YASOU SHUUTEI NO PURIN TEIDAN

夜送舟艇のプリン艇団

TEXT ONLY EDITION

榛名 暒

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初回掲載2026年9月4日

第6章

「当たり前でしょ。本当に失礼極まりない息子だなあ。自分のお父さんを見くびらないでよねっ」

 見くびる訳は無い。ただ少々頭痛がする。しかし今はその頭痛すら感じている猶予も無い。急いで、しかし、慎重に判断をすべき時だった。

「では、我々が先鋒として、ゼンルさんの場所までの道を、確保すれば良いということですね?」

「手掛かりたる道標は手に入れたから、もうそれは難しくない事だね」

 カルスとアレックスは、ランベルセが導線指標法メトリカト・シリーを施した槍の下へと立った。

「――指し示したる地。幾多の時と空より、我が示せし目的となる地を導引せよ」

 カルスは、頭上に浮かぶ赤い光を小さく宿した槍へ、三色杖を振りかざした。杖の先端からは、槍に灯るものと同色の光がキラキラと発せられ、槍へと流れた。光は、槍に纏わりつくように、全体を赤い光で包み込む。そして槍の前方に、立体的な映像のようなものが浮かび上がる。それは、長い髪と大きな翼で体を覆うような姿で、透明な結晶に閉じ込められているプレンティスだった。

「これは、この槍に血を残した先程の妖魔が、ゼンルさんの姿を見た記録の一番新しいものです。はっきり言って、ゼンルさんを基点に、彼女を求めてそこへ行ってしまえば、すぐに取り返す事は出来るでしょうね、今ならば」

 紅の魔道士は身も蓋もない事を言い出した。しかしそれは、その通りだった。やればできる事。

「そうだね。出来る者が揃った今なら」

「はい。彼女の保護で、我々の目的は果たせます。言わば私たちがやって来た事は、あらゆる意味において、大きな『単なる時間稼ぎ』に過ぎません。向こうへすんなり入り込んで、目的だけを達してしまっても、本当の意味での解決にはならない。天使さんは、きちんとした解決へと導き出したかったのでしょう?」

 カルスが改まって、ランベルセの方を見た。

「いいですか? 私たちも、彼女を助ける為の、いいえ、彼女を助けるという目的で、時間稼ぎをします。最早、ゼンルさんを助けるという事は、やればすぐに出来る事。私にも神力が戻り、魔力はほとんど手つかずに残っています。そして囚われの身になっている方の伴侶もご一緒です。それは本当に、敵となる者など秒殺できる取り合わせ。どんな術師や種族が我々を阻もうと、あっという間に壊滅できます。ですから。お急ぎくださいね、天の人」

 ここにきて、本当の意味で手助けをどの部分でされていたのか思い知らされた。

 自分の組み立てていた策は、プレンティスを助ける、ではなく、執行役の行く末。彼女を、いや、彼女に扮したアレックスを救うことなど、むしろ彼に対してするべきでもない。彼は自分から、救われようと望めば、それが出来るはずなのだ。

 これは再三に渡って、天界王も、そしてランベルセ自身も、言ってきた事。この件は執行役が自ら解決させなければならない事。それは、アレックスもプレンティスも、そしてレイモンドも含めた、彼ら自身で、彼らが事の発端――モ・シーテル・フィ・アルールド・エデカルシアというもの――と、決着をつけなければならない。そう、言い続けてきた。だから天の主は彼らを突き放し、ランベルセも家族からの頼みであっても、プレンティス救出を拒んだのであった。

 悪神でも無しに、まして単独部署の起こした問題。彼らは、自分たちでは手に負えずにこまねいていた。それを何とかして、影から手助けする。それがランベルセの真の目的。夜送舟艇をこちらが乗っ取っているのも、執行役にこれ以上、戦力が必要となる局面を避ける為。ウォルシオム夫妻がこうなっている以上は、戦う余力など執行役達には無い。その為に、ランベルセはこの船を手に入れておいたのだ。

 しかしその目的すらも、目の前の人間は知っていた、と。自分の目的の全容を話しはしないが、どこかで誰かが、自分かも知れないが、何の事も無い言葉と、この奇妙な状況で、全貌を捉え手助けをしてくれたということなのだろうか。

 時間稼ぎとは、現状の一番必要なものだった。執行役と外事局が準備を調え、やってこなくてはならない。その前に、プレンティス救出が、成り行きで、向こうが抵抗し、こちらが応戦しなければならず、まかり間違って、敵を壊滅させてしまうような事が起こってしまえば、ランベルセとしては策の失敗になる。

 何度も言う。これは出来る者が、出来るからといって、すぐに終わらせてはならない問題なのである。

「本当に。ここまでの配慮に感謝の言葉もございません。出来る限りの手を尽くし、最善で終結を着けられるよう。おそらくこれが我らの最後の一打ち。どうぞよろしくお願いいたします」

 ランベルセは右手を胸部に当てて、頭を下げた。

「やはり、面白くて強い術師がいる。ここに来てよかったです」

 紅の魔道士の声だった。ランベルセはその言葉がすぐに理解は出来なかった。と、いうか、考えても理解が出来そうもなかった。

 頭を下げたまま、感謝の念と共に疑問について思考している間に、声がした方で魔力が感じられ、それが一瞬大きくなる。慌てて顔を上げると、赤色の光に包まれたカルスとアレックスの姿が、丁度、消えてしまうところだった。

「大地の神っ」

 声を掛けたが、その時には二人の姿は無くなっていた。宙にアレックスの槍が静かに浮かんでいるだけ。

「君って、本当に間抜けな天上人だよね」

「は?」

「魔道士君は、ずっと、私達のことが気になっていた、というか。君のことを気にしていたみたいだね。私はおまけかな」

「どういう意味です?」

 操縦桿を握っていた父が呆れ顔を息子へ向けた。

「彼は、スゴく強そうな術師が居るからついて行くって、一貫して言ってたんでしょ? それって、君のことだと思ってたんじゃない?」

「は? 私のことですか。しかし私は剣士ですが」

「だから間抜けなんだよね~」

「どういう意味ですか」

「君が剣士だって言い張っても、それに対する努力をしても、そして自分自身が剣士の格好をしている見てくれを作っても。君ってさ、私の子だから、結果的には相当な神術が使える素質はあるって事。だから客観的に見たら、神術使いなの。わかる?」

「え……」

 言われている事がよくわからなかった。自分が神術使い? どこが?

「もう。大丈夫? 君の頭は」

「至って正常だと思っていますが」

「それで正常なの? いーい? 君が神術を使うと、君自身は大した事が無いように思ってるかもしれないけど。でも、はたから見たら〝うわっ。すっげーなー〟ってなる。だから言ったじゃない? 今から神術使いに転向したら、全界で五番目にすごい術使いだ、って。それって、磨くと余裕で一番になれるって事。君って、ホント、わかってないよね~。術使いが格好悪いとか言っちゃってるけど。君自身が格好悪いよ」

 そ、そんな。ここでいきなり、今まで生きてきた自分自身のアイデンティティーを否定されるとは思ってみなかった。

 確かに、自分でも。神術は便利だ、と思って、何の気無しに使いはする。それは悪神と戦いをする時などは、しかし、闘いを自分に有利とする為には当然ではないかと思う。そこに、自分は剣士だからと意地を張り、神術を使わないで戦いをする意味は無い。それに悪神は、意地を張って、退けたり消滅させられるほど手緩い相手ではない。自分自身の最大限の力を発揮しても、勝てるかどうか未知なほど強大で恐るべき力を持っている。

 だから剣術も、神術も使っている。そして威力が強い術だって使っている。使ってはいるが……。

「まあまあ。術使いへの転向の相談は、後でじっくり聞いてあげるから。それよりも、君はやる事があるでしょ? そろそろ、君の親友の、あの暗い子が、更に真っ暗くら~い顔をして、この船に来るんでしょ」

「ま、真っ暗くらいって……」

 父は楽しそうな表情で、様々な事を言ってくる。

 対する自分は、陰鬱な気持ちを抱えた状態に陥った。

 最早これは、子どもに対する虐待か何かなのか。親だからといって、言っていいことと悪いことがあるのでは。いいや。言っても良い。でも、今、言わなくても。父自身が言う通り、後で、良いのでは。

 大体。紅の魔道士、大地の神も人が悪い。あの人は事あるごとに「強い術師が居るから興味がある」だの「強い術師を見てみたい」だの「戦ってみたい」などと、自分より強そうな術使いに興味を示していた。それは当然、敵側に居る、その敵と戦いたいと、ランベルセは思っていた。しかしそれが違うということなのか。

 いや。あの様子から、実際に向こう側の敵にも興味があったに違いない。そして、その強い敵という者と対峙したいとは思っているはず。ただ、途中から。いつからかは分からないが、天上にも、それは当然のことで、強い術師がいる。殊に、父は文句ナシに、しかし、その息子のランベルセにも興味が湧いた、ということなのだろうか。

 これこそ後で、一言、言っておいた方がいい。そう。ルートヴィッヒにしろ、カルスにしろ。

〝自分は剣士の方が格好良いと思うので、立派な剣士です〟

 と。

「パルティシオン。どうしたの? 急に黙って。お腹が痛くでもなった?」

「いいえ。これからの手順を、再思考し、確認しているのです。邪魔はなさらないでください」

「ふーん。慎重だね。でも、いいかも。それくらいしておかないと、何が起こるかわからないから」

「はい」

 何ぶん、相手は手強い。おそらく、敵側にも、これほどの強敵は居ないだろうから。

 とは言え。自分の事と、それに付随する身内の話ばかりに、気を向けている場合でもなかった。

 そろそろ、本当に、本当の重大事案を抱えた者たちがやって来る。彼らが到着した時点で、ランベルセ自身も天上界の主から命じられた事を、忠実に、誠実に、行わなければならない。

「この顛末を。しっかりと見届けよ」

 果たして、自分は何を見届ける事になるのか。そして、大丈夫だと言われた幼馴染みの安否も、心配だった。おそらく彼自身も、何か、思う所があって――妻の身代わりだけではない何かがあり――今は、水晶の塊の中で留まっている。そう考えられるのだ。

 つまり、一体、全体がどのような構造になっているのか。まったく、ランベルセ自身にもその全容を掴むことができなかった。

「――ん。来たね」

 いち早く生命の気配を感じ取った父が何げなく言った。その直後だった。沢山の。様々な気配と力を保った者たち。それが一気に夜送舟艇の先頭に現われた。

 ランベルセはそんな彼らの方をジッと見据えた。その中心。清浄であり、厳か、且つ、静かな流水のような雰囲気を纏った人物に、ランベルセは視点を合わせていた。その人は黒いローブ姿の部下を連れ、現れた人物。彼は、夜明けに見られる群青色のような長い髪を頭のてっぺんに結い、人間界の古いチュウカ国で高官などが礼服として着用していたげんたんという着物を召していた。

夜送舟艇のプリン艇団 第6章の挿絵

「ランベルセ。貴方の依頼通りの事をしたら、彼らがここへ来たいと言ったので連れてきましたよ」

 着物の人物の真横に立つ、爽やかで美麗な若者――妖魔界のミルトス王太子――が笑顔をこちらへ向けた。それに対しては、しっかり謝意を表し、しかしすぐにミルトスの隣、長身の着物姿の男へ視線を戻した。

「霞侶。いや、ユーディア天界執行役最高責任者。一体、どうした。どういう事だ」

 ランベルセは、自分の言葉一つひとつに、重い気持ちが籠っているのを感じつつ、着物の男へ声を掛けた。

 それに対して、沈痛な面持ちを相手はさせたまま「……すまない」と、答えるに留まった。普段の彼は端正な顔をしている。そこに疲労を隠さずに、いや、隠し切れずに浮かべて、目の下にうっすらくまを作っていた。そう。彼は元々、天界の東の端にある、仙人たちが住む場所の出身。生粋の仙人だった。そこに住まう者は、皆、目元涼しく、清楚な麗しさの容姿をしている。だから本来の彼も、『何事も無ければ』、竹筒に入れた水を美酒に変える仙術の使える、ただの仙人だった。しかし、天界執行役としての素質、見込があると、前執行役責任者にスカウトされ、その通りに、執行役の長を務められるほどの人材に育ってしまい、今の地位へとたどり着いてしまった。

 本当ならば、仙人は畑を耕し、暢気にのんびりと桃源郷で生活をしている人種。殊に、彼、永霞侶は使える術も水を酒に変える事しか出来ない仙人。後は、桃の木の世話をし、胡瓜と茄子、茗荷作りが得意という、穏健な仙人だった。

「閣下。お話はミルトス殿下より拝聴させて頂きました。しかし今はお時間が無いとも伺っております」

「リーブス。そうだな、済まない。お前にまで出て来てもらうとは」

「現場に立つのは、かれこれ五〇年ぶり。どうお役に立てるかは分かりません。しかし外事局も人が出払っているため、私と妖精界から定期報告の為に一時帰還をした、ナツメとロックを連れて参上しました」

 落ち着いた雰囲気を纏った灰色の髪を有す若者が、ミルトスの隣で声を掛けてきた。彼は日頃、外事局の窓口に立ち、他部署からの取り次ぎや相談などを担務としている。そして、その彼の隣には、黒髪のランベルセよりひと回り年上に見える女性と、焦げ茶色の短髪をしている若者が「帰った途端にもう事件ですか、外事長」「ったくよー。ホント、相変わらず人使いが荒いよなー、リーブスは」と、ため息と悪態を吐いていた。

「すまない、二人とも。帰って早々に。しかし、局の者にも、出て来てもらいたい案件が生じた」

「本当ならば、サンシャロル様達に来ていただきたかったのですが。この二人が我儘を言って、天上へ一時帰還を申し出たそうなのです。ですから、存分にお二人にはここで働いて頂くことが良いでしょう」

 リーブスは少し表情を崩し、隣の二人を見た。

「折角、妖精王妃から頂いた香油のお風呂に入って、のんびり休暇を過ごそうと思っていたのに」

「俺だって、レイチルの料理を死ぬほど食おうと思ってたのによー。すっかり、しっかり冷めちまうー」

 一方で、五〇日の中期駐留からやっと解放された部下の方は不満の声を上げている。本来ならば、郷里より離れた地の警護に当たっている彼らの言い分に沿ってやりたかった。しかし外事局もこの件に関わり、且つ、危険を伴う事もあるので、少しでも戦力になる者を呼び寄せたかったのだった。

「あれ? リーブス・ヘイブンが出てきたの? 久しぶりじゃない」

「おや。これはこれはルートヴィッヒ大閣下。ご機嫌麗しゅうございます。お会いするのは一〇〇年ぶり。まだまだご健在なのですね、このような野蛮な船を出航させて」

「そう。いいでしょ? それより君だって、内務卿を殴り飛ばして、大左遷された挙句に私が拾ってやったのに、その恩を忘れて天界王補佐官代行を勝手に辞めて、そのくせ、ウチの息子の部下に成り下がるなんて。よくもまあ、天界で図々しく生きていられるよね~」

「いえ。折角の大出世かと思っておりましたが、上司となられた御方の、目に余るような大胆な振る舞いに、器の小さな私がついて行けなかっただけ。あのまま、当時の王補佐官の下に居ては、半狂乱になり、天上の半分を滅亡させていた事でしょう。いやいや。ただただ自分の小ささに不甲斐無く思う次第ですよ、前・天界最高責任者補佐官大閣下殿」

 リーブスは若く見える。しかし、実際はランベルセよりも年が上だった。だから落ち着いた雰囲気を纏っている。だが、若かりし頃はかなりの武闘派。そして頭も切れた。だから天上界の内政に関わる仕事をしていた。けれど、当時も今も、そこに関わる重鎮たちは保守派の年寄り。しかも貴族階級が多く占めている。リーブスは一般階級の出身。そこで対立構造が生まれると、頭も良かったが、若さもあって頭に血がのぼった彼は、どこぞの貴族の当主を殴り飛ばした。しかも数名。

 普通なら、そこで結構な罰なり、投獄なりをされるところ。当時の王の補佐官がその光景に大変喜んだ。勿論、そんな事を大変喜ぶ人など、この世に一人くらいしかいない。ルートヴィッヒ・ランベルセ公爵。別名、本神殿の死神。要らない人材はバッサバッサの首きり屋。当時の天界王補佐官。

 そんな彼にリーブスは気に入られ、いきなりその補佐官の代行の地位を与えられた。本当に異例の大出世。しかしリーブス本人が言うように、あのルートヴィッヒ大公爵などと長く一緒に居られる者など、どの世にもいない。

「リーブス、すまない。そこの人は放っておいて欲しい」

「申し訳ありません、閣下。現在の主人を蔑ろにしたこの態度。何なりとご命令を」

 そして、リーブス自身も良く選別している。歯に衣着せぬ物言いをする相手もいれば、主と認めた者へは手厚い忠誠心。リーブスは右手を胸にあて、うやうやしく頭を下げる。しかし、ランベルセに対するこの態度も、些か、揶揄している? と、見える。考え過ぎかと思いつつ、自分の周りには、こういう人種が多いなと感じつつ、ランベルセは構わず部下の要望を叶えた。

「君たち外事局には、他世界越境法違反者の探査、及び、その該当者が発見された場合、その捕縛を命ずる。又、それと並行し、この天界執行役所有の夜送舟艇の警護も行って欲しい。その為、外事局は二組の編成で行動して欲しい」

 敵の本拠地へ向かう者と、この舟を警護する者。一方は外事局が探査をしているという名目のため。もう一方は、実質、夜送舟艇とその操縦桿を握る者を敵から護るため。

「違反者と思しき者は、現在、複数人確認されている。それらが何人いるのかを把握し、明らかな違反行為に及んでいる者は強制逮捕を許す。己の安全最優先とし、しかし、徹底的に挑んでもらいたい」

 名目上とは、勿論、外事局が空間を超えた犯罪者をひっ捕らえる。そして、その違反案件に天界執行役も関わっている。だから執行役にも同行してもらった。そういう構造に仕立ててある。外事局へは、ミルトスにそう伝言をしておいた。ランベルセは今ここで、改めて、外事局の役割を公言したのだった。

「承知致しました、外事長」

 リーブスは頭を上げた。端正な顔に、理性的で爽やかな表情があった。

「我々、外事局は個々の能力を最大限に尽くし、境界を侵せし者に対し、徹底的に対処致します」

 その言葉に、共に来てくれていた二人の部下は「リーブスがやる気を出したら、わたし達の出る幕なんて無さそぉ」「だよなー。だったら帰らせて欲しいよなー」と、士気が下がった。しかしそんな言葉など物ともせずに、言われた本人は「それならば、組み分けは簡単に決まりますね」と、ナツメ、ロックに笑顔を向けた。リーブスは自分が舟の警護をすると志願し、連れてきた二人の方を敵陣へ行くように言った。それならば二人にも活躍の機会があるだろう、と。

「内輪揉めが絶えないね~、外事は」

「個性的な人材が集まっているだけです。能力の高さと実力はどの部署にも負けません」

「そうなの? でもさ。なんと言っても、君の人使いが相変わらずの下手くそのせいだからじゃない? 我が子ながら」

「親の背を見て育ちましたので。第一、貴方だけには人使いの点に関して言われたくないものですが」

 一体、どの口が言っているのやら。そう強く感じざるを得なかった。

 しかしランベルセはそれ以上の事は何も言わず、部下たちに具体的な指示を出した。リーブス以外、外事局二名は、外事長である自分と共に敵の拠点へ赴くこと。そこで違反者の取り締まりをする。他世界での武装許可、及び、攻撃許可も下した。

「リーブス、すまないがしばし父と共に夜送舟艇の護りに徹して欲しい。未だ敵はこの舟を狙っている。向こうを壊滅させるなりしない限り、安心は出来ない」

「承知しました。もしもの時はあらゆる手段を尽くし、舟とルートヴィッヒ大閣下の安全確保に努めます。ご安心を」

「えー。リーブス・ヘイブンを置いて行くの~。私が敵陣に行きたいくらいなんですけどぉ」

「しっかり務めさせていただきますよ、大公爵閣下」

「嫌過ぎなんですけどぉ~」

 いつになく不満そうな顔をする父。頬をふくらませ、唇まで突き出している。

 しかし当のリーブスは、いつもの落ち着いた表情、むしろ涼しい顔をさせている。又、外事の他二名も「これなら安心して業務に当たれるわね」「俄然、やる気が違うぜ」と、ナツメは細身の銀の錫杖を喚び、ロックは腰に下げている短刀の鞘に手を当てた。