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休暇のクマと青春謳歌

初回掲載:2026年8月10日

登場人物

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《間奏 クマ、休憩》(3)‐0

― 小話 ―

 死神バイトを始めて数日。

「さて、新人。アンタもこれからは、アタシの部下について回って、色々勉強をしてくるんだね」

「部下……って、あの面白いだけの人たちの事?」

「ま、そうとも言えますが」

「大丈夫なの? そーゆー人たちについて回るので」

「いーんですぜ。アイツらも特殊行動班の一員。色ンな事が学べるってモンですさね」

「わかりましたぁ」

 と、上司に言われて。




 あたし、朝倉奏は。

 八月下旬のこの良き日。初めの研修先、マリアンヌ・ルトフェ、通称・料亭藤野屋女将の藤花さんの所へやってきた。

「ど、どーぞ。よろしくお願い致します」

「こちらこそヨロシク、ノノコちゃん」

「は、はぁ」

 こ、この人も。あだ名にあだ名を……。何か大丈夫なのかなぁ。

 そんな疑惑を抱きつつ。あたしは彼女に付いて回る事となった。

 の、だが。

「はい。じゃ、まずこの台本に目を通しておいてね」

「はい? 台本……?」

 会って十秒後に渡されたのは〝愛の果てに、荒野のバラよ〟というまさに演劇に使う台本だった。

「あ、あのう。コレは」

「見ての通りよ」

「え、でも。あの、あたしは死神のいろはを学びに」

「だ、か、ら。その為の台本でしょ」

「へ? その為に?」

「そーよ。もう、プレンティス様から何も聞いていないの? 死神の基本は他人に成りすます事。その為には演技力が大事なの。だ、か、ら」

「だ、だから……?」

「演技のお稽古よ」

「え、演技のおケイコ……?」

「そう」

 いや。それは絶対無かろうに。

 と、言おうとした時には。すでにあたしの配役『拍手喝采・合いの手』と、発表されていた。つーか、それって端役レベルのポジションでも無くない? なんか、色々な意味で複雑な研修先のような気がするんですけど。



「あぁ。お待ちになって、アレックス様。わたくしを置いていかないで」

「おぉ愛しのプレンティス。しかし僕は行かねばならない。この世界を守る為には、この命を投げ打ってでも」

「あぁ、アレックス様~」

「プレンティス~」

 そして二人は強く抱き合って、あたしはそこに「よっ日本一っ世界一っ天界一っ」と拍手をした。

 はぁ。何回見ても。

「阿呆らしっ」



 で。

「ノノコちゃん、お茶」

「は、はい。ただいま」

「ノノコちゃん、メイク道具」

「は、はい。ただいま」

「ノーノコちゃん、新しい台本はっ」

「は、はーい。ただいま」

「んもぉノーノーコーちゃん、肩揉んで!!」

「うひ~ただいま」


 気がつけば。あたしは女優藤花の付き人になっていた。

「あの、なんか。別の人の所で研修受けたい……かな」

 そう、願い出ると。



 翌日。

「おはよう、ノノコ君。私が君の指導員に任命されたエドワード・コルウィットだ」

「お、おはよう御座います」

「では早速。まず今日はこれから始める」

「コレ?」

 と、指導員が喚んだのは。

「ひぇぇ~っ恐ろし過ぎなんですけど~」

「さぁ、出発だっ」

 白馬が喚び出された。首の無い。

「コイツは天界一の速さを誇る水霊馬、アンディー。私の相棒さ」

「いいです、いいです。もういーでーすっ」

 と、叫ぶあたしを背中に乗せながら。空の上をひたすら馬は駆け出した。一日中。


「あ、あの、なんか。べ、別の人の所で研修受けたい……かな」

 そう願い出ると。



 翌日。

「おはようございます、ノノコさん。指導員を任されたウィリアム・ロートリンゲンです」

「お、おはようゴザイマス」

「ぼくもわりと新人なので至らない所が沢山あると思いますが、一緒に頑張りましょう」

「は、はい」

 と、小学生に言われた。


「ではさっそく。オモチャ屋さんへ行こう」

「は?」

「ぼく、あんまり人間の事が分からないから。文化の勉強も大事だと思うから、見学」

「え、でも」

「早く行こうよっ。今日は森羅万象カードのレアメタルカードが限定で売り出されるんだから。早く早くっ」

「え? それって、もう文化というか娯楽に詳し過ぎなんじゃ……」

「遅れたら買えなくなるだろー。もう早くしろよーっのろまのノノコー」

 ムキーッ。



「ちょっとちょっとちょっと。もうっ!! 別の人の所で研修受けさせろーっ」

 そう願い出ると。



 翌日。

「よ、新人。俺は藤島辰夫、三十九歳独身。興信所所長、現在嫁さん募集中」

 ……。

「さて、今日の課題は。こいつ等の追跡調査だ」

 ……。

「豆芝梅男五十七歳。遠藤桜八十七歳。年の差カップルダブル不倫疑惑」

 ……。


「もう。他にいないの、指導員」



 こうして。

「やっぱり。あたし、このバイト向いてないのかも」

「そりゃ、アンタの方向性とは全く関係の無いところで疑問が生まれてるんじゃないンですかい?」

「そうかなぁ」

「ま、仕方がありませんねぇ。それじゃ、アタシが面倒を」

「でも。それが一番、何か……ねぇ」



 翌日。

「やぁ、ミスノノコ。今日から僕が君に色々教えてあげる教官、アレクサンドロス天界執行役最高責任者補佐官だよ。分からない事があったら、何でも聞いて欲しい」

「……では。まず、アンタの頭の中身を」

「はははっ。そんな事、決まってるじゃないか。我が愛しの妻、プレンティスの事でいっぱいさ」

「解任っ」



 ってなワケで。

「あの、やっぱりあたしはゼンルが一番良いかな。ほら、一番長い付き合いだし。残忍なところ以外はまともそうだから。なはっなはははっ」


 各指導員達の指導力に問題があり、持ち回りの研修は断念。

 よって、奇しくも。いつもの朝が再び来るのだった。

「寝坊したら処刑ですぜ」

 うぅ。

 なんでこうなるの。



 間奏 クマ、休憩 了