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《第三話 天の歌声 クマ謳歌》(3)‐3
(三)
「ちっ。もう、お出ましかい」
小屋の外へ出ると、建物の正面には死神がわさわさと数十人といた。彼らはみんな一様に下を向き、ダークな雰囲気をまとっている。きっと操られているからなんだろうケド。雨の降りしきる薄暗い林に漆黒の死神が並んでいるのは恐怖というより。
「薄気味悪いね」
あたしはそそっとゼンルの後ろに隠れるように彼女の脇に立った。
「もう怖気づきましたかい?」
「違うけど。何かスクリーンでホラー映画を観てるみたいなんだもん」
その気味の悪い光景の中央には、さっきリムズが言っていた青と緑の中間色に黒を混ぜたようなローブをまとっている奴らが三人いた。そして彼らの左肩から下は、ただ布が掛かっているように見えた。
きっとあれが――青い真珠。
「とうとう見つけたぞ、天界執行役最高責任者代行っ」
その中の真ん中の奴。どうやら声からすると男のようだけど。そいつの怒声が雨音を消すかの勢いでした。多分、頭目……?
「俺らはアンタに左を刈られて全てを失った。あれがなけれりゃ、魂を手に入れることも人間を殺す事すら出来ない。ホントに小癪な真似をしてくれたな」
でも、何か、ものすごーく。
「頭、悪そうな感じがするね」
「ホントにあれが頭目なんですかい?」
あのしゃべり方って、よくいる血気盛ん型能無し頭目系のような気がするんだけど。あたしの隣に立っているゼンルも眉をひそめ、しかめ面をした。
頭目だっていう目星は的ハズレかなぁ?
「あ、でも。殺戮集団のうち、今来ているのはザコたちかもしれないよ」
「そーかねぇ? アタシには、これ以上利口な奴がいるとは思えませんがねぇ」
「え、だって、ゼンルが自分で捕まえたんでしょ? 頭目の顔とか分からないの?」
「そんなのいちいち覚えちゃいないよ。奴らぁ揃って、わーわー騒いで、腕が千切れて痛いだの何だと、ぴーぴー悲鳴を上げてましたからねぇ」
「あ、あそぉ……」
う、うーん。微妙だなぁ。
「プレンティス、何かお悩みかい? 僕がいれば何でも解決さ」
そして敵を観察しているところへ、更なる悩みの種が、悩める天使の隣に躍り出た。
「あ、いえ。あの青服さんたちの中央に立って、何かわめいている人が青服のリーダーなのかなって」
とりあえず眉間にしわが寄っている上司に代わって、あたしが質問をしてみた。うん、完全に隣と前方の両方をゼンルは悩んでいるね。
「おぉ、そんな事で君の心を悩ませているのかい? ははっ心配いらないよ。僕が何でも答えてあげよう。ミスノノコ、君の推察通りあの男が青い真珠の頭目、銀の穴子さ」
「シ、シルバー・コンジャー!?」
な、何? 銀のこんにゃく?
「それから処刑リストによると、一味は桃色蛸に黒鮭、それからここには居ないが紫車海老。白鮪の五人だよ」
全部寿司屋のネタかっ!!
「ちっ。ふざけた連中だねぇ」
た、確かに。ほ、本当に天界を恐怖に陥れんの? こんな人達が?
「でも、名前だけかもしれませんよ」
「そうか? オレは〝名は体を表わす〟っていう方だと思うぜ。つーか、今度、寿司食べたいよなぁ」
あたしの後ろで、それぞれの杖に剣を構えているカルスとリムズもやっぱり悩んでるようだけど。
でも。
「あ。あたしも回らないお寿司が良い!! バイト代が出たら江戸前寿司が食べたいっ!!」
うん。リムズの意見に賛成。
「ははっ。僕はやっぱりニッポン人の感覚にはいまいちついてゆけないな。生の魚を食べるなんて」
「アンタねえぇ。寿司とすき焼きと牡丹餅はニッポン人のココロだって、研修のときに習わなかったンですかい?」
「え!? 日本人のステイタスに、牡丹餅も入っているんですか? それは私にとっては実に喜ばしい事ですよ」
「ボタモチ?ん? あ、それってこの前、カルスが御方の昼の弁当に作って持たせたヤツじゃね? 粒あんの」
「そうだよ。あ、でも。それ、ゼンルに取られちゃったんだよ!! 上司の権限とかで。ひどくない? だからその日はおやつに支給された湯の花饅頭二個だけで頑張ったんだよ」
「ははははっ、プレンティス。人様のもの食べてはダメじゃないか。だったら僕が愛を込めて毎日ランチを作って届けるよ」
「ちっ。そんなゲテモノ、食べられませんぜ。アタシの口に入れられるモンは尊い御神酒や神前食だけなんですよ。だから地の神さんが作ったモンなら食べられるンですよ。第一、オマエさんが作ったモンに、今まで食えたモンなんざ一つとしてもありゃしなかったじゃないかい」
アレックス様の手料理かぁ。何か普通に食せるものなんて作れるのかなぁ。
「おいっ!! お前らっ!! いつまでも内輪でもめるなっ。無視するなっ」
あ。しまった。寿司屋の人達をすっかり忘れてた。
「なはっ。存在薄いからさ」
「だよな。それにメシの話の方が大事だしな」
「そうですね。それに、私の作った牡丹餅は美味しいですよ」
「はははっ。ではプレンティス、今度、一緒に食べに行こう」
「アンタとなんか誰が行くもンですかいっ」
一同、言い訳してみたところで。
「貴様等っ。誰も謝らんのか……」
「なはっ」
ま、そんな感じで。あたしらは全員で笑ってみた。なははははっ。
「くっそぉ、貴様等っ。もう許さんっ。絶対に許さんぞっ」
目の前の穴子寿司が再び声を荒らげ、あたしたちにビシッとひとさし指を突きつけてきた。
「ふふっ。そんな余裕でいられるのは今のうちだ。貴様等には、到底考えられない、恐ろしい目に遭わせてやるっ。そのまま空の上まで来るんだっ」
奴はそういって、いきなり宙へ浮かび上がり、雨が落ちてくる空へとぞろぞろ死神達を引きつれ飛んで行った。
「なんか、本気になったのかな?」
「さぁ。よく分からない連中ですサねぇ」
仕方が無いので。あたしたちも空へと飛んだ。恐ろしい目に遭わされるのは嫌だけど。このまま行かない事で、あいつらが悪さを仕出かしても困るし。
それに藤島さんたちも助けなければいけない訳だし。
「あーっでも。傘さしても役に立たないね」
あたしは自前のピンクの傘をさしながら昇っていたのだが、バサバサと風にあおられてホネの部分も折れそうな勢いでふらついていた。
「主様。こういう時は服に防水スプレーをしておけば良いですよ。ほら」
「あ、すごーい。カルスのローブ、撥水加工がされてるーっ」
「そうです。これならカサをささずに戦えます」
そっかぁ。今度はちゃんとやっておこう。
仕様がないから傘は閉じて腰帯にさしておこっと。
「おっ。何か見えてきたぜ」
雨粒を目の中に受けつつリムズが言う方を凝らしてみると。空の上に大きな黒い集団らしきものが広がっていた。多分、さっきの死神の集団だとは思うんだけど。
「なんだ? ありゃ?」
そして何ていうか。ちょっと、その、あの。
「ア……アイツら」
前を行くゼンルも忌々しそうに唸っている。
うん。分かるよ、その気持ち。だって。
あたしは上昇していく間、心の中で大きなため息を一個、吐いた。
「おーっほっほっほっほっほっほっ。良ーく来たわねっ三下ども」
到着したあたし達の前に立ちはだかったのは、ボディーラインがくっきり出ているスリットざっくりの真紫色のドレスを身にまとった藤花姐さんと。
「よくも今までさんざんこき使ってくれたなっ」
悪の司令官みたいな黒マントと、雨なのに思いっきり無駄な黒のサングラスをつけた電気工の橋本さんと。
「そうだそうだっ。すぐにおやつを没収するオカマおばさんなんて最低だっ」
悪のちびっ子指揮官みたいになってる翔太。
そして。
「あんたには愛想がつきやした。ここいらで、あっ、お命、頂戴いたしやすっ」
チンピラ度がいつもに増しているサラシを巻いた藤島さんが、黒い死神たちの真ん中で啖呵を切った。
「な、なんか。すげー似合いすぎなんですけど。全員」
「よっ、藤辰っ。にっぽんいち!!」
「藤花さん、お綺麗ですよっ」
とりあえず、あたしらは声援を。
そんで。
「お~前たちっ。いっつも。ア~タシん所で。そ~んな事を、思って。働いて、いたン、で、す、か、い?」
思い切り恐ろしい形相で、彼らの前に天界で一番美しいであろう天使が睨みつけた。
「あぁ、プレンティス。そんな魔王も裸足で逃げ出すような怖い顔はいけないよ。君には野に咲く一輪のバラのように、気高く美しい微笑みが似合うのさ」
……ま。この合いの手には特にコメントはないけど。
「でも操られているからとは言え。なんか遂に言っちゃったって感じだよね、藤島さんたち。あたし、もう、知らないよ」
「だよな」
「あの方達は上司さんの本当の強さを知っているのでしょうに。恐ろしい事です」
「ホント怖いよねぇ。あたしなんてゼンルとの死闘の末に、お腹を刺されて殺されかかったんだよ」
「だよな。って事は、部下すげー勇気ある者よ、だよな。いくら部下だからって。オレだったらゼッテー言わないぜ、あんな暴言」
「きっと操られているからついうっかり、本音が出てしまったのでしょう。私にも止められませんね」
あたしたちはとりあえず操られて可哀想な彼らに、さらに深い哀れな視線を送った。
「ちっ。お前たち、操られてるとはいえ一番先に始末してやりたいサね」
確かに。
対して、彼らは余裕でえっへんと胸を張って上司と向かいあっている。うひぃ、やばいよ。あんたら。あぁ、命知らずな。
「はーははははははっ。どうだ、プレンティス代行。可愛がっていた部下が、今やあんたを裏切って敵に回ったという気分は」
黒だかりの中で、五人そろった寿司詰め連中は目の前の光景を高笑いしながら見ている。はぁ。馬鹿だとは思っていたけど。ここまで馬鹿だとは。
「あたし、もしかして出番が無いかも」
「だな。オレも見学班」
「右に同じですね」
あたしは本気で怖いのでゼンルから離れた。リムズとカルスもご一緒に。
雨が降りしきる大空の舞台には、黒い死神の数十という壁。その中心に青い罪人と傀儡となった天の御使い。そして相対するは純白の穢れ無き天使。と、煌びやかな貴公子。
「ど、どうなっちゃうのかなぁ」
固唾を呑んだ、その一瞬だった。
白き天使は持っていた銀の鎌を右手に握ると、そのまま正面へ横一直線に大きく振った。鎌から銀色に輝く三日月の閃きが相対する群れを横から一気に薙いだ。死神も青い真珠も、そして彼女の部下達にさえ。お腹の部分で上下、一刀両断された。
「出でよっ、罪無きものたちよ」
それから彼女は左手を掲げると、そこに青い光が輝き出す。陽の光りを受けた宝石のような強い光りが。
「うにゃーっ眩しいっ」
あたしは思わず腕で顔を覆って光を遮った。
なは~ぁ。前が見えないーっ。
「おいっ御方。大丈夫か?」
「まぶしい~」
「いや、もう大丈夫だ。それよか、前見ろよ。すごい事になってるぜ」
「え?」
おそるおそる腕を顔から離して目を開けると。
「な……。何。あれは……」
正面の天使の手に。
死神たちの集団から次々と浮かび上がってくる白い光りの粒が。
幾つも幾つも。
集まっていく。
幾つも。幾つも。
それはまるで神様が掲げた絶対的な光。
尊くて神聖な絶える事の無い輝き。
支柱の頭に輝いた宝玉。
「すごく綺麗……」
やがてその光りの粒が黒い一団から消えていくと、天使が集めた光りは彼女の手にぴったり収まる大きさの青い宝石の塊となった。彼女はそれをポーンとあたしに向かって投げた。
って、ちょっと。
「あ、あぶないでしょーが!!」
「ひひっ。アンタの懐にしまっときな」
あたしはぎりぎり両手でそれをキャッチ。つーか、あんな綺麗ですごい光りをぞんざいに扱うなんて。
「大体、これは何? あたしのバイト代か何か?」
もう。売っぱらっちゃうよ、このサファイア。
「そーりゃ、あのかっぱ巻きどもが人間ぶっ殺して集めた人の魂ですぜ。一〇〇以上入ってますから失くしちゃ~なりませんよ」
「そ、そんなぁーっ」
う、売ろうとなんてゴメンナサイゴメンナサイッ。あぁ、どうか恨まないでね。
「さて。これで一応、一件落着ですサねぇ。ごく一部を除いては」
ゼンルは正面の無残に斬られている連中をみた。
「あれ? でも、皆んな血が出てないよ?」
そうそう。あの、人間よりも少し淡い赤色の血を流している人は一人もいない。
「そりゃ、そうです。右手で斬ったんですからねぇ。さっきのは体ン中に入っていた人の魂をヤツらの中から取り出してやったンです。これ以上、人間の魂の力を消耗させ操り人形にさせないためにねぇ」
「そうだったんだぁ。あ、じゃぁ前にいる死神さんたちは? それに藤島さんたちと、寿司詰めの悪人は?」
「連中なら……」
と、ゼンルは指を差す。
見るとアレックスが青い真珠たちを一人ひとり白い鎖で縛り上げていた。その脇には、ぽーっとなっている特殊行動班の人達とその他の死神さんたち。
「あ、えっと。大丈夫なの?」
「大丈夫ですぜ。アイツらン中に入っていた毒気は、人間の魂を共に抜きましたからねぇ。今は少~し、アタマがぼんやりしているだけですぜ」
「そっかぁ。なら、良かった」
「ま、すぐに元に戻りますが。でも、アイツらには」
ゼンルはぽーっとなっている哀れな部下達の前に立つと。鎌を左手に持ち替えて。
「この。そろいもそろって馬鹿モンどもがっ」
大きく振り上げた。
「ちょ、ちょっとゼンル!! いくらなんでもやりすぎだってっ」
死刑なんていくらなんでもダメだよっ。
「ストーップ」
あたしは思わず彼女の元へ飛び出した。
が、間に合わず。
「罰ですぜっ」
と、あたしの目の前で。四人の部下はゼンルの鎌、の柄で、ゴンッゴンッゴンッゴンッと頭を殴られた。
「とっとと目を覚ますンだね、イシュール。それからエドワード、マリアンヌ、ウィリアム。アンタら仕事はまだ終って無いンですぜっ」
彼女はそういって腕を組んで、彼らをどやした。
な、なんだ。ビックリした。
「もう、藤島さんたちが殺されちゃうのかと思ったよ」
「いくらなんでもアタシャそんな事はしませんぜ。今は」
「あ、あそ……」
つまり報復はいつかするって事だよね。ま、まぁ。その辺に関しては、あたしはコメント出来る立場じゃないし。コ、コワいし。な、なはっ。
「でも。ちょっとは嬉しかった? 皆が元に戻って」
あたしは、彼女が少しだけ笑ってため息を吐いたのをこっそり見ちゃっていたりして。
「アンタ。ホントに嫌なトコばっかり覗き見しますサねぇ」
「なはっ。たまたまだよ、たまたま。あ、もしかしてこーゆー所も死神の素質っていうのかも?」
「言いませんぜ、そんな所は。それどころか死神の素質から大きくかけ離れたとこサ」
「そんなぁ」
うぅ。だって、見えちゃったんだもん。しょーがないじゃんね。
「それより、この馬鹿どもをたたき起こすのを手伝ってくださいよ。コイツらにはまだ仕事が残ってるんですからねぇ」
と、ゼンルはゲシゲシ五人を鎌で突っつく。う、うーん。本当に元に戻った事を喜んでいるのかなぁ。
あたしも仕方が無いので、皆が早く元気になるようにと回復術を施してやった。たぶん、こっちの方が早く気付くと思うし。
「……ん。あ。ん。あれ? プレンティス執行役? どうしたんですか?」
「ふ~わぁ~。良く寝たわね」
「しかし、何故、雨の中で目覚めるのだ?」
「ぼく、雨大好きーっ」
術をかけてすぐに。彼らは目を覚ました。ものすごく心配がいらない様子で。
「なんだか助け甲斐のある人達なんだか、無いんだか」
のん気にしている四人を見てホッとするような、やるせないような。なんだろう、この気持ち。
「ほら、お前たち。そのヘンテコな格好を何とかするんだねっ。仕事が来たンですから」
対してゼンルは出で立ちの愚かな部下にもう一発、鎌の柄を食らわせた。それぞれ「痛っ」と悲鳴を上げながら、己の格好を確認して「お、イケてんじゃん。俺って」「あ~ら。次回は悪女なんかも素敵だわ」「己の新境地に到達」「イエーイ。ちびっ子ギャング団だぞ~」と、かなり喜んでいた。が、そこには更に鎌が飛ぶ。
う、うーん。この人達はホントに何なんだ。もう。
「あ、でも。仕事って何するの? この青い宝石を天界に持って行くとか?」
「そっちは今ンところ一旦終了。次は残りの青き真珠の方さ」
「真珠一味? 寿司のネタを三枚に下ろすの……?」
「まぁ。そんなところですかね」
そういうとゼンルは死神の仕事をする時の姿になる。真っ黒いローブと銀の鎌を携えた天の御使い。けど今更そんな姿をして。どうするんだ? 青い真珠は捕えた訳だし。もう解決したんじゃないの?
「あ、他の死神さんたちも気がついたみたい」
周囲も何となく騒がしくなってきた。黒い人だかりが次々に眼を覚まし、自分達の状況がいまいち理解出来ないらしく互いに話し合っている。
だがしかし、やがて一人二人と目の前にアレックス様が鎖につないでいる罪人を連れているのに気づき、一斉にそちらへと視線を向けた。やっぱり目立つ存在だから? 雨の中でもキラキラだし。
「さ、お前たち。他の連中も気付いちまったようだから、さっさと済ませますぜ」
ゼンルは死神の姿になった四人の部下を連れて、罪人たちの前に立った。
四人も今日は全員真っ黒なローブになり、フードを口元が見えるか見えないかぐらいまで深くかぶっていた。しかも背格好まで同じ様に見える。だから、正直、誰が誰だか分からない。
「何をするのかなぁ……?」
よく分からないなぁ。
「見ているままの事が起こるって事だぜ」
「そうです。我々はここで待つだけです」
「二人は知ってるの?」
「大方は」
「実際に目の当たりにするのは初めてですけどね」
どういう事だろう。二人はすっかり察しがついているみたいだけど。あたしには全然何の事だか分からない。
だから実際の正面に目をやった。
でもそこには。
ひどく怯えた声を上げ震えて顔を背けた黒い死神たちの姿が目に飛び込んできた。口々に「恐ろしい」「こんな所に居させないでくれ」「処刑人など見たくはない」と、言って罪人たちの方から顔を背けている。
「処刑……?」
あたしは彼らが怯える対象に視線を移した。
まさにその時だった。
「なっ」
目を覚まし鎖に縛られわめく青服の罪人たちが、空から舞い降りた黒き死神たちによって次々と首を刎ねられていく姿だった。一つ刈られる度に、傷口から薄い赤色の血が飛び散り、首が落下してゆく。それを別の死神が、まるで木の実が地面に落ちるのを上手に受け取るように、落ちてくる頭の髪の毛を掴んで取っていた。
「さ、首の方はもう良いから。処分しちまいな」
五人全員の首が落ちると、それを受け取っていた死神はゆっくり頷き、何か呪文を唱え始めた。
「ちょ、ちょっと。えっ!? えぇっ!! そ、そんなっ」
呪文が詠まれていくと手から黒い炎が生み出され、それが手にしている頭を燃やし始めていく。爛れるように、とろとろと。
「な、なに……これ……は」
あたしは思わずリムズの後ろに隠れた。
な、何あれは。あんな事をしていいの? く、首を斬って良いの?
そして特殊行動班の、ゼンルや藤島さんたちが。平気でそういう事をやってるっていうの!? 死神って。特殊行動班って。こんな事までやるの?
気付いたら手が震えていた。いや。手だけじゃない。足も、肩も、顔も。全身が震えだして止まらなくなっていた。何でだろう。あたしだって、剣で沢山人を斬ってきたはずなのに。今更、偽善者みたいに、良いコぶってるとでも?
「大丈夫か、御方っ!?」
「主様には見ずとも良い光景だったのかも知れませんね」
二人の声がとても遠くからする気がした。
きっと。
あたしは。
毎日見ている。
藤島さんたちの笑顔と。
目の前の出来事が。
全く結びつかなくて。
気持ちが。
追いつかない。
人の。
人間の終焉を。
穏やかに迎え入れる彼らが。
鎌を持って首を刎ね。
その頭を消した。
それは紛れも無い――処刑。
「そう。特殊行動班は死刑執行役でもある」
背後で。
そんな声がした。
リムズとカルス。その後ろにいるあたしの。
そのまた後ろから。
「だ、誰!?」
振り返った、いや、その直前だった。
「なっ。きゃぁっ」
の、喉元に。銀色の刃が閃いていた。そして、あたしは何かに後ろから羽交い絞めにされたまま、リムズたちから引き離された。
「お、御方っ」
「主様っ」
目の前ではリムズとカルスがそれぞれ剣と杖を構えた。
「この女は頂いていく」
頭の上からそう男の声がした。
「いやにゃ~っ離せってーの」
こ、こんな所で誘拐されるなんて。どうにかしないと。うぅ、でも喉に刃物が寸前って、あの。ほ、本気で恐ろしいんだけど。い、息を一つ呑み込むだけでも刃に首の皮が、あ、当りそう……。
「さらばだ」
へ!?
「わーんっ助けてーっ」
何が? 何で? どうして?
わーんっ。本当に誘拐されてるんですけどーっ。
「お、御方ーっ」
「主様を返しなさいっ」
リムズとカルスがこっちへ跳んだ。でも、叫んでいる間にあたしとその周辺の景色が青い光に包まれた。
「うわーん。怖いよっ」
あたしは羽交い絞めにあいながら、誰に、何のために、誘拐されたのか全く分からないまま。魔法でどこかに連れて行かれた。