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休暇のクマと青春謳歌

初回掲載:2026年8月9日

登場人物

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《クマと貴族としにがみと》(2)‐2

(二)

「――って。終っちゃったら、意~味無~いじゃんっ」

 家に連れ戻されたあたしは、悶々としながら自室に篭り、机に向かってオーケストラのスコアを書くふりをしていた。

「あーぁ。家に帰れたのは良いけど」

 あたしは机の中に仕舞い込んだ茶封筒をみた。

「お金、すっからかんなんだよね」

 そう。

 昨日、いきなり全部、ユーロにされちゃって。所持金はお財布にたった二〇〇〇円。これじゃ、遊びに行くことも、映画も、遊園地も、何もかも。どこにも行けない。くぅ~。帰ってきたからって、ちっとも楽しくないじゃん。うぅ。ビンボーのばか。って言うか、リムズとカルスの阿呆。

 それに、ゼンル。

 あれだけ昨日は引っ張りまわしたクセに、今日はあっさりあたしを家に帰しちゃうなんて。挙句、バイト代はもらってないし。

「だったら昨日のうちに、家に帰してくれれば良かったじゃん!! そうすれば、あんなに怒られなくて済んだのにさ」

 あたしは家に帰ってからも、ものすごく怒られた。特にカルスに。

「貴女、何を考えているんですか?! よりにもよって、ゼンルさんにくっ付いていくなんて。危険だとか、命の危機だとか思わなかったんですか?」

「そ、そりゃ警戒はしていたつもりだよ。で、でもメロンパンもらっちゃったし。少し稼がしてやるから働かない? って言われちゃって」

「何が少し働かせるですかっ。そんな如何わしい仕事の斡旋みたいな事を」

「如何わしくないけど。でも、危険は伴ってたかも? まぁ、命の懸かってる、あっ。裏ハローワーク、みたいだね。なはっ」

「あーるーじーっ様っ!! 笑い事じゃありませんっ」

 ひぃっ。今日のそのお顔は〝魔王の息子〟って呼ばれてた頃の恐ろしい形相。

「うひっごめんなさいぃ~」

「もう!! 心配ばかりかけてっ。バツとしておやつは抜きですっ!!」

「うわーん。そんな殺生なぁっ」

 で。あたしは、そのまま自室に幽閉。

「うぅ。もう、どれもこれもゼンルのせいだよ。馬鹿ゼンル~阿呆~っ」

 再び、ひもじくなったあたしは。仕方がないので、買い置きしておいたベビースターら~めんを一本一本食べる事にした。あう、むなしい。

「おい、御方。なにわびしそうにやってんだ?」

「ん? あ、リムズ」

 ガツガツ一本一本食べていると、壁を抜けてリムズがスーッと部屋に入ってきた。はぁ、良いよね、幽霊は自由で。

「んにゃ。べっつにぃ~。ただ暇だなぁと思って」

 あたしはリムズにベビースターら~めんをざっざっと分けてやると、彼はあたしの布団の上に胡坐をかいた。

「うぅ。幽閉だなんて。カルスもあんなに怒らなくたって良いじゃんね」

「はははっなーんだ。そんな事か」

「そんな事、じゃ済まないよ。だって、外に遊びに行こうと思ってもお金はユーロになっちゃってるし。あれはあたしが頑張って働いた報酬だったんだよ!! 朝からコンビニで働いて、昼はパン屋で試食、じゃなくて接客、夜はオシャレ飲み屋でピアノ弾いて。で、貯めに貯めてたのに。それが一気に食材に代わるなんて。あぁ、ショック」

「まぁ、そりゃそうかも知れないけど。でも、あんたにその銭が渡れば、全部遊園地とそこに持ってくお菓子と、映画にそこのポップコーンに、プールと露天のかき氷になっちゃうだろ?」

「そ、それは」

 そうかも知れないケド……。な、なははっ。そこは、でも。その為に働いたワケで。

「カルスのやってる事は全部御方の為。フランス料理もあんたを喜ばせようと作ったんだぜ」

「でもぉ。あたしはガリガリくんの方が食べたかったんだよ。フランス料理なんて、しかも朝から食べられないよ」

「ま、そこはな。手に余るし。それに、カルス。あいつは」

 と、言いかけて一瞬沈黙。そしてポソッと一言。

「ヤキモチを焼いてる」

「は?」

 なに? それは?

「何で? って、言うか。誰に? 何で?」

「はぁ~。御方にも分かってないぜ。いいか? 今朝、御方が無断で外泊して、一緒に居たのがゼンルと藤のダンナ。危険が心配っていうのはあるけど、イケメンいやカルスもイケメンだから、まぁそれは気にしてないだろうケド。うん、男子二人といたら、そりゃカルスだって面白くない」

「そ、そうなの?」

 あのカルスが? ヤキモチとか焼くの? と、いうより。何でヤキモチなんか焼くの?いや~でも。カルスってわりと真面目でお堅いから。自分の主が他の人の所で虐げられてたら面白く無いかも。あ、でも、虐げられている所なんか見てないか。少なくとも朝二人が来た時にはあたしって……あ、小躍りしてたんだっけ。じゃ、別に関係無いじゃんね。

 うーん。するーと。何が気に入らないんだ?

「っていうか。リムズ、今、藤のダンナって言ってなかった? もしかして、藤島さんと知り合い?」

「知り合い。ま、知り合いってゆーか。飲みトモだ」

「の、飲みトモ?!」

 そ、そんな。

 そりゃ、リムズはすぐに誰とでも友だちになっちゃうけど。サラリーマンのおっちゃんに近所の小学生。それから、犬、ネコ、その他諸々。それが、遂に死神とまでふつーに友情を。しかも分野が飲みトモって。

「オレ、夕涼みに空を浮遊してたら、森の上で月見をやってる一団を見つけて。で、そこに混ぜてもらったんだ。ほら、会社の飲み会ってカンジで面白そうだったし」

「か、会社の……」

 そんな庶民じみた場所へリムズもよく行くよ。

「で。何かその集団、自分らは死神やってて今日は自分らチームの暑気払いだとか言ってさ。その中に藤のダンナが居たってワケよ。他にも、美人女将に電気の配線工をしてるにーちゃん、それから小学生のくせに酒を飲んでるチビもいたなぁ。それが全部死神だぜ。それだけでも、オレ、マジ、ウケたぜ」

 その話を聞いてあたしは頬杖をついていたひじが思わずズルッとなった。あ、あの特殊な方々は、こんな特殊な幽霊と友だちになっちゃって……。きっと、また無理やり、気に入ったから仲間とか言いだしたんじゃ。ありえる。

「ん?じゃ、そこにゼンルは」

「あぁ、いた。ふつーに居たぜ」

「はぁ?! じゃ、じゃあリムズってば。奴がいたのに、ふつーに一緒に飲んだの?!」

「ん、あぁ。だって、藤のダンナとか良い奴らが一緒にいたからさ。あの死神も改心して良い奴になったんだろって思って。別に悪い事はしてなかったぜ。魂を食べてたとか、人殺しをしてたとか。ん、ただ」

「な、なに?」

「みんなで楽しくやってる時に、芝居が始まった」

「芝居?」

「そう、芝居。なんつーか、宝なんとかみたいなヤツ」

「宝? 芝居?」

 お宝の芝居? 何だ? それ?

「あ、もしかして。タカラヅカの事?」

「そーっ。それだ、御方っ」

「へ、へぇ。あの人たち、歌劇団か何かもやってるの?」

 それじゃ、まるで何とか大戦みたいじゃん。ますます、警戒せねばならない連中だね。

「いや、あいつらが芝居をしたんじゃなくて。別のハデハデなおかしい役者がいきなり来て、ぱりじぇーんぬ、まどもわぜーるっみたいな事を言ってきてさ。で、それを聞いたゼンルは急に怒って、それからチャンバラが始まって、最後はあでゅーってハデな奴が言って帰って、皆の拍手と歓声がして終わり」

「な、なにそれ」

「斬新な芝居だったぜ」

「そ、そーなの?」

 よ、よく分からないけど。特殊行動班の人たちってますます分からない。って、ゆーか目の前のこの男もあなどれないつーか。あれだけ戦い続けてきた相手と飲み会するか? 普通は。あ、でも。リムズだしなぁ。あたしの分身ってゆーか、あたしをモデルにして書いたキャラだし。これで、いいの……かも。

「ま、そんな感じで。藤のダンナとは結構気が合っちゃってさ、それ以来、親交が始まったってワケ」

「そ、そーなんだ。良かったね」

 うん。確かにリムズと藤島さんなら気が合いそうだよね。なんつーの。お互い、気を使わないで笑ってそうだし。

「けど、リムズ。そんな事、一言も言ってなかったじゃん。新しい友達が出来たって」

「そりゃ、友だちが出来たくらいでいちいち報告なんか出来るかよ。小学生じゃあるまいし」

「そうだけど。でも、死神さんたちと友だちになった事はちょっと別でしょ。しかも、ゼンルと一緒にお月見だなんて。カルスが聞いたらメチャクチャ怒る……あ、そうか」

 あたしもそのまま、黙った。

「だから、言わなかったって訳?」

「そ」

 うん。考えたら、カルスとゼンルって。以前の戦いで殺しあっちゃった関係だし。二人、とくにカルスはゼンルの事を以前からちっとも快くは思っていなかった。そのせいで、更に拍車が掛かって。生涯の宿敵って勢いで。

「そっか。だから、朝、あたしがゼンルとかと一緒にいて怒ってたんだ」

「いや。それは、さっき説明した通りでヤキモチ」

「ううん。あたし、カルスの気持ち、考えてないでいたかも」

「いや。今もちっとも分かって無い気がするけどな」

「ううん。よく分かった。あたし、死神の素質がある、なーんて言われて。浮かれちゃってたんだよね。反省しなくっちゃ」

「死神の素質? 御方が?」

「うん。そう。実はね」

 と、あたしは昨日家出をしてから今日の朝に至るまでの経緯をリムズに話した。彼はその話を面白そうに聞いていた。そして、しばらくしゃべり続け、ひと段落すると笑っていた。

「んじゃ、御方。あんた、死神に就職しろよ。面白そーじゃん」

「えぇっ。だって、そんなことしたらカルスが」

「ま、それはそれとして。良いじゃん、新たな才能の開花って感じで」

「そ、そう? でも、根本的にあたしは作曲家で作家だから。死神はちょっと。ある意味ブルーカラーのお仕事じゃん? あたし、外向きの仕事は……ねぇ。体も弱いし」

「どこがだよ。輝星の剣をぶんぶん振り回して、今更どの面さげて虚弱体質なんだ? いいじゃんか、ゼンルだって認めてるんだろう? それって、おもしれーじゃん」

「面白い面白いって。……でも、あたしってイケると思う?」

「あぁ、充分。ま、御方なら旅館の仲居だろーと、工事現場の作業員だろーと、死神だろーと、何だってやってけるだろうからな。頑張れよ」

「うん」

 なっはっ。やっぱ分身。分かってるね~、あたしの事。

「そっか。じゃ、あたし。空に戻るね」

「あぁ。それが良いぜ」

「あ、でも。カルスが外へ出ないようにって、この家に結界張ったんだっけ」

「それなら、平気だ。つーか、それは口先だけ。元々、そんなもんは張ってないさ。だって、そんなの張ったらオレだって身動きがとれなくなっちまうし」

「あ、そーか。そうだよね。うん、じゃあ」

 あたしは机の隅に置いておいた黄色い腕章を手に取った。

「それじゃ行ってくるね」

「おう。頑張ってこいよ」

「うん。あ、カルスには上手く言っておいてね」

「任せとけって」

 あたしは腕章を腕に通すと、ピンで留める。すると、再び体が半透明になった。

「じゃ、いってきまっす」

「あぁ。気をつけろよな、御方」

 リムズに見送られながら、あたしはもう一度、真夏の大空へ繰り出した。


「で、良かったのか? 藤のダンナ」

「あぁ。いいカンジだ。完璧」

「そーか? これでホントに面白いモンが拝めるのか?」

「あぁ。あの嬢ちゃんだからこそ、上手くいく。ははっ楽しみだっぜっ」

「そりゃ楽しみだぜ。うっしゃ~っ」