϵνς〟とは、ギリシア語で王、国王という意味の言葉だった気がする。魔法使いたちは、お互いをあだ名で呼び合っているのか。
「しかし両者の敵対関係に、私は全く関係無い。失礼する」
鷹一はやはり体を反転させ、事務所がある方へと歩き出した。
『……逃げる気なのか』
黒い影から呼び掛けられるが鷹一は無視をした。そう。自分も喋るからいけないのだ。相手にしなければ向こうも興味を示さなくなるはず。
『こらっ。何とか言えっ』
「……」
『無視するなっ。ちょっとはしゃべれよっ。こっちが話しかけてるんだからさーっ』
話しかけてくる声は、わりと軽薄そうな口調だった。若い男性なのかもしれない。
『逃げんなら、追うのみだぜーっ』
黒い影が、突然、弧を描くように橋桁から飛んだ。その途中、影に見える男は腕を振り上げ、頭の上に両手を翳し、そこへ強いエネルギーを一気に集中させた。
「あの力は」
強いエネルギーは、大人の頭大に膨れ真っ黒な力の塊となる。
『大悪魔の力、お手並み拝見させてもらうぜっ』
中空の黒い影はそう言って、エネルギーの塊を鷹一へ向け投げ放った。
「威力はそこそこ。致命傷にはならないが」
まともに食らったらスーツは駄目になる。しかしここで自分の神力を放ち、打ち消してしまっては「法令違反」。それにこの人間たちにとっての思う壺。「やっぱりお前は大悪魔だろう」と、言い掛かりを付けられてしまうだろう。
『ビビって動けないのか~、バシレウスの犬っころ』
「ネクリアード。あの悪魔は犬ではないっ。堕天使の中で最強クラス、彼(か)の〝明けの明星〟と謳われている大魔王ルシファー」
はあ。どこのおとぎ話をされているのか。と、突っ込みを入れる余裕はもう無い。黒いエネルギーの塊が鷹一の目の前まで迫っていた。
「仕方ない。緊急措置対応として我が神術をここに解放す」
鷹一は観念し右手を軽く振り上げ、手に神力を集中させた。白い光が手のひらに現われ、白色の光玉へとなっていく。これを打ち放てば全て終了となろう。我が身を守り、人間にもキツい灸を据えることになろう。しかし、これは立派な法令違反。力有る者が、絶対的不利を被る弱者へ対し、高位の能力を用いる事。外事法で禁止している。やってはならぬ事だし自分は法令違反を本当は犯したくない。
「――おおっと!! 心配だと思って来てみたら。鷹一さん、なんつー事態にしちゃってるんですか」
黒いエネルギーの塊へ向け、今まさに鷹一が白い光玉を放つ寸前のことだった。視線の端に、鷹一が目指していた興信所のある路地の方から、見覚えある男が現われた。鷹一はそれに驚き、術を発動させることに躊躇した。だがもう影の放った黒々したエネルギーが彼の頭へ迫っていた。
「止むを得ない」
鷹一は作った白い光を瞬時に霧散し、その場から大きく真横のオフィスビルへと飛んだ。直後、彼が立っていた歩道にはエネルギー弾がめり込み振動を伴う大きな衝撃を与え、直径三メートルの大穴がぽっかり開いた。
「なんてことを」
五階建ての比較的新しいビルの屋上の縁からその光景を鷹一は目の当たりにした。あれは立派な公共物破損。犯罪である。
「なるほど。跳んだ、じゃなくて気に留めずに飛んだってことか。大悪魔さんよぉ」
思わぬ声が聞こえた。男性としては、かなり高音に属する特徴的な金切声だった。
「君は」
ゆっくりとした動作で鷹一は振り返った。視線の先、五メートルほど離れた場所にピンク色の短髪をした若い男が立っていた。年の頃は二十代半。両耳につけている金のリング状のピアスが、月明かりを受け煌いて映る。頬が窪むほどにこけ、全身もガリガリに痩せている。首元の黒いフードを後ろへ流し、同色の長いローブをマントのように身につけ、破れたジーンズを履いていた。彼がおそらく、あの黒いエネルギー弾を放った男に違いない。声は違って聞こえるが、しゃべり方は軽薄で挑発的。黒い影のしゃべり方と同じ。おそらく身に着けていたフードが外れると、本来の声はこの金切声なのだろう。
「君も空が飛べるのか」
一見、売れないパンクミュージシャンのような風貌だった。鷹一がじっと見据えているにも拘わらず、彼は臆することなく薄ら笑いを浮かべている。
「君らは……いや。正確には、君は一体何者だ」
あの紳士も未だ謎の存在だった。しかし目の前の青年も明らかに集中力を高め、特殊な力を自在に引き出し駆使出来ている。特殊能力の持ち主だった。
「俺様は、ただのゴミ掃除を請け負ってるだけ。今回の依頼はさっきのオッサン。ま、大した奴には見えないけど、でもスポンサーがスポンサーだから。わざわざ来てやったってとこか」
「ゴミ掃除? たしかにあの男は、出現した時点でゴミ箱にでも入れ、大人しくさせたい。もしくは、しっかり梱包しアラスカまで送り届けたい」
「いーや。俺様のスポンサー様は、ゴミ清掃ってよりは、害虫駆除かな、正確には。二度と娑婆を歩くようにするな、って依頼だ。あんたみてーな〝寛大〟処置じゃ済まねー。だから俺様が駆り出されたって訳だけど。確実に『墓場送り』ってな具合で」
「だからネクリアード。バシレウスと共にギリシャ語か」
「はー。教養はあるんだな、悪魔のくせに」
ピンク頭の男はニヤリと顔を歪めた。
「でも。あのオッサンよりも、もっと面白そうなモンを見つけちゃったっつーか」
「あれ以上に面白いモノ……」
そんな存在がこの世の中にいるのか。
「何だかんだで、造りモン以外でアンタみたいなモンスター、見るの初めてカモな」
「もんすたー。まさか私のこと……?」
「他に誰がいンの。アンタ、ホンモンだろ? あのオッサンが使役しているかどうか、はともかく」
「私はもんすたーでもなければあの男に従僕などしていない。ただの企業経営者で真っ当な納税者。名は西園寺……」
「名前なんざぁ俺様にとってはどうでもいい。第一っから、そんなモンは偽名だろう? 手に取るようにわかるぜ。それに俺様は、相手の名前がどうとか、それを支配して従える、みてーな古っクサいイモ魔術は使わねーっ。今、俺様にとって一番大事なのは、目の前にいるヤローがどんだけ強ぇーかどーかだ」
ピンク頭は両手を向い合せ、その隙間にエネルギーを集中させた。先程と同じ真っ黒な力の塊がみるみる膨れ上がっていく。
「そんなことをして何になる」
「ドンパチやって楽しみてーだけよぉ。相手が強かったらその分、お楽しみが続くってもんだろー」
「私は争いなどしない。剣や術で力比べを興じる趣味は無い。そしてそんな事に剣や術を使ったことなど一度たりとも無い」
「つべこべ言うなって。アンタはホンモン。本物の大悪魔だろーが」
「だから私は、大悪魔でも地獄の総統でももんすたーでもない。西園寺鷹一という名が」
「だっから名前なんて聞いてねーんだよっ。大物悪魔さんよぉ」
エネルギー弾は疾うに人の頭などよりも大きくなり、おおよそ三〇センチほどになっていた。青年術師はそれを更に大きくさせるつもりだった。
「そんなものをここで放つのか」
「ったりめーだろ。ぶっ放すために作ってんだから」
そんなものをここで炸裂させたら、この屋上の床が崩落する。逸らしたところで、隣接している建物を壊す可能性もある。今度は道路陥没どころではなく、ビル倒壊で大惨事になってしまう。人命に危険が及ぶ。
「じゃ、おっぱじめようぜっ」
しかし何も考えていないピンク頭の若者は両腕を振り上げた。
「これ以上、生命へ対する危害を及ぼすような行為は許さない」
鷹一は自分の剣を喚んだ。と、同時くらいに若者から黒いエネルギー弾が放たれた。
「愚かな事はするものじゃないっ」
最終的には直径が一メートル弱くらいまでになった黒い球体が、こちらへ向かって飛び出していた。鷹一はそれを剣で薙ぐ。黒いエネルギー弾は、斬られた瞬間、剣との摩擦を起こし、ジュッと音を立て消えた。だが若い術師はすぐに次の攻撃を繰り出してくる。始めに作り出したほどの大きさではないが、サッカーボールほどの黒い球体を次々に投げ放ってくる。たしかに本人が言う通り、彼は特殊能力が使える人間の中でも能力の高い部類に入る。一向に黒い球の威力は劣らず、それが乱れ飛んでくる。
「これでは本当に限(きり)が無い」
鷹一も剣で切り裂くだけに留まる訳にはいかない。やはりこうなったら、こちらも神術を使い、一気に片を付けるしかない。だが、どうしてもそれは憚られる。神術をここで使いたくはない。やはり違反は違反である。
「おーおーおーっ。マジかよっ」
「こらっ大魔王っ。雑魚など易く片付けろーっ」
屋上の出入り口の方で人の気配がした。姿を現したのは従弟と紳士。しかし、そちらを気にしている余裕はない。正面から飛んでくる無数のエネルギー弾に考えあぐねている状況でもない今。こちらも大人しくしているのは最早これまでか。
「こらっ大魔王っ。なぜ何もしない。お前はそんな弱き存在ではないだろう」
「何もしない……って。鷹一さんてばまさか」
致しかたあるまい。すべては自分の不徳の致す所。もう神術を使うしか。しかし天界の役人として公平なる生命の調停人が、他世界において神術を使い生命を傷つけることは……。いや。それでもあと一つ。賭けに出ることも――
「ったく。本っ当ぉーに、堅いお方ッスね~鷹一さんは」
従弟の声がした。そして彼の声がした方向から、真っ青な光の波がブワッと立ち、屋上全体を呑みこむように流れ込んだ。それは鷹一と彼を狙う黒いエネルギー弾もろとも一気に呑み込んだ。彼は光を浴びながら霧散していく黒いエネルギー弾を見た。
「やはり諦めずにいて正解だった」
青い光に包まれながら今度は従弟の方を向いた。
「何言ってるんですか。最後まで禁忌を犯したくないっていう、アナタの我(、)儘(、)につき合ってやったまでじゃないですか。外事長」
離れた場所に立っている従弟は呆れた顔で鷹一を見ていた。彼は右腕を伸ばし、手のひらには青い光が包み込むように保たれていた。だが、その手をキュッと拳に結ぶと青い光がフッと消えた。屋上を満たしていた光の波も、ビルの端まで到達すると流れ落ちるように見えていた。それも一気にサーッと消えてしまう。
一方、若い術師は何が起こったのか分からず呆気に取られたようで攻撃を止めていた。従弟はそんな術師の方へと視線を向き、若者へ向き腕を伸ばした。右手の人差し指で示しながら言った。
「おい、そこのガキ。そういう訳で、俺の従兄(いとこ)は何がなんでも術は使いたくないって言ってる。この人の頑固頭はお前さんのヤワいピンクの頭じゃ敵わない。諦めてとっとと失せるんだ」
「なんだとっ」
「俺だって一銭にもならない事で働きたくないし、まして美女やキレイなおねーさんが後でご褒美をくれる話でもない事には、全く興味が湧かない。だから、さっさとアジトにでも帰って、依頼主だかボスだかに報告でもしろ。すげー強そうな大魔王様と、ちょースゴそうな興信所のナイスイケメンがいて歯が立ちませんでしたってな」
「なんだとーっ」
青年術師は、もう一度、力を集中させ術を使う動作をした。だが、さっきと同じく両手を向い合せた所に黒い力が現われない。
「どうしたんだ? ネクリアードの魔力が切れたのか」
自称魔術師も驚いた表情をさせる。
「な、何なんだよっ。どーして俺様の魔法が」
そんな紳士の隣に立つ従弟が、若者へ向け人差し指をクルクルクルと回していた。
「おい、そこのガキんちょ。俺は正面切っての正攻法だけで戦事(いくさごと)を切り抜ける騎士じゃないんだぜ」
「な、なんだと。てめー、どういうことだっ」
「とにかく。ここから立ち去らないって言い張るなら、未来永劫、永久永遠に、お前さんの魔法ってのを使えなくしてやってもいいんだぞ~」
「っんだとーっ」
従弟はニカリと笑って完全に餓鬼を小馬鹿にしている。対する若者は悔しそうな表情を浮かべて必死に術を使おうとしている。
「くそっ。どうしてこんなっ。こんなはずじゃねーのによっ」
こうなっては彼もただの粋がっている子供にしか見えない。
「ばーか。人生ってのは、こんなはずもあんなはずもねーんだよ。起こり得る事が起こってるだけなんだぞ。逆に、起こり得る事なら何でも起こるんだぜ、若者」
「あーあーあーっ。分かったような口利きやがって。そーかよ。起こり得る事が何でも起こるってならな。依頼人が是非って願った〝大いなる法剣〟も、もうあっち側に渡ったって事実も受け入れるんだな」
「はーあー? ホウケン?」
ピンク頭は術を使う事を断念し、しかしなぜか不敵な笑みを浮かべ、紳士の方を見た。
「いいか。俺様だってな、ただのゴミ始末に来た訳じゃないんだ。バシレウスッ。アンタが二重にも三重にも掛けた結界だってな、あの方が自ら出向けば簡単にブッ壊せるんだよ。油断したなぁ。アンタが命よりも大切にしているモンは、今頃あの方の手元にあるはずだ」
若者はそう言って両手を広げる。直後、彼の首や肩に下げていた黒い布がバッと広がり全身を覆う。彼が現われた時の姿に戻った。
「油断。つーか過信だな。自分の術が破られるはずがないっていう。ま、俺様だってアンタの術は、時間を掛けにゃぶち破れない。壊すのに一苦労する。それは認める。で~も、あの方は造作も無いんだぜ。アンタだって、間近であの方のチカラを見て分かってるはずだろう。だからやっぱ過信したな」
黒い影のような姿に戻った若者はそのまま宙へと浮かぶ。黒い塊のような姿から白い腕がにゅっと伸び、空へ向けて手のひらを翳した。そこには黒い衣よりも、さらに深い漆黒のエネルギーが溢れた。影はそれを全身へ纏わせた。
「法剣を……。ネクリアードッ。本当に法剣を持ち出したと言うのかっ」
「俺様がじゃないぜ。あの方が、だ」
「あの剣だけは……剣だけはダメだっ!! それだけは許せんっ」
「だったら一日中、アンタがへばりついて見張ってればよかったろう」
黒い影は「それじゃーな、ジジィども」と、包まれた漆黒の霧の中へ消え、それ自体もあっという間に霧散した。
「ネクリアードッ」
宵の冷たい月明かりの下で謎の紳士の悲痛な叫び声だけが残った。