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西園寺鷹一の冒険

初回掲載:2026年7月23日

登場人物

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《第5話 魔術師と選択》(5)‐2

「藤島。君は、現段階で法剣の正体が不明であるから、それを逆手に取り、自分の都合の良いように、その法剣の意義を取るつもりか?」

「そんな風に言ってるつもりはありませんよ」

「法剣と生楙白家の血筋が何であるか、確定していないなら人間界だけの問題とも言えない。だから出撃しても良いのではないか、とでも言いたいのか」

「そこら辺は概ね合ってますケド」

「ダメだ。私が動いていいのは、それが確定的な場合だ。その可能性もある、という段階では動けない」

「ですから。その可能性を探るために、法剣を探しに行くんです。確定させる為に。で、そこでたまたま誘拐された女の子と、オモシロイおっさんの親戚の坊主と遭遇したりする訳ですよ。そんでもって、法剣を調査するのを邪魔しようとする輩から身を守り、うっかり正当防衛しちゃったりするかも知れません。でもそれはもう仕方が無いってことで。敵を殲滅。残念でしたのご愁傷様。そういう感じじゃだめッスかね? いいッスよね?」

「ダメだ。君は何を言っているんだイシュール。君は本当に、切羽詰まると君の上司と同じく少々無茶を平気で言うが、私はそれを認める気など無い。仮に、法剣の調査が必要であるなら、天界の外事局へ明日その旨を申請すべきだ。もしそれが私まで上がってくる案件ならば、後日、私が出向く。そうでなければ私の部下が現地へ赴くだろう。彼らも優秀な外事調査をする」

「あーっ。もうっ。ホントに鷹一さんはガチガチのカチンコチンの男ですねーっ。そーんなカッタル~~イ事を言ってる間にも、ヒヨリちゃんは命の危機にさらされて、へーたちゃんは悪事を重ねるかも知れないんですよっ。それを見捨てるんですかっ。それでも天界王の補佐官なんですかっ。ご立派で正義を示し、あらゆる生命を守り慈しむ天上界のナンバー2の貴人なんですかっ。あー、もう人でなしっ悪魔っ」

「イシュール。人聞きの悪い事を言うな」

「役立たずっ。鬼っ。器が小さいっ。小者っ」

「……藤島。君ももう少し心の修行を積み、冷静で思慮深さを磨いた方がいい」

 例によって、切羽詰まった従弟が〝はやまった〟発言を始めた。これが始まると、しばらく言わせておくしかない。

「旦那様……」

 しかし今日はそれに加え、隣から悲しそうな表情と声も聞こえる。これには本当に弱い。でも涙を呑んで、心の中で「アンナ、ごめん」と百回くらい唱えて自制した。

「貴方の世界の決まりや貴方にも事情があるのは分かる。だがそこを無理を承知のうえで、どうかたのむ。娘を。娘だけでも良いから、ヒヨリを助けるために力をどうか貸して欲しい」

 誘拐された娘の父親からの悲痛な訴え。彼からの誠意。嘘、偽り、ではなく、また、自己顕示欲の為に、天上人を使い魔にするつもりなどは最早感じられない。強い懇願の意思しか伝わってこない。

「ダメだ。私は天界王の補佐官。そして外事長として許可出来かねる」

 それでも鷹一は、表情を崩さずにきっぱり言い放った。

「では逆に問うが。なぜ私を頼る? そこにいる興信所の男でも、充分に貴方の力となるだろう。先程、ビルの屋上で、貴方の甥である術師が放った魔法を消したのはそこの男だ。彼の力も見ただろう。彼の力でも充分、娘を助けることは出来るだろう」

 そう言って従弟の方を見た。彼とて代々騎士を生業としている家系なのだ。しかも実力派で名高いルドウィン子爵家の長子。古くから王家付き親衛隊を仰せつかっている。だから彼自身も剣技に長け、神術も並以上に使える。その実力は天上界でも上位に入っている。だから人間相手に力不足とは考えられない。

「その程度では納得できないのか?」

 鷹一の言葉に、向こうも動じない。目の前の紳士は、従弟の力も見たはずだ。それでも拒むという理由。この男の真意も分からない。

「ワタシは完全に勝利し、最早、あの男を滅ぼしてもらいたい。その為には、そこの男だけでは駄目なのだ。奴はさっきも言った通り、無言で動く忠実な魔道兵器を何百と作る事が出来る。そして望めば、ただの人間を、霊力や魔力の無い人間さえも、他の生物と組み合わせ、化け物に作り上げて挑んでくる。そんな技も持っている」

「人を他の生命と組み合わせる? あの男とやらは、他種間の生物合成が出来るというのか?」

「以前、あの男が見せたものは、まだ犬なら犬を、ヒヨコなら鶏、そして人ならば人同士、男女を掛け合わせるだけに留まっていた。だがあれから日が経ち、奴も相当な力をつけたと聞いた。今ならば、もう他種間でもあり得るとワタシは思う」

「あり得るって……。その集団のボスってのは、自分が持ってる魔力でそんな事が出来るのか?」

 従弟も本気で驚いた表情をしたが、鷹一も内心、さらに疑問が深まった。

「あのようなものは、もう二度と見たくはない。生き物の掛け合わせなど、ただの悍ましい実験の結果だ」

 彼の言葉が本当であるなら、事態は想像以上の出来事が行われている。従弟も腕を組んで考え込む。ランベルセもしばし黙って思考する。

 生物を融合させる、とは。物理的に個体同士を溶け合わせ、別のものへ変化させる。その溶かす為に何らかの力を使い、又、合わせる為にも結び付ける力が必要となる。しかしそんな合成術を、人間が持てる範囲の力で――仮に超能力や特殊能力であっても――そんな術を使えるとは到底思えない。第一、倫理上、個々の生命維持に対する権利が脅かされること。それはあらゆる世界で禁じられている。

「分からねぇな、どう逆立ちしても。おっさん家の血筋もそうッスけど、敵のボスってのは人間なんですかね? そこまで聞くと明らかにヤバい事態じゃないですか、公爵」

 従弟は腕を組んだまま鷹一の方を見た。

「このまま放置って、不味過ぎじゃないですか? どう考えても。早くボスって奴の所に行って、そいつの正体も突き止めた方がいいんじゃないですか。で、ホントの本当に全員が人間同士で、同種間でケンカ、だったら俺も諦めます」

「しかし」

「もう公爵が行かないなら、俺一人で行きます。俺一人で力不足だとしても、頭使って、そんでもって、オッサンだって何か出来るでしょ? だったらもう、ここでクスぶってる場合じゃないですよっ。行って、組織を壊滅して、子どもと他の人間たちも助けますっ」

「しかしイシュール。それは人間に対する過剰な深入り。人間界へ対して過干渉にあたる。君の天界執行役の分からも大きく逸脱している」

「なーに言ってんですかっ!! 職務云々、干渉云々、それよりなにより人命です。人の命、あらゆる命が大事なんですよっ。執行役は生命のために、あらゆる命のために、彼らを助け、彼らを守るのが本懐です。それをしないで黙って見てたら、それこそ俺の上司なら、ブチ切れますよっ。命を粗末にしているヤツを野放しにしたまま指ぃ咥えて黙って見てたンかいっ、あぁんって。それでも執行役かいオマエさんはっ。それでも男かいっ!? って、言われて半殺しにされます。俺だってそう思います。こんなのを見捨てる自分は、自分が許しちゃおきませんっ」


 激昂した従弟は両手を拳にし目の前のテーブルへ打ちつけた。その勢いに湯呑は底を浮かし、隣に座っていた妻から「きゃっ」と小さな悲鳴が上がる。彼の感情で周囲に緊張感が走った。

 それでも鷹一は沈黙をした。

 従弟イシュールの言い分。その正義感は勿論よくわかっている。しかし鷹一自身、ランベルセ自身の担っているものの尊さも大きさも痛感している。天上界では、理は絶対。それを示さんと存在しているのが、天界最高責任者補佐官。それを預かる自分が覆してまでも手助けする意義、意味はあるのか。

「旦那様。あの……無理をなさらないでください」

 自分のすぐ隣で小さな声がした。ともすれば、聞き取れないような、本当に小さなかすれた声だった。見ると胸元に両手を重ね添えている妻アンナが、今にも泣きそうな顔でランベルセを見つめていた。

「パルティシオン様は心が本当にお優しい人です。でもとても厳しい人でもあります。それはご自分にも、そして律しなければならないすべてに対してもです。だから……あの、とてもお辛いと思います。でも、わたしは、そんな旦那様が選んだ事に賛成します。そして応援し、支えます。だから、あの、無理をなさらないで欲しいです」

 妻の声は小さなものだった。本当に、すぐにでも涙を零しそうな瞳をさせ、けれど自分が言いたい言葉をすべて声にしたようだった。

 救いを求める弱き者。挫くべきは悪しき者。貫き通すは己の本懐。そう。己の本懐とは。

「ありがとう、アンナ。私は大丈夫。そして……決断する。今からこの案件に関しては、天界外事が調査案件として引き受ける。指揮は私が取り、調査には私が自ら出向く」

 ランベルセは従弟を見て、紳士の方を向き、それから妻へ静かに微笑んだ。

「公爵、鷹一さんっ。さすが、あんたは真の正義の味方だっ」

「感謝する、翼の人」

「旦那様。よかったです」

 しかしそうと決めたなら、即、動かねばならない事ではあった。

「だがイシュール。私はあくまで外事長としての行動をする。そのためには、この男にも決断を私は求める」

 鷹一は腕組みのまま、こんな時でさえも姿勢が良過ぎる紳士の方を見据えた。

「貴方はこの場で、自らが持つ魔力というものを放棄する覚悟はあるか?」

「私の、魔力を……? な、なぜだっ」

「覚悟を知りたい。貴方が再三、私の正体を云々と騒いでいたが、私は人間界で西園寺鷹一と名乗り活動をしている天上人。その真の名は、パルティシオン・クレイ・ム・ド・ランベルセ。天界の王の補佐官をしている者。それは生命の序列でいえば、貴方より高位にあるもの。ゆえに、そういった存在に何かを乞う場合、善悪の裁定をする。善なる心であれば、誓約の下に貴方の助力となる。如何か?」

「し、しかし。それと魔力を失うと言う話は、些か飛躍しているのでは……?」

 それはそうだと思う。ランベルセ自身も分かりきっている事だった。しかし決まりは決まり。それは示さねばならない、心の裁定、なのだ。

「貴方を含め、一族は魔力と法剣とやらで繁栄してきたと言った。しかしその弊害も、一千年という長きに渡り、一族へ憑いて回った。そして現代。法剣によって大切な家族の命が脅かされる事態となった。しかも、千年間掛け、先祖が積み上げた叡智を以ってしても救えぬという。さて、人間。それが何を示すか。その上、私に願いを乞う事で明確。確かに私は、生楙白家千年の積み上げた叡智と特殊な力以上のものを持つ。

 これにより、この災厄を招いた千年の法剣など、後世に至っても、再び災いを齎す物ではあるまいか。それを鑑み、最早、剣と魔力をここで断ち、唯一、真に大切なものを手にせんが為に生きるべきか。己の持つ力以上に対し何事かを乞うのであれば、その弱き力の放棄を以って、私に今一度、申し立てよ」

「そ、それは……。娘は大切だが。しかし魔力も魔術も生きる糧を得る手段。そして我が一族そのものの証であり、誇りでもあるもの」

「人の世では、魔法で生きる事が全てではない。他で生きてゆく方法はいくらでもある」

「し、しかし……」

「千年の力を棄てる。そこまでしても、私の協力を得て、娘を助けたい。私は貴方の決意を見定め、その結果が手段となる」

「しかしそんなことをすれば、私自身も娘を助けることが」

「貴方が戦わずとも、娘は私が責任を持って無事に連れて帰ってくる。それは約束をする」

「しかし」

「私が提示する条件は変わらない。決めるのは貴方。私の助けが必要ならば私の裁定に従うこと。私はどちらでも構わない。人の親よ」

 そう言ってランベルセは静かに目を瞑った。本来、こんな悠長なことはしていられない。が、こうした圧を掛け、逆に時間を与えず本心を語らせたい。あちらも千年という歴史をすぐに手放せるか。他者には無い特殊な力を棄てられるか。勿論、そんな事をすれば、今までのあらゆる価値観が一変する。そんな数日間はたっぷり悩める問題を、すぐに答えさせる方が酷である。だが人命を優先させたいのなら、まして肉親を救いたいと強く願っているのなら。答えはさほど難しくないだろう。

「……わかった。ヒヨリを救い出せるというなら、アナタが出した条件を呑む」

 男は重々しく厳かな返事を、今も考える様子を見せながらした。

 ランベルセはそれを聞くと、改めて正面をじっと見据えた。相手もこちらを強い視線でじっと見ている。表情も険しい。真剣であることはもう疑う余地はない。

「ではすぐに」

 ランベルセは静かに応え、その後、今度は少し張りのある声で言った。

「――出でよディゼン・ジャ

 その言葉によって周囲の空気が細かく震えた。魔術師の男と自分を挟んだテーブルの上辺りに、碧色の光がチカチカと点滅した。その直後、碧い光が煌いた中空に、今度は碧い光に包まれた豪奢な剣が姿を現わした。

「な。なんという計り知れぬ力……」

 天井の方へ柄の向いた碧い光を纏った剣。それに隔てられるような状態となってしまった男ではあるが、見える範囲で窺えた表情は、驚愕を超え呆然としていた。おそらく、この剣ほどの力であれば、ただの一般人でも何らかの波動は感じられるだろう。

「善なる心。その真価を我が前へ示せ」

 ランベルセは腕組みをしたままで剣に呼びかけた。剣は言葉に対し、より碧く強い輝きを放った。

「相変わらず鷹一さん、術は派手ッスね~」

「綺麗な光ですね」

 従弟と妻はそれぞれの感想を述べながら眩しそうに碧い光を眺めている。

 ランベルセはその碧い光が、目の前の男を包み込んでいくのをじっと見守っている。

「な、何をする……?」

「言った通り。心が善き者ならば自ずと答えが出る」

 この光に包まれしばらくすれば、会話すら出来なくなるだろう。千年以上、血に受け継がれていた力を解き放つ。つまりそれが放棄。男の善なる心が、自らに組み込まれている力を解き放つ。この碧い光はそれを手助けする力。もし、ここでこの男から特殊能力が手放されなかったら、それはこの男の心がそういった心持ちであることを示す。その場合は。

「こ……これは……っ!!」

 剣を隔て見える男は、碧い光に包まれたまま前屈みになって胸の辺りを強く押さえた。それから激しく苦しみ出し、とうとうテーブルの上へ倒れ込んでしまう。

「だ、旦那様っ」

「おいおい。これじゃあこのオッサン、死ぬんじゃないッスか!?」

 さすがの二人も驚きランベルセの方を向く。

「大丈夫だ」

 しかし彼は動かず苦しむ男を見ていた。

 そろそろ何らかの変化が起きてくるはずだった。英雄者の剣(ノアル・ディゼン・ジャ)を使った解除術。それは、どんな生命に対しても、その効果、成果は絶大。と、いうよりも、天界王補佐官の証である英雄者の剣(ノアル・ディゼン・ジャ)は、創造を司る最高神から賜った剣である。その為、ルーツや起源に係る術を使う補助具としては最適な剣だと考えられた。しかも生命の祝福を齎す力も備えている剣でもあった。術を掛けた人間を早々に死に至らしめるような酷い結果へ導くはずも無い。しかしおかしなことに、碧い光に包まれた男は、ただ苦しむだけで、それ以上の変化を見せる様子はなかった。

「……娘を見捨てる気なのか」

 やはり千年という長き歴史で培った先祖伝来の技を使える血脈。それを手放すことに躊躇しているのか。まさか娘を見捨てる気ではあるまい。

「公爵。さすがにホント、ヤバくないですか?」

 いつの間にか従弟が、ランベルセの座るソファの背後に神妙な声をさせ、立っていた。

「と、なれば。この男は娘を見殺しにし、己の魔力を手放したくないと考えたという結果を私へ示したことになる」

「そんな事をするはず無いですって。そう俺は思ってたんですけど。ま、色々な言動は、人間離れしてましたけど。でも娘を見捨てるなんて……」

 従弟の言う通り人間離れした発言というか。むしろ人としてどうか、と思われるような発言ばかりを繰り返していた。

「こんなものなのか。人間……いや。この男の価値観とは」

「あ、あの旦那様。あちらの方、もう動かなくなってしまってます」

 英雄者の剣(ノアル・ディゼン・ジャ)の術だから生命を傷つけないと思っていたが。いつまでも強い力に人間を晒しては、危険な状態を招く。そこは最高神の力といえど、用途を誤ってしまえば薬と同じで命を奪ってしまう事もある。

「ならば。こうするまで」

 ランベルセは立ち上がり「英雄者の剣(ノアル・ディゼン・ジャ)」と愛刀を呼ぶ。剣は彼の声で、一旦、光を収めた。男からも光が引く。その様子を見ながらランベルセは、間近に英雄者の剣(ノアル・ディゼン・ジャ)を呼び寄せ、その柄を手に取った。

 そして刃を下向きにし、大きく振り上げ、テーブルの上で前のめりに倒れた男の背中へ、そのまま剣を突いた。

「きゃーっ」

「こ、こここ公爵っ。い、いっくら我が子を見捨てちゃう人間だからって、無抵抗な人間をあっさり始末しちゃうなんて。あんまりですっ」

「違う。そうではない。これを見ろ」

 男の血がみるみるテーブルに広がっていった。鮮やかな赤、むしろ蛍光灯の光の加減で少し青み掛かっているように見えた。人によってはそう感じるはず。

「はー。紫色じゃないですか?」

「人間さんの中には、妖魔族と近い色を持つ人もいるのですね」

 この男の結論。それは。

「違うよ、アンナ。彼は正真正銘の妖魔。いや。人間の血に妖魔の血が入っている混血種。むしろ彼の先祖の中に妖魔がいた、と考えられる」

 他種間での交配。しかも人間と妖魔族。この男について回る大方の謎がこれで解けると言える。だがそれによって増える謎も出てくる。

「って、ことは。このオッサンが千年前から伝えられてきた剣も魔術も」

「彼は魔力や魔術と言っていた。しかしこの男は未だ妖魔の血が強く影響している混血種のようだ。だから正確には妖力で術を繰り出していた。本人にはその自覚は無いだろうが」

 しかもかなり青み掛かっている血液に見える。そしてこの男曰く、一千年は続く家系。それくらいの期間で、妖魔の血が薄くなりはしない。たとえそれ以降は人間と交配を続けたとしても、人間の血と妖魔の血を持つ場合どちらが強いか。種族によっての優性の法則がある。この場合は人間の方が劣性となる。

 となると。この男へ対する意思確認だけでは、力を手放すことは出来ない。

「然るに。改めて問う。誇り高き妖魔の血よ。その誇りと血脈を受け継ぐ幼き命、どちらを手にして生き逝くか。我が前で篤と示すが良い」

 血の根源に直接呼び掛けを行う。この男が娘の為に力を手放したくとも、先程の優性の法則上、妖魔の血が自らに宿す力を放棄しなければ叶わない。しかし妖魔は妖力を持つからこそ、その種と言える。それを棄てるという事は自らのアイデンティティーを失う事になり、血を誇りと考えている種にとって、絶対に受け入れがたい話といえた。

 しかし天上人と妖魔の位置もまた、天上人の方が上位。男がランベルセに対して願いをするのであれば、その意思を示さなければならない。

『…………コ、ヲ……。タスク……タメ。ソノタメノ…………ケン。…………オヤ……ナノ…………デスカラ』

 少し待つと、何かの意思がランベルセの頭の中へ直接語りかけてきた。それはどちらかと言えば女性のような気がした。

 それに呼応するように、ランベルセの剣から降り注ぐ碧い光に包まれていた男の血も、紫色に発色する。この反応からすると妖魔の血の源は、女性なのだろうか。

『…………ワタシノ…………コラヲ…………。タスケ…………テ』

 すると碧い光に包まれた血から、キラキラと紫色をした光る粒が浮かび上がった。それは血だまりに倒れた男からも浮き上がってくる。それぞれが真珠貝の粒ほどの大きさをしている。そして紫の光る粒は剣の元で一つにまとまると、人の頭大くらいの紫色をした光玉へと成った。

『…………ドウカ……………………』

 その光玉は一瞬、強く紫色に発光する。直後に、球の中で人影のようなものが浮かんで見えた。その姿も女性のように見えた。ほんのわずかな時間でしかなかったので、どんな人であったかまでは分からない。瞬間的に浮かび上がり、すぐに紫色の光の中へ消え去ってしまう。

 その紫の光玉も、輝きながら英雄者の剣(ノアル・ディゼン・ジャ)の中へと自ら入り込んでしまう。

「それを、解、とするのか」

 ランベルセは男から剣を抜いた。碧い光も収め、テーブルの上には紫の血だまりが広がっている。その中に倒れている魔術師だと言っていた男。ランベルセは彼の傷口へ手を当て白い光を放った。それから流れ出てしまった血へ術を掛け、紫色の光へと変化させ、それで男を包む。光はそのまま男の体へと吸収され、真っ青だった彼の顔が普段通りの蒼白い顔に戻った。どちらにしても不健康に見えるが、まあ良しとする。

「ではその善き心と人の親の心に。私は約束をする。必ず娘は無事に連れ帰ろう」

 西園寺鷹一の姿から、再び天使に戻り、ランベルセは立ち上がった。

 だがそうなると付随する厄介事も増えるということだった。

「方々へ尋ね回らなければならないことがまだあるな」