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西園寺鷹一の冒険

初回掲載:2026年7月23日

登場人物

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《第6話 敵のアジトは初めから一網打尽》(6)‐1

(六)

 ランベルセは一人、暗い空を、背に持つ白い翼で渡っていた。

 天界も夜を迎えれば、闇の中に光の砂粒のようなものが空に広がる。古の神がそんな仕組みを創った。しかし、王が居住し、天の運行を司る多くの役人が働く天界本神殿は、大きな雲の峰の中にあり、そこは夜になると、雲の隙間でもない限りただの闇夜であった。

 その中を彼は飛翔していた。その格好は天上補佐官として、又、公爵たる貴族に相応しく、且つ、公務で召す華美にならない装い。昼間、妖魔の王太子と会っていた時と同じ姿。休暇中にはあまりしたくない制服姿、のようなものだった。

「こういう時に限って、まだいらっしゃる」

 雲を分け入って高度を下げると、巨大で壮麗な神殿が見えてきた。それだけで自分の気持ちが引き締まる。ランベルセは抱えている案件を思うと、気持ちも重かった。事は穏便に済ませたかった。

 しかし。簡単に話は運ばないだろう。そう予測が出来た。本当に厄介なことに巻き込まれたものだと思いつつ、神殿の真上までに辿り着くと、しばしそこに留まった。

「たまたまなのか。それとも、わざと、なのか」

 意を決し、神殿中央の最上階のバルコニーへと舞い降りた。

 
 
 

 降り立った場所は、穏やかで澄み切った風がサラサラと流れていた。

「このような時間まで御熱心ですね」

 白亜の石で造られているようなバルコニー。そこから室内へ出入りが出来る所で声を掛けた。すると「そうでもありませんよ。今夜はたまたまです」と、部屋の中から返事があった。

「執務を終え、部屋から出ようとしたら。ボク以上に『熱心な部下』が、報告書を上げてきたので。しかもそこには、ちょっと面白い事が書いてあったから。ボクは相応な対処をしていたんです。そうしたら、こんな時間になってしまった。それだけですよ」

「あの、妖魔と妖精の報告書を……わざわざ今夜のうちに? それも貴方が?」

「はい。今夜のうちに。そうしなければ、休暇中の部下が、ゆっくり休めないでしょう。彼は本当に熱心な男ですから。彼が持つ唯一の上司として、ボクは彼を慮っただけですよ」

「慮った、と。つまり、今、ここに貴方がいらっしゃるのも」

「彼に主人の寝所まで来させては、気遣いと気苦労ばかりで大変でしょう? だからここで待っていましたよ、パルティシオン・ランベルセ」

 バルコニーと部屋をガラスのような透明な大窓で仕切った部屋。中で、天上界の長であり、自分が唯一仰ぎ仕えている主人の気配が確かにした。だが出入口で白いレースのカーテンが夜風で揺れ、その隙間から時折、部屋に灯る黄色味がかった淡い光が見えるだけ。当の本人の姿をランベルセには確認できなかった。

「しかしお前も、次から次へと厄介な事に当たりますね。因果というか。むしろ苦労の方がお前を好んでやって来る、とでも言うべきか」

 けれど声は間近から聞えた。柔らかで透明感のある清々しい若い男の声。間違いなく主の声だった。

「畏れながら陛下。私は一度たりとも、自ら望んで厄難を招いた事など御座いません。そして厄難も、私を選び降りかかろう、などと思っていないでしょう」

「そうですか? ならば今宵も、お前自らがその厄難に向かっていく必要はないでしょう。アンナを連れ公爵邸へ帰りなさい。お前たち夫婦に静かで安穏な夜をボクが約束しますよ」

 いつの間にか出入口の間近に人影があった。白いレースに閉ざされた窓にそれが映っている。但し、こちらを向いている様子は無く、窓に背を預けた後姿。その人物は立ち姿から、おそらく腕組みをしている。

 それを見て。そして彼の発言を聞き、やはり主人は「そう思っている」。寛大であり、心を労わり、そして主の命令は絶対であることを悟った。

 それを覆す。ランベルセがここへやって来た行為は、そういうことなのだ。

 彼は「畏れながら天界王様」と、その場に片膝をつき、人影へ向かって頭を下げた。

「主の御言葉、そして御心、大変にありがたく存じ上げます。しかし今宵は、善き友人のため、妻アンナと従弟じゅうていイシュールを伴いまして、しばし天上を離れます。善き友に厄難あって一大事とあらば、行かぬわけにもございません。どうぞ陛下は心安くお休みくださいます事を御祈念申し上げます」

 行くな。と言われ、行かない方が良い事など分かりきっている。しかも主は、ランベルセの事を思い、そうすべきと言っているのだ。

 しかし、一度取り交わした約束事を反故にする事はしたくない。それに悪しきを放り、弱きを見捨てる部下など、主人にとっても誇りではない。たとえ外事長の役目、王の補佐官の役目を逸したとしても、自分の仕える主人はそれを望まれはしない――と、自分の希望的憶測に縋っていた。だが、実際は主人も行くことを否む言葉を掛けてこられている。

 しばし不穏な沈黙が流れた。静かな。静かすぎる宵に、風だけがサラサラと変わらず流れている。それが余計にランベルセの気持ちを緊張させた。嫌な思いが巡る。

 主の言葉に逆らって、このまま特定の人間だけを救うとならば、やはり外事長として自己都合で行動している失格者と言われ、職を解かれるかも知れない。それどころか、天界王補佐官も辞される可能性もある。爵位は廃され、天上人として、あるまじき行動を取った罪に問われ、天上界からの追放もありうる。理と法則で成り立っている世界において、それを覆そうという行為は必要無い存在、とここでは考えられている。無駄なものは天上には一切存在しない。と、なれば背信行為に出ようという自分も無用の長物であって……。

「ランベルセ」

 主人の言葉に忠義を尽くさなければならない事も、補佐官の本懐である。それが出来ない自分は。

「ランベルセ。パルティシオン・ランベルセ。……おやおや。まったく、頑ななのか優柔不断なのか。はっきりしない部下ですねぇ、お前は」

 いつの間にか暗い影が自分に落ちていた。思わず顔を上げると、柔らかで優しい顔立ちの青年が立っていた。その人は常春を思わせる温かさと、澄みきった涼風を感じさせる清浄な雰囲気を纏い、ひと目見ただけで安心感を齎す。それが天上界を統べる、唯一の主人、スタリート王だった。

 王は見た目が大変に温厚で、容姿はスラリと背が高く、白金の短い髪に、母親である前王の妃と瓜二つという顔立ちをされている。そしてランベルセよりも年が上であるが、その容姿のお陰でかなり若々しく、人によっては可愛らしくも映る人だった。ランベルセにとっては、健やかで育ちの良い気品がある若者に見える。

 今宵のそんな主人の顔には、目尻が少し下がった呆れた表情が浮かんでいた。服装も紐一つで締めた白いゆったりとした寝間着姿。仕事が長引いたという装いではまったくない。

「王陛下。本当に大変申し訳ありません。すべて私が至らず」

「そうですよ。お前がこれは自分の仕事じゃない、とか、これならやってもいい、とか、グチグチあーでもないこーでもないと言ってるから、結局、ここに辿り着くまでこんなに時間が経ったじゃないですか。何をやってるんですか」

「面目次第もございません……」

 やはり主人は何もかもお見通しのようだった。自分が真面目に報告書を期日厳守で上げた為、上司はそれを気に掛けたのだろう。休暇中になぜ仕事をしているのか、と。

「もう。そんなに嫌々事件を解決するくらいなら、ボクが地上に行って事件をとっとと解決してあげますよ? ボクは格好良く、快く、るんるんと解決させますから。でも、その事件が思った以上の大っ大っ事件で、解決するのが長引いて。そのせいで明日の天界のお仕事が出来なくなっちゃって。あー、本当はお仕事がしたいのに。涙を呑んで、ボクは仕方無く、王様業を全面休業。いえーい」

「陛下。それは結構です。貴方にそのような御足労をかけなくても、私が迅速、且つ、立派に解決してみせますので御安っ心っをっ」

「えー。ボクも人助けして、英雄になって、ちやほやされたかったのにぃ~」

「はあ。しかしちやほやは、その顔である限り常にされているでしょう。貴方もそれに調子に乗って、愛嬌を振りまきアイドルのように手まで振り、喜んでいるではありませんか?」

「だって、みんなが〝陛下、可愛い~〟とか〝こっち向いて~〟って言うから。つい」

 まさに若い男性アイドルのような笑顔で、部下を見ている上司がいた。

「でも、そういうお前も、そこそこイケメンなのに、いっつもそーゆーブスくれたおっかない顔してるから〝公爵ってコワいわよね~〟とか〝話しかけづらい~〟とか〝陛下が怒られてばっかりでかわいそー〟とか、言われちゃってますよね」

 その可愛い顔に、無邪気な笑顔を貼りつけ嬉しそうにこちらを見ている。対する自分は、まあその上司が言う通りの表情になっているだろう。眉間に皺が寄っている自覚もある。

「しかし陛下。私の方が一つ多く、悪口を言われています。そして最後の三つ目のセリフは、貴方が勝手に付け足したものでは」

「えへ。バレました?」

「ええ。バレますね。と、いう事は。私に怒られるような事を、もう既になさっているのでしょうか? 例えば、私が休暇で神殿に居ない事を良い事に遊び回っている、だとか」

 途中から膝を折って話を聞くのもするのも意味が無く感じられたので、ランベルセは主の前に堂々と立った。そして上司を軽く睨むように見据えた。

「あれ? どーしてボクの行動が、休暇中のお前にわかっちゃうんですか? 見てたの? きゃーきゃー、ランベルセのストーカー。変人っ変態っ」

「は? 何をおっしゃるかと思えば。そんな事、火を見るよりも明らかです。私が毎朝、出仕のたびに、貴方は挨拶代わりに〝もう今日はお腹が痛いから帰ってイイですか?〟か〝何となく伝染病に掛かっちゃった気がします。帰ってイイですか?〟とおっしゃり、挙句にしぶしぶ仕事をやらせたら、書類一枚にサインを書くだけで〝は~、今日はもうよく働いた。帰ってイイですよね〟と、おっしゃる毎日。ですから、そのような戯言を聞かされるたびに〝ダメです〟と、厳しく説教を私はしているのです。そんな人物が、数日間、神殿を留守にしている。と、なれば――」

「ボクはお説教されずに、平和な日々を送りましたとさ。めでたしめでたしです。うん。じゃあもうランベルセは、一生休暇してて良いですよ~。その方がボクは、ちょー平和で幸せな毎日を送れます。いえーい」

「そうですか? ならばそうさせていただきます。どうやら人間界でやっている商売の方が、自分の性に合うようなので。結構、稼いでいます」

「へ」

 ここで上司の笑顔がやや崩れ、エメラルドが輝くような透明な緑の瞳を丸くし、虚を衝かれたような表情になる。

「先程、自分は人間界の仕事にも意外と遣り甲斐を感じていると思ったもので。あれはあれで良い仕事をしているな、と」

「えーっそんなーっ。お前がいないと、ボクのやらなきゃいけない決裁書類が溜まって溜まって。もう書類タワーの何か所かで、雪崩が発生してるんですよーっ」

「ですから。それは貴方がやるべきであって、私が居たところで貴方のこなす仕事です」

「でもでも、見張り番の人が居ないとぉ。やる気が出ないっていうか」

「仕事は注意されてからやるものではなく、自主的にやるものです」

「細かいことはいいんですよ。とにかく。だからボク、最近は仕事してません。だって紙束の雪崩に巻き込まれて遭難したらコワいでしょ?」

「そーなんだ」

「そーなんですっ。って、ランベルセったら貴族の公爵なのにオヤジギャグのセンスが光ってます。うんうん、良い返し。ランベルセは本当に良い部下です」

 思わずランベルセはため息を吐いてしまう。この人との会話は、常にこんなもので、そのたびに自分はため息を漏らす。

「いいですか、王陛下。私の休暇が明け、ここに戻ってきた時、日々こなさねばならない書類は一枚たりとも残しておかないでください。さもなくば、本気で私は西園寺鷹一として人間界で頑張ります」

「えー。自分だけ、ボクに約束をさせようとするなんて。そんなのズルいですっ。じゃあボクも、さっき言った事を守って欲しいです」

 無邪気で我儘。本当に困った主人なのだ。

「――ランベルセ。お前も嫌々と言ってないで、とっとと困っている生命を助けて、さっさと家に帰って寝なさい」

「陛下……」

 しかし。結局、向こうの方がこちらの事をよくわかっていた。

 主の言葉に、ランベルセは一気に言葉を失う。

 今回の休暇も「ランベルセの顔を五〇日連続で見続けるのはもう飽きちゃったです。しばらく見たくもないでーす」と言ったから、休まざるを得なくなった。つまり自分は五〇日間、働き続けていた。だからといって自分では不都合を感じてはいなかった。

 しかしアンナをはじめとする家族は心配をし、上司である天界最高責任者も、休まず働く部下に少々呆れたのかも知れない。だから「いいですか、ランベルセ。二〇日間は何があっても神殿に来ちゃダメですよ。返事は?」とおっしゃったのだ。

 自分はそれを無下にした。

 けれど、寛大な主は、ランベルセが邁進したいと望む事を許してくれた。そういう人なのだ。

「陛下。貴方の御心に私は感謝致します。その御配慮を賜りまして、私は地上へ向かいます」

「もうっ。自分だけお金儲けして、英雄に讃えられて、それなのに上司を蔑ろにする極悪な部下なんて、しばらく顔なんて見たくないでーすっ。あっかんべー」

「ご厚意感謝いたします」

「とっとと行ってきなさい。早くしないと間に合いませんよ」

「……御意」

 主人の厚意を無下にしたにも拘らず、補佐官である自分を信頼し、又、不出来な部分にも目を瞑って重宝してくれている唯一の上司。この方は本当に我儘でどうしようない事を時々言うが、やはり天上どころか他世界をも見守り、あらゆる生命に安穏を約束している偉大な存在。

 だから今日の自分がした決断にも、断りを入れるのは至極当たり前だとパルティシオンは思った。そして今夜限りで、こうした厄介事に関わるのは止めにしよう。彼はそう心に決めた。残された数日はアンナと自分のために。それが主人の望みでもあるのだから。

 主に深い感謝を心に懐き、彼はすぐに目的の場所へと移動した。

 
 ――――――――――――――――――
 

 事件は意外と厄介ではあるが早急に片付けねばならない。だから以下の事を考慮し、すぐに動いた。

 その一、魔術師組織のアジトの特定
 その二、敵となる相手の数
 その三、ボスと側近の強さ・特技
 その四、残務処理の段取り

 従弟の事務所へランベルセは再び戻った。そして。

「アンナ。すまないがこれから先は……」

「危険な事があるかも知れませんけれど、旦那様にしっかり守って頂けるから安心です」

「そ……そうだな」

 お家に帰りなさい、と言えない自分がいた。

「だが私は、要所で少し確認しておきたい事がある。だから常に傍で君を守る事が……」

「ではイシュール様と悪者がいる場所へ先に行って、大人しくしています」

「そ。そう……だな」

 妻はとても気を遣ってくれている。ランベルセが所用を済ませたい、と言ったら自分は邪魔にならないようにしている。と、言ってくれた。その考えも良い考えだとは思う。

「まあまあ公爵。用があるなら、行ってもらっても俺は構いませんよ。奥さんは自分が責任を持って、ちゃんとお守りしますから」

 従弟は自分を察してくれて、ではなく。おそらく。

「イシュール。私は彼女の事を」

「好きなのは知ってますって。旦那さんですから、そりゃそうに決まってます。でもって、自分が代わりになれない事も分かってますって。だから安心して用事を済ませてきて下さいよ」

「そうではなくっ。これから先は危険が予想されている。だからアンナには屋敷へ帰ってもらおうと……」

「大丈夫ですよ。世界を滅ぼす、かも、知れない剣と悪い魔法使いみたいなのがいる場所へ行く訳ですけど。でも、俺や公爵があっさりやられちゃうなんてことは絶対にありませんから。そんなモンが本当にいたら、とっくの昔に天界のランベルセ公爵閣下に目を着けられて、さっさと滅ぼされちゃってますって」

「しかし」

「じゃ自分で、奥さんにお家へGOHOMEって言ったらどうですか? 言えます? 言えないでしょ?」

「そ、それは」

「だ~から頼れる従弟が、守護騎士になってやるって言ってるんじゃないですか。安心してくださいよ、ランベルセ公爵閣下」

 と、笑顔の従弟と妻に見送られ、彼は一旦、別行動を取ることにした。

 しかし所用といっても、それほど時間は掛けていられない。たとえ従弟が人間の術使いより、遥かに強い力を持ち合わせているとはいえ、実際、剣の威力と魔術師団体のボスとやらの実力は未知数。先程打ち立てた考慮すべき項目の三つ目、その三、ボスと側近の強さ・特技が未だ正確に把握しきれていない。そんな状態で向かう事は些か心配だった。

 その他の考慮すべき点は、殆どがあのオモシロイという術使いから話を聞き出すことが出来たので、クリアが出来た。そもそも敵のアジトの場所などは、オモシロイ氏が始めから知っていた。アジトはこの興信所がある廣瀬市から離れ、隣の天川市を北上し、その隣にある御団子村にある御団子山の麓。そこに広がる山林。その奥地に、森林で囲まれた古びた廃墟と化した洋館があり、その館の地下に魔術師組織は巣食っているらしい。

 そこへ従弟、それからランベルセの妻アンナ、更に「娘が無事なのか心配だっ」と、力を失ったが娘の救出に行くと言ってきかない紳士も同行したいと願い出た。そんな面々が先に向かった。

「アンナは神力が弱いから術が使えない。あの紳士も妖力は最早失ったのでただの人。そしてイシュールはああいった性格。本当に大丈夫なのだろうか……」

 
 

 けれど。ランベルセが所用を済ませ、遅れて洋館へやってくると。

「うーん。こンくらいのレベルだったら俺の術でおねんねさせられます。無傷が一番。人間は健康第一ッスから」

 一足先に洋館へ着いた従弟が、魔術師のボスに傅く下っ端百人くらい(うち、傀儡にされたと思しき者は二十数名いたらしい)を、術によって深い眠りに落し、さっさと陥落。

 次にボスの取り巻き幹部たちが襲い掛かり、それから「やっと戦う気になってくれたのかよー」と、紳士の親戚ネクリアードと呼ばれていた本名、……何て言ったっけ? と、忘れてしまうくらい地味な青年などが襲い掛かってきたらしい。が、そんな彼らも「おいおいおい、そこの若い衆。さっきも命は大事にした方がいいぞって教えてやっただろう」と、やはり従弟の放った神術を一発喰らい、ふっ飛ばされたそうだ。

 そしていよいよボスとの決戦。何が出てきたかと言えば、見た目が最早その地域の最高齢者として表彰を受けるほどに出来上がった老人だったらしい。それが、お誂え向きに真っ黒の裾が長いローブのような服を着込み「かっかっかっかっ」と笑っているのか、それとも単にノドの調子が悪いのか、そんな感じの奇声を上げ、十二、三歳くらいの少女の胸ぐらを掴み現れたのだという。

 だがそこへ。

「くーっ。美味しい所は全部もってっちゃうンすねー、ランベルセ公爵は」

「旦那様、素敵ですっ」

「大天使降臨かっ」

 丁度「すまない、遅くなった」と、ランベルセが姿を現し、且つ、ボスと思しき男のド頭を華麗に踏みつけて、地面へと着地。ボスはそのまま昏倒。結果、少女は見事奪還。

「ん? 敵のボスはどうした。どこにいる?」

「公爵閣下の御足下ッスよ」

 そんな今までの経緯と現状について。従弟が簡単にそんな説明をしてくれたのだった。

 
 

 結果。

「お父さんっ」

「ヒヨリっ」

 念願の親子の再会が果たされた。

「はあ。なんだか、あっさり終わっちゃいましたね」

「何事も事件解決は早急であることが望ましい」

「でも、ボスを踏んでやっつけるのは。マリオじゃあるまいし」

「人間相手に本気の術や剣技などを振る舞う必要は無いだろう」

「ま、そッスけど」

「むしろ残務処理の方がよっぽど手間がかかる。踏み潰して画面から消えるのとは訳が違う」

「確かに。何事も後始末の方が面倒っちゃ面倒ですかね~」

「大丈夫ですよ、旦那様。お片付けなら、わたしもお手伝いできます。力を合わせて頑張りましょう」

「うん、そうしようアンナ」

「はーあー。現金ですね、公爵って」

 妻に励まされたランベルセは、とりあえず周囲を見回した。唐突に人間界の目的地へ出てきた為、現状を把握していなかった。

「しかし何だ? あの巨大な壺は……」

「下には薪で火が焚かれていますね。お料理をしていたのでしょうか?」

 遅れてやって来たランベルセがまず目に留めた物は、赤銅色をした土器のような壺だった。開口部の直径はおよそ一〇〇センチ。そこから濛々と湯気が上がっていた。

「夜食のメニューは煮込み料理。メインは……蛇と蛙、か。この辺の特産品なのか?」

「山からの恵み、自然のごちそうという物なのでしょうか?」

 天上からやって来た公爵夫妻は壺をのぞき込むと、献立の予想が付かず、お互いの顔を見合わせた。

「煮込み料理は、季節が冬であったら人間たちにとって格別かもしれない。しかし蛇や蛙を食べている人間は少数だと思われる。山の幸ならジビエ料理。鹿や猪の方が美味ではないのか? 又は、秋の味覚はマツタケ」

「旦那様。もしかしてこのスープは、この地方の伝統料理なんじゃないでしょうか。他所から来た人に、歓迎の料理として振る舞う物なのかもしれませんっ」

「なるほど!! 人間界では、名物にウマイ物ナシ、と言うらしいから、アンナの言う通りなんだろう。私には明らかに不味そうだと見える」

「そうですねえ。スープの色も紫色になっているし。うーん。もしかして、材料がはじめから腐っている物を使ったのでしょうか?」

「腐った蛙や蛇を入れて客に出すのか、この地方の人間は……?」

「腐った物が名物なのかも知れません。でもわたしには、とても不思議な歓迎の仕方に見えます。たとえ名物であっても、腐っている物などを出しては失礼ではありませんか?」

「いや。この地上には、腐った豆を名物にしている地域もある。あながち失礼でも無いんだ」

「まあっ。ではこのお料理も、この場所では普通のことなのかも知れませんね」

 続いて夫妻は、壷から少し離れた岩で出来ている横長の台座の方へと移動した。

「見てください、旦那様。この台の上には、杯が六つほど並べられています。本日おもてなしをする人のための物でしょうか。あら? もう何か注がれているみたいですね。赤いです」

「これは……血か?」

「ええっ!? コ、コップに血? で、でもコップは飲み物を入れるのではありませんか。ということは、誰か血を飲むのでしょうかっ!?」

「うーん。血液は主に鉄分と水だ。それを美味だと感じる者は、これまた少数。居るか居ないか分からないレベルの人数だと思う」

 しかも、もし仮に、これが人間の血液であり、尚且つ、一人から抽出したとすれば。この杯が150ミリリットルとして×6。イコール900ミリリットになる。ニホンでケンケツという血を分け与える寄付制度によると、一度に抜ける血液の量は400ミリが限度としている。この杯の量はその倍以上がある。これでは寄付をした生命の命に関わるおそれがある。むしろこんな方法で、血液供給は制度として行っていない。血液を必要とする人間の場合、きちんと献血センターから、心ある人間の提供を受け輸血が為される。直接飲んでも血管へ行き渡る訳では無い。食道から胃へ入ってしまい何の効果にもならない。いや、もしかしたら貧血持ちの人間が、鉄分補給の為に用意をしたとでも……?

「旦那様。人間界は、美味しくない食べ物や飲み物で歓迎するのが、しきたりなのでしょうか? 人間は天上人よりも格式を大変重んじているんですね」

「うーん。人間は、それほど厳粛な種族ではないと思われるが。しかしこれでは、ここへやって来た者に、自分たちが歓迎されていると伝わりにくいと思う。私は厳格さでもてなされるよりも、相手が喜ぶ物を出した方が歓迎されている、と感じるのではないかと思う」

「そうですね……。不味い物を出され、それを歓迎の印と言われても、わたしは困ってしまいます。わたしなら歓迎のおやつは、パンケーキとか果実の飲み物などを出します。それから寛げる場所なんかも提供したいです」

「アンナ、それだよっ。こんな殺風景な場所で、血の入ったコップに、腐った蛇と蛙の煮込み料理なんかを出されても客は喜びはしない。そんな歓迎をする場所は、さびれていく一方だ。それより、もっと明るく雰囲気の良い場所で、例えばオープンカフェのような場所でパンケーキとアップルティなどを振る舞う村。と、いうコンセプトで、地域活性化を計れば、女性や若者がやってくるかも知れないっ」

「素敵です、旦那様のその考えっ。甘い物やホッとする飲み物の方が、たくさんの人に好まれます。そっちの方がわたしも好きです」

「ならば、ここはもうすぐにでも引き払った方がいい。そして新たな土地を用意して、早速、立案した計画を財団の者に手配させよう」

「旦那様、わたしもそのカフェをお手伝いしたいです」

「うん。私も君と一緒に働きたい。いっそのこと田舎で小さなカフェを二人でやろう」

「楽しそう。旦那様……わたし幸せですっ」

「私もだよ、アンナ」

 
 

 新婚夫婦が楽しそうに、イチャイチャ盛り上がっている傍らで。

「ったく。何やってんだよ、お前は。いいか。男なら強さを求めるより優しさを磨け」

「なんだよー。また説教かよ、テメーは。おれは強くなって、最強の魔術師になンだよ」

「あのな。そんな粋がっちゃってる奴は、強くなんてなれないんだぜ。近藤平太ちゃん」

「あーっ。おれの名前、どこで知ったんだよ。ったく。親もだっせー名前付けやがって」

「おいおい。それだってダサくなんてないぞ。ネクなんとかより、よっぽど価値がある。平太ってのは」

「は~? へーた、のどこが良いんだよ」

「分かってないねぇ、お前さんは。平も、太いも、良い言葉だろう。今のお前みたいにツンツンしないで、心が真っ平で広い。そして太く芯を持った生き方をしていけって親が付けてくれたんだろう? まったく。それが今じゃ、こんなっこいわるになっちまって。平太の名前に負けてんぞ、今のお前は。挙句に、ねくりあーど、なんて恥ずかしいあだ名に喜んで。そっちの方がどんなに恥ずかしいか。しっかり考えてみろ。近藤平太」

「な、なんだよ。お、おっさんの説教なんてダッセーの。だ、大体、ジジィ。お前なんて大した事できねーだろーが。そのくせえばって。何なんだよ、強くもねーくせに」

「まったく。本当に餓鬼だなあ。いいか、ちょっとこい。見てみろよ」

 興信所の所長は、従弟夫婦が並んで見守っている台座の傍へとやって来る。

「ここにはな、お前が強くなりたいって言ったせいで、迷惑を掛けられた奴らが大勢いる。お前こそエラそうな事を言ってるなら、そういう連中にちゃんと責任取れよ」

「は? どういうことだよ」

「いいか? よく見てみろ、近藤平太」

 台座の周りには、術で眠らされた何人かが倒れていた。それは興信所の所長が、先程自ら術を掛けたからだった。しかしまだ誰一人として目を覚ましてはいない。

「こいつらは、お前がボスって崇めてる奴に、無理矢理連れてこられたんだろう?」

「だ、だから何だよ。でも、中には自分からくっ付いてきたヤツもいるぞ」

「そっ。まあ、とりあえずそっちの連中はいい。自分の選択で来たんだ。でも無理に連れてこられた奴もいるんだろう?」

「そりゃ、誰も彼もが協力的ってワケじゃなかったけど。でもそれがどーしたって言うんだ」

「どーした? そりゃ、こっちのセリフだ。こいつらは何だ? どうして人間なのに皮膚が鱗になってんだ? この状態こそ、どーした? 何でこうなってるんだ」

 倒れている者たちは人型をしている。しかし皮膚の部分が、所どころてらてら銀色に変色し、質感も薄くて硬い、バリバリとした状態になっていた。

「それはマスターが術で魚と人を掛け合わせて、人の体を魚の鱗で覆わせたんだ」

「はー。やっぱ、俺はそのマスターってのとは反りが合わないな。いいか。こういう事はな、やっちゃいけない事なんだ。わかるか?」

「は? なんだよ急に」

「だから。こういう事をしちゃいけない。そしてその理由。お前さん、わかるか?」

「はっ? 何だよ、急に。そ、そんなの知らねーよ。つーか、そんな理由を知ってるからって、何かの役に立つのかっ。大体、テメーには分かンのかよ。偉っそーに言っているけどよー」

「理由は、両者の間に決して了解が得られないからだ」

 興信所の所長はジッと若者を見据えた。

「な、なんだよ。了解って。意味わかんねーよ」

「だってお前。お魚さんの意思がわかるのか?」

「はっ!? 魚の? んなの、わっかるわけねーだろー。つーか、分かる人間なんているわけねーだろっ」

「だろう? ってことは、誰も魚の意見を聞いてない。ってことは、相手の了承を得ていないってことだろう? そんなやっていいか悪いか分からないのに、勝手にこんな事をしちゃダメだ。生命は例外無く、みんな意思を持って生きている。むしろ死にたくない、そういう本能を搭載して生まれてくるんだ。だから、死に至りそうな事は、誰だってやりたくない。拒否をする。つまり魚の意思を聞いたところで、こんな訳がわからない状態にされるなんて、怖くて、されたいなんて思わないだろう? だから、こんな術は使っちゃダメなんだ」

「でもそれは」

「近藤平太。その名前通りの大きく広い心で、もっとよく考えて行動しろよ。強くなりたいって事は、こういう技が使える事なのか? それって本当に強いって言える事なのか?」

「そ……そりゃ。そりゃそうだろう。誰でも使える技じゃねーし」

「人が使えない技が出来るのが、お前さんにとっては強い事なのか? でもそれは、早い話、派手さが突出してる術とかの事だろう?」

「そ、そんなんじゃ……」

「そうか? ふーん。じゃああとは、いかにもエネルギーをたくさん操れてますっ、て感じのヤツとかの事か?」

「そりゃ、ぶっ放す力が厖大なら、強ぇ術が使えるスゲー魔術師って事になるだろうがっ」

「まあそうかも知れない。デカいエネルギーを放出できる性質。それが備わった一個体、ってことにはなる。でもそれはホントにスゲー魔術師、まして強い人間じゃ無い。いいか? まずスゲー魔術って言うのは……こんな感じの事だろう」

 興信所の所長は、右手の親指と人差し指を「ぱちんっ」と小気味よく鳴らした。すると彼を白い靄のような光が包み、そしてすぐさま晴れた。だがその中から出てきたのは、漆黒の裾も袖も長い衣を身にまとった金色の短髪のガッチリした男だった。しかも彼の右手には、衣と同じ真っ黒の長い柄の、先端には大きな三日月形の黒い大きな刃がてらてらと光っているものが携えられていた。

「テ、テッメーはっ。な、何モンだよっ」

「見たことないか? こういうカッコの奴。お前さんが好きそうな、マンガとかゲームとかで。あとはタロットカードってヤツの十三枚目にいるだろう。俺は、あれと同じ仕事をしている」

「って、ことはテメーは……死神かよ」

「そーゆーこった、近藤平太くん」

「マジかよ」

「マジだな」

 死神。天界では天界執行役てんかいしっこうやくと呼ばれている公務員の一種。主な仕事は人間界でもご存じの通り、死者の運び屋。しかし実際の仕事内容は、かなり細かく定められている。通説通りの、単純に死んだモノの魂を集め、決められた逝き先へ案内する、という事だけではない。

 特に今、こうして人間のフリをし活動をする――天界執行役の部署でも〝特殊行動班〟という特別活動をしている――イシュール・ルドウィンは、通常の執行役とはかけ離れた業務をこなし、又、別格の位置にいる。興信所とそこの所長・藤島辰夫という立場と名前も、その為に用意したもの。人間界における活動拠点の立場と名前だった。

「でだ、近藤平太。俺にはこ~んな事が出来る」

 彼は右手に握った大鎌を振り上げる。すると刃が青い光を放ち、死神は自分の足元に横たわる人々へ向かって横一線に振り切った。その時、刃から青い光の粒が倒れた人間たちへと降り注ぐ。

「ほら。よく見ろよ。今回は出血大サービスだからな」

 降り注ぐ青い光が、倒れた人間たちを包み込む。鱗の肌になっている者や、明らかに他のほ乳類の毛で皮膚が覆われている者が大勢いた。中には、首に目蓋が二つ付いていたり、耳の下に黒鼻の突起がある者までいる。青い光は、そんな彼らの体へ、染み込むように吸収されていく。

「ス……スゲー」

 人間の体が光を取り込み、青い光の膜に包まれている。そんな風に見えている状態の彼らの上に、突然、猫や犬、それからムカデやミミズ、オケラ、アメンボ等が、姿を現した。

 それから死神は、左手を胸の前まで持ってくると、直径が50センチ位の水色の透明な球体をその手のひらの上に浮かべた。中では何種類かの魚たちが遊泳しているのが見えた。

「まったく、ひでぇ事をしやがって。ネコちゃんとわんこの飼い主は、散々探し回ってたんだぞ。みんな家族と同じなんだ」

「……それは」

「とにかく、全員に対して謝れ。お前が術を掛けた訳じゃないにしろ、ボスの命令で誘拐して来たり、魚釣りをしてきたんだろ」

「そ、そうだけど……」

「ちゃんと反省しろ」

「だけど」

「ここにいる無理矢理連れてこられた人間、生き物はお前に迷惑を掛けられたんだ。怖い思いをさせられて、自由を奪われて、嫌な思いをさせられた。お前だって、それに加担しただろう」

「だけど」

「お前な。自分が、そーんな目に遭わされたら、嬉しいのか?」

「嬉しくないけど」

「だろう? 嫌だろ」

「それは」

「だろう?」

「イヤだ……」

「だろう。ここにいるみーんなだって、そうなんだぜ。お前は、そんな嫌な思いをこいつらにさせたんだ。そこンとこを良く考えろ。お前ら人間は、人間以外の生き物を、下等で下劣だと思ってるだろう? だから玩具にでも、実験でも、生贄にでも、何でもして良いと思ってる。今回だって、ちょっと人が使えないような技が使える、って思い上がった奴が、他の生物をたくさん困らせた。そこん所はわかるよな?」

「……」

「お前さんのいう強さってのは、弱いものイジメの手段、じゃないのか?」

「……それは。おれが言う強さってのは」

「あとは、力比べをし、どっちが優れてるのか示したい。おれの力は、こーんなにスゲーんだ、って見せたい。認められたい。強さ、イコール、みんなに褒めてもらいたい。そーゆー事だろう?」

「……」

「でもな。褒められるよりも前に、これじゃ嫌われ者になる。他人に、他の生き物に、迷惑かけて、嫌われる。それとも、嫌われてもいいから強くなりたいのか? それって、本末転倒だろう? 生命から嫌がられる。そんな奴になったら、ただの仲間外れにされて、一人ぽっちだぞ。それでお前は、満足に生きていけるか?」

「……おれは」

「一人ってのは、本当に苦しいものだぞ。近藤平太」

「……おれ」

「思い上がりは孤独の始まりだ」

「……おれには…………嫌だ。独りは」

「だろう?」

 死神は厳しい顔をしていた。が、力無く肩をがっくり落とした若者に「それで良いんだよ」と言うと、わずかにその厳しい表情を少しだけ柔らかくした。

 人間界で興信所の所長をしている死神が担う天界執行役。それは、迎えた死者たちからくり出されるあらゆる問いに対し、何でも答えを持つ回答者。死して間もない生命は、自分の死をすぐには受け入れられない者が大半だった。彼らは「どうして死んだのか」「なぜ死ななければならないのか」「家族はどうしているか」「日記帳は無事か」等の、個人的に鬼気迫った質問をしてくる。その為、天界執行役らは、それらの問いに誠実に応え、齎された解によって死者は心穏やかに天へと召されるのだった。が、勿論。時として死を受け入れられない者もいる。そんな彼らに対し、穏やかに、時には、根気よく諭すこともある。その役目は、本当に粘り強く、そして慈悲を持たねばやり遂げることは出来ない事でもあった。

「イシュール。お前の用件は、もうそれで済んだか」

「ええ。椛澤さんちの柴犬キナコと、近所の喫茶店の店主が飼ってるペルシア猫ボンソワールは無事に見つかりましたから」

 死神の格好をしたまま、興信所の所長は柴犬にしては小柄の茶色いわんこと、ペルシャ猫にしては大柄で貫禄を醸す猫を見つけ、両者を腕に抱えた。だが、ペルシャ猫の方は思いの外、良い重量をしていた為、抱えきれずに断念。その為、現在、少々放心している青年に保護するように言った。

「ってな訳で、へーた。お前、ちゃんとそのにゃんこを家に返すんだぞ。いいな」

「こいつ、凶暴中の凶暴キャットなんだぜー。すぐ、爪立てるし」

「知ってる。俺も何度も噛み付かれてる」

 そんなやり取りをしている死神らの隣に、公爵夫妻も並んだ。これで本当に事件は解決。かと思われる状況の中。全員の視線はある方向に向いていた。