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西園寺鷹一の冒険

初回掲載:2026年7月23日

登場人物

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《第6話 敵のアジトは初めから一網打尽》(6)‐2

 それは、彼らの脇に置かれている台座から少し離れた場所。石壁に囲われた広い空間の中央奥に、何かを祀っているような祭壇が建てられていた。その祭壇の前に視線は集中していた。

 皆が見ているのは少し痩せこけた少女と、紳士が向かい合って立っている様子だった。少女の方は、興信所の所長が言っていた通りの、十二、三歳くらいの子供だった。よく見ると、かなり日本人離れをしているような、目鼻立ちのくっきりした可愛らしい顔立ちの少女だった。髪の色も明るい茶色をしている。それに、今は身なりがホコリや土で汚れているが、きちんとした格好に調えれば、こんなド田舎には決していない類いの、妙に艶のある美少女だった。

「おい、へーた。ところであのコって、本当にあのオモシロイおっちゃんの娘なのか」

「そーだよ。ヒヨリは間違いなくヒナギおじさんの子供だ。アイツの母親が出てく前は、おれもとーちゃんに連れられて、ちょくちょくおじさんちへ遊びに行ってたからな」

「なんだ。あのおっちゃん、奥さんに逃げられたのか」

「って、とーちゃんが言ってた。ヒヨリのとーちゃん、奥さんに愛想尽かされて出ていかれたって。魔術ばっかりやってて、家に金を入れないから、ヒヨリのかーちゃんが働きに出てなんとか頑張ってたんだけど。でもそのうち、かーちゃんが体壊しちゃって。それでも、ヒヨリのとーちゃんは真面目に働かなくてさ。だからかーちゃん、もう限界だって言って、しまいに仕事場の上司だった男とデキちゃって、そのまま蒸発したらしいって」

「確かにあの人は、魔術への情熱が強すぎるように思えた。それをロマンだ、と勘違いをし、夢を追う男。そんな人間にありがちな展開と言うべきか。だが子供が居て、養わなければならない家族がいる場合は、ロマンはただの戯事ざれごと。現実を見るべきだ」

「お母さんがいなくなっちゃったなんて、ヒヨリちゃんが可哀相です」

「そーゆー男はダメだ。いいか、へーた。魔術師なんてやめといた方がいいぞ。ちゃんとした稼ぎのある男こそ一人前だ。うん。そーだ。それなら、お前、ウチの興信所で働けよ。最初は見習いでバイト。使えそうならちゃんと雇ってやるぞ」

「は? 興信所で……? でもアンタ。ホントは死神なんだろう。なんか縁起悪そうだよな」

「気にすんな。よし。そうしろ。丁度、人間界の人手が欲しかったところなんだ。うん、決まりな」

「テメーも強引だなぁ」

「テメーじゃない、所長だ。よっし。礼儀も一からバンバン鍛えてやる。いいな」

「めんどくせー」

「まずは返事からだ。社会人は礼儀が一番大事だ。そうじゃないと、ほら、お前さんの親戚のオッチャンみたいな、あーゆー憐れな末路になるぞ」

「……うー。そうかも」

 四人が見つめる先。父と娘の再会により涙が誘われる場面。と、いう訳でも無かった。

「もうっ。本当にいい加減にしてよ、お父さん!! 魔術とかのせいで、お母さんはいなくなっちゃった挙句、わたしはこわい目に遭わされたじゃないっ」

「す、すまないヒヨリ。許してくれ」

「すまない、じゃすまないわよっ。誘拐したあの変態、ワタシに何しようとしたかわかる? わたしにせまってきたのよっ。いい歳したじーさんのくせにっ。もうキモ過ぎっ。もうイヤ!! 魔術も変態ジジィも、大っ嫌いっ!!」

「本当にすまないと思ってる。しかしあの男、娘になんて事をーーっ」

「そんなふうに言うくらいなら、もう二度と魔術はしないでっ。約束してよっ。どうしてもそういう事がやりたいんだったら、今度はわたしが出てくっ。一人で勝手にやってっ。子供を巻き込まないでよねっ」

「わ、わかった。わかったから。もう魔術はしない。約束する。クリスティーヌが出ていって、お前までもがいなくなったら、父さんは生きていけない。だから約束する」

 ちなみに。

「おい、へーた。クリスティーヌって誰だ」

「ヒヨリのかーちゃん。クリスティーヌ・ヘザー・ロッテンフォール・ロックハートって言うんだ、旧姓が。イギリスかアメリカかの人。ヒナギおじさんが、西洋の魔術を極める旅の途中で知り合ったんだと。あ、いや、知り合ったそうです、所長」

「ふーん。なんだかインチキな貴族っぽい名前だな」

「なるほど。しかしその女性は彼と結婚し、クリスティーヌ・オモシロイとなってしまったのか」

「まあっ。と、いうことは……ニホン的にはオモシロイ・クリスティーヌさんになってしまいます。なんだか気の毒なクリスティーヌさんですね」

「そんなンになっちゃったら、まあ逃げ出したくもなるよなぁ」

 天上人たちは、それぞれの感想を述べると。話の続きが気になるので、再び黙って親子を見守った。

「ヒヨリ。もうお父さんは魔術師では無い。魔力を失った。いや、魔力は棄てた。もうただの、そこら辺の道端を歩いている四〇代のオジサンと変わらない。だからこれ以上、お前を困らせることはしない。二人で静かに暮らそう」

「え? 魔力をなくしちゃった? どういうことよ、お父さん」

 いきり立っていた娘も、その事実を聞かされ、さすがに驚きの声を上げた。

「魔力を失くしたって、どうしたの? 何かあったの?」

「いいんだ。お前がそれを心配する必要は無い。これからはお父さんも、普通の人と同じく、ちゃんと働く。そして、お前を立派に大学まで行かせてやる。お父さん、やっと分かったよ。魔術より、魔力より、大切なものが何なのか。お前が目の前から消えて、初めて気づいたんだ」

「お父さん」

「いや。本当はお前のお母さんが出ていってしまう前に気づけば良かった。そうすればお前からお母さんを奪うことも無かった」

「……そうよ。今さら勝手なこと、言わないで」

「すまない、ヒヨリ」

「自分だけ魔力を棄てた、失ったって。どういうことよっ」

「だからお父さんは、あの、まあ、あの人のお陰でもう魔力が消えた。だからもう魔術師として生きなくても良いし、狙われたり、戦いを挑まれなくて済むようになった、という事で」

 娘、ヒヨリの言葉に、聞いている皆は何か引っかかるものを感じた。少なくともランベルセは、娘の怒りの矛先が、父親の魔力消失に向いているように思えた。本来なら、普通の人間のように、ただの人になった。これでもう魔術には手を出さない。普通の会社員になってもらえる。ああよかった、と安堵するのではないのか。

「は? じゃあわたしは? わたしはまだ持ったままでしょ? 実際に魔法なんて使いたくないから、使い方は知らないけど。でもこの変な、ちょーのーりょくみたいなものは持ってるまま。で、お父さんが魔術師を辞めたら、今度は跡継ぎのわたしの方に変な人たちが押し寄せてくるってことになっちゃうでしょ!? どーするのよっ!!」

「いや、でも。もう、お父さんの力ではどうすることも。魔力は無いし。ほら、普通の四十五歳のオジサンになっちゃったし」

「ふっざけないでよーーっ」

「すまん、すまないヒヨリ」

 愛想笑いに徹する父親と激怒する娘。両者の間で雲行きが怪しくなってきた。

 と、いうことなので。

「貴方は本当に生活力も無ければ親としても、又、人としても情けなさ過ぎる」

 ランベルセは小さくため息を吐いて親子の間に割って入った。妻や従弟、それから興信所にバイトとして雇われた青年も魔術師親子のそばに立ち様子を見守っている。

「大体、娘が大いに危険な目に遭って、更にこれからも過酷な出来事が続くと予想されるにも拘わらず、なぜ魔力を棄てる判断をした」

「え。あ。え? そ、それは貴方が娘を助けたくばそうしろと。ワタシの決意を見定めるために、娘を取るか、魔力を取るかと言ったから」

「言い訳など子供の前でするものではない」

「い、言い訳などではなくて、事実と言うか」

「見苦しい。これ以上そんな世迷言をしゃべれば、貴方はますます娘に軽蔑されるぞ」

「しかし」

「しかしもお菓子も無い」

 天使はただの四十五歳になった人間をキッと睨んだ。

「とにかく。事情は全て聞かせてもらった。要は娘も魔力を放棄したいという。そういう事なのだろう」

「ま、まあ。いやしかし。ワタシは本当に娘のために魔力を棄てられるか、と聞かれたから……」

「黙らっしゃい、人間風情。とにかく。娘も魔力を持ち、それを放棄したいというのなら私がその願いを叶えてやる。それなら文句はあるまい」

 時として、天界最高責任者などを仰せつかっているランベルセ公爵は、このような巧みな話術で、物事の進行を計ることがある。それは天界の最高責任者が、このような話術で押し進めないと、業務をあまりに滞らせるからであり、致し方なく。結果、仕方なく、身についてしまった手法である。よってあまり深く追及したり「えー、オモシロイさん可哀相」などと言ってはいけないのだ。

「はー。所長も大概だけど、あの天使も結構ヤベーな」

「へーた。あの人に下手なツッコミはすんな。寿命が縮まるぞ」

「なんてこった。死神がそう言うんなら、おれは何んも言わねーよ。怖ぇー怖ぇー」

 青年は小さく身震いし、親戚の成り行きを固唾を呑んで見守った。興信所の所長も同じで、従兄の様をウキウキしながら見ていた。

「娘の魔力も無くす。そんなことが出来るというのか」

「彼女がそう望んでいる。力を持ったままでいることで、自らの身に危険が及ぶならばそうした方が良い。今回に限っては私がそれを叶えてやる。乗りかかった船だ」

「娘の魔力まで……」

「不服なのか? しかし、私が問うているのは貴方では無く、娘に対して。君はどう考えている?」

 天使は父の隣で不機嫌な顔をしている少女を見た。

「モチロン、わたしはこんな力いらないわよっ」

「ならばその願いを聞き届けるまで」

 だが彼女の隣で「しかし」と、歯切れの悪い事を言っている父親がいた。

「貴方は何を迷う? 当事者である娘の決心は聞いた。それに対し、なぜ貴方が魔力に未練を持つ?」

「それは……」

「よもや。奪還すべき、もう一方の物に未練があるのか?」

「一方の物。それは我が一族に伝わる法剣のことか」

「しかし、それも継ぐはずの貴方の娘も不要となる。法剣とやらは、貴方の一族に力があってこそ、威力を発揮する物。原動力である魔力――正確には妖力であるが――それが無くなれば、当然、剣も存在意義を失う。剣自体もその役目を終える事になる」

「……ああ。その通りだ」

「その通り? なるほど。貴方も剣の真なる意義がわかっていたのか」

「それは」

「そうか。だからこそ、自分の魔力は放棄できたとも言えるのか」

 つまり、法剣を使える後継者はいる。自分は権利を放棄しても、この男が代々継いできたものを引き継げる存在があった。法剣の力が絶えることはない。そう思っていたからこそ、この男は自分の力を手放しても良いと考えた。

「しかし継げる者が継ぎたくない、と言っている。私は当該者の意に沿いたい。彼女が必要無いというのであれば、それを尊重する。そして法剣と貴方の一族の力の問題は、貴方の手から最早離れている。魔術師『だった』者からは」

 天使は少女の前に立つと、彼女の額へ右手の人差し指を当てた。それから「解除(トーファス)」と言葉を呟くと、指先から翠色の光が生まれる。彼はその光で少女の全身を包み込む。

「な……何? この光は」

「貴女に宿る、人間以外の力の部分を抜き取る」

「に、人間以外の力っ!?」

「今は余計な事をしゃべらない方が良い」

「な、なんだか。体の中から熱いものが……。胸の辺りが熱くなって……痛いっ」

「少し我慢をして欲しい。そのうちに終わる」

 やがて少女を包み込んでいた翠色の光が、湧き上がるように上昇し、彼女の頭上辺りで集約し始めた。それは次第に翠色の光珠へと形を成し、その珠へ光が流れていくように見えた。

「く、苦しい……」

「もうすぐ完了する」

 上昇する翠の光りはしばらくすると先細ってゆき、それと共に、少女を包んでいた光も収まっていった。そして、少女からの光が完全に消え失せると、彼女の頭上に浮かんでいる翠色の光玉だけが、煌々と輝いていた。

「そ、それがヒヨリの魔力、いや妖力だったのか」

 娘の隣で呆然と光を見上げていた男が、口が渇き切ったような掠れ声で独り言のように呟いた。当事者である娘の方は、唖然とした表情を浮かべ、言葉を失っている。

「これで彼女も、特別な事が出来る力は全て失せた。貴方達親子の望みは叶えてやった」

「あ、ああ。それはありがたい。これで娘も、千年の呪縛から解き放たれたというもの」

 しかし魔術師だった男は、眉間に皺を寄せ、押し黙ってしまう。

「どうした? 貴方は未だ気がかりがあるようだが。娘の心配以外、何を考えている」

「それは……」

「よほど気になるのか。その妖力が」

 ランベルセは、術で再び自分の愛刀を右手に喚び出した。初めから鞘から抜かれたその剣は、周囲に立てられている松明の明かりを受け、白銀の刃を輝かせている。彼はそれで少女の頭の上にあった光玉を強く突いた。すると球体の表面にピシピシピシッと、幾つものヒビが入り、ガシャリとガラスの板でも割れたようなけたたましい音を立て、光玉の表面のみが割れ落ちた。

「きゃー」

 少女は頭上の音に驚き、父親へと飛びつく。彼も娘を庇うように腕の中に抱きしめた。

「な、なんだ。これは……」

 紳士は娘を庇いつつも、彼女が寸前まで立っていた場所に浮かぶ物を見上げて、驚嘆した。彼の視線の先には、濃い赤紫色をした艶めく珠が浮かんでいた。先ほどの翠の光よりひと回り小さく、占い師が小道具に使う水晶くらいの大きさをしていた。

「これが貴方たち生もしろい家のルーツ。妖力の結晶だ」

「ル、ルーツ? この赤い玉が……よ、妖力?」

「そう。貴方たちは千年前、人間と妖魔の間に生まれてきた一族」

「よ、妖魔……!? ワ、ワタシたちは人間ではないと」

「純血種ではない、ということだ」

 魔力と引き替えに娘を助ける、と約束をした。その時に、この男の正体を晒した。が、それを当の本人に告げる前、彼を剣で衝いてしまった。そのため彼はこの事実を知らなかった。だから、いきなり突きつけられた事実となってしまい、当然、魔術師だった男も言葉を完全に失った。

「貴方達は人間と妖魔の混血だ。だから両方と言うべきであろう。しかしその後、千年間は人間との交配で血を継いできているので、現状は、ほぼ人間の要素で成っている。だから0.5対9.5の割合でほとんど人間といえよう。しかし貴方が家宝と言っている『傀儡の法剣』。それが血に呼応し、剣も又、血に応じて、互いが互いを高める関係にある」

「ど、どういうことだ……」

「イシュール。その剣をこちらへ」

 悪のボスによって奪われた傀儡の法剣。そこから放たれる微かな妖力が、怪しい儀式でも執り行われるような祭壇のど真ん中で感じられた。祭壇の中心に、ひと際大事そうに祀られている鞘に収められた一メートルほどの細い棒。ヘイアン時代と呼ばれていた頃に生成されたので、その時代に沿った飾太刀、という体を装っている。あの時代、貴族たちが儀式用として身に着けていたらしい。しかし千年という時間が過ぎているのに、見た目も飾りも古びている様子は無い。これも妖力によって、劣化が進まないのだろうか。

 そんな風体をしている剣を従弟に取ってこさせた。ランベルセは自分の剣を地面に突き立て、傀儡の法剣を手にする。今まで話の中でしか存在しなかった代物。それを実際に持ってみたが、この剣は思った以上に力を持っている。と、いうより、この剣こそ、妖力そのもので成り立っているようだった。物質としては軽量。だがひとたび、力を解放する切っ掛けを与えれば、大きな力を発揮する。それが生楙白一族の血、なのだろう。

 ランベルセは質量とは違う重々しさを感じながら、ゆっくり剣を鞘から抜いた。

「はー。スゴイっすね。見事な輝きを湛えちゃって。さっすが妖刀。千年くらいじゃビクともしないか」

「ああ。しかも自分の子供、アンド子々孫々を、すべての外敵から守るために残したものだ。威力はかなりあるはず」

「妖魔は血族第一主義ですからね~。メチャメチャ親子の絆を大切にしてるからなぁ」

「その分。この剣を残した事は、ある意味で複雑だったのかも知れない」

 漆黒の鞘から抜いた長剣。黒い針金細工で出来ている飾り柄、そこから伸びる銀色の薄刃の長剣は、見事な輝きを放っていた。

「今はまだ、貴方の娘から抜き取った妖力がそこに存在しているから、この剣も存在している。だがその妖力を完全に消滅させてしまえば、剣もまた消える。役目が失効した事になるゆえに」

 ランベルセは改めて父娘の方を向いた。

「では改めて、最終的な審判を、現在を生きる貴方たちに問う」

「それは、勿論。魔力、いいや妖力は棄てる。それが貴方に娘を救って頂く条件だった。そしてまた、娘も妖力を嫌がっている。だからワタシは、この力、妖力に関する事を……放棄する」

 男はじっと赤紫色の珠をみつめながら答えた。しかし、己の心が判然としない様子は明らかだった。珠を見ている目は、睨みつけている。

「改めて言う。今回、このような事件に巻き込まれたのは、この剣が災いの根源である、とも言える。又、貴方達がこの先、妖力を持ち続けていれば、他の人間たちによって命を狙われたり、危険な目に遭う事もあるだろう。だから、今、貴方が判断した結論を、私個人としても最善と思う」

 しかし魔術師であった父親は、未だ憮然とした表情で、赤紫色の珠を見つめていた。

「大天使。一つ聞きたい事がある。いや、今さら聞いて何になるという訳では無いが。ワタシはこの生楙白という家に生まれ、生涯を魔術師として生きなければならない宿命だ、と思って生きてきた。ワタシは、それを不服と思ったことも大いにあった。しかしそれ以上に誇りとも感じていた。それを今、この場で、全てを失くすことになる。得てきたモノを次の世代へ渡すことも無く、又、千年間子孫のために磨き上げてきた先祖たちの技術も捨てる事にもなる。無論それは、今を、現在を、生きる我々が必要無い、と思ってしまえば、それを放棄する事も問題ではない。ワタシもそう考える。

 しかし。我々が何故、妖魔という他種の血であるのか。どうして剣が存在してきたのか。最後にそれを知りたい」

「妖魔がなぜ、人間に関わったのか。いや、人間がなぜ妖魔と関わったのか。そして剣の成り立ちを知っておきたい。その全てを捨て去るというのに、か」

「意味は無いのかも知れない。しかし、もしもただの真っ当な人間であったのならば、千年もの間、常に誰かと戦いをくり返すことも無く、その為の技術も向上する必要も無く、又、家族を怯えさせることも無く、それらに付随してきた艱難辛苦のすべてを味わう事が無かった、と言える。しかし先祖たちが、それらを潜り抜けてくれたお陰で、今の私たちは存在しているのだ。私はそうした先祖たちの思いや、苦労をここですべて無にすると言ってもいい。

 ならば彼らの、そうした魔術師であった事の意義や意味を無駄ではなかったと、むしろ、ほんの少し前の自分がやってきた事に対しての、答えだと思うのだ。だから答えて欲しい。妖魔の血を引く起源と剣について。そうすれば納得が……いいや。全てを捨て去り、新たな道を歩み出す区切りとして。ワタシは知りたい」

 紳士は見上げていた顔をランベルセの方へと向けた。その表情は、娘を助けて欲しいと願い出た時と同じほどに厳しいものだった。彼の下した決断は、その言葉通りだとランベルセも思う。それに相応する何かがあるとしたら。彼の疑問に、真実を語ること。