YASOU SHUUTEI NO PURIN TEIDAN

夜送舟艇のプリン艇団

TEXT ONLY EDITION

榛名 暒

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初回掲載2026年9月4日

第5章

 やがて広々とした空間へとたどり着いた。かなり深く降りてきたので、それなりに高い所に天井が見えた。壁は下りてきた階段のところと同様に、切り出した石が敷き詰められたしっかりとした造りになっている。そこに等間隔で術の明かりが灯っていて、かなり明るい場所だった。部屋自体は円状で、その中心に、妖魔王が話していた石で出来た小さな祠が台座の上に置かれていた。

「確かに、大地の力を感じる……」

 祠の中からは、かなり強い神力が感じられた。初代六源神の大地の神が、自らの力を結晶化させ、妖魔へ贈ったという伝説の輝石。感じている力は、その話通りのものであるとランベルセは確信した。

「トーラが言うには、リドールのせいで一度荒んでしまった妖魔界の大地を浄化するために、自分の力を与えたということだが。その浄化も済み、正常な地となって以降も、彼の力は尚もこの世界の大地に恵みを齎し続けているのか」

 如何ほどの昔だったか分からないほどの昔の話。創造を司る神・英雄者が起こした生命の育つ空間に、悪神が邪悪な力をばら撒いた。その結果、空間に存在していた大地が腐り、生命の脅かされる事態が発生。それをもとの正常の地へと戻す為、悪神と戦う定めの六源神・大地の源であるトーラが、奴を撃退し、大地を清らかな力で浄化した。しかし、浄化にはかなりの時間が掛かり、大地が元に戻るまでは幾年月も掛かった。

 そして再び、生命が住めるようになったのだが。また、あの厄介者が害を齎さないとも限らない。そこでトーラは、悪神が滅びるまでは自分の力をその空間に置いて、大地を守り続ける、と大地の神力を結晶にした。それを空間の長へ渡したという。

「それが、この輝石という訳か」

 ランベルセは祠の前にまで歩み寄った。しかも、祠と言うより、石で出来た四角形の箱。妖魔王ファイゼンが言う通りの、箱の正面をくり抜いただけのものだった。

 その中に、黄金の光が中心に宿っている球体が窪みに置かれていた。大きさは直径一〇センチほど。

「一度盗まれたかも知れないにも拘らず、かなり不用心な管理体制だな」

 彼はそれに手を伸ばした。そして触れようとした寸前に「――公爵。ランベルセ。聞こえるかい」と、耳元で声がした。

『もしもーし。聞こえますっ、かー』

 妙な呼びかけだった。しかしこんな呼びかけをするのは、決まっていた。

「レゼッタ殿ですか。いかがされましたか」

 彼が先ほど渡してくれた耳飾りから、声が聞こえてきた。しかも携帯電話よりも鮮明な音で聴き取りやすい。

『ランベルセ公爵。人間界は思っている以上に、大変な状況だよ。急いで何らかの対策を講じないと不味い。僕からはそう見える』

「具体的な状況は?」

『雨と風がとても強く、飛行術が使えないほど。そして現在、指示を受けた場所は夜になっている。だから調査をする事もかなり難航しそうだよ』

「そうですか」

『ただ、この雨風は神力で気象の変化を呼び寄せている感じだよ。現象は自然に発生しているようだけど。その現象を引き起こすために、この世界に取り巻いている気体を、術を使って故意に誘導しているようなんだ』

「なるほど」

 敵も何かを考え、動き出したということか。夜送舟艇を無しに、何かを実行する。もしくは、夜送舟艇は自分たちの物になる、と過信し、自分たちの計画を進めているのか。

「レゼッタ殿。石と化した者は、上空で留まっているとは思えません。悪天候の中を申し訳ありませんが、地上を探って頂けないでしょうか?」

『それは構わないよ。ただ、この気象状態が続くと、住んでいる人間たちにも、危険が及ぶかもしれない。そのうち、この辺りも、山の斜面が緩んで土砂が崩れ、森の木々が倒されてしまう嫌いがある。人が住んでいる街などにも、水や風の影響がきっと及ぶよ』

「わかりました。私も所用が済み次第、人間界へ向かうつもりです。ご報告、感謝します」

『頼んだよ。――ん、ところで。今、公爵はモドメーブフの近くに居るようだね?』

「え? はい。丁度、モドメーブフの輝石を目の前にして居る所。それを一時的に拝借しようと思っているのです」

『え? 輝石を持ち出そうというのかい? けれど輝石を他所へ持って行くと、貴方であっても呪われるのでは?』

「違います。これの力を少々、分けて頂きたいのです。三代目の大地の神へ」

『三代目? あ、カルス君の事かい』

「はい。父上が勝手に魔道士殿の神力を召し上げて、神術などを使ってしまったが為、現在の彼は神力が空になっているのです」

 レゼッタ・ガレジィートェの言葉を聞く限り、思ったよりも早く、状況が戦いへと流れていく事も考えられた。それに紅の魔道士には、なるべく早く、神力を取り戻して欲しかった。な人材。それが何よりもランベルセには必要だった。そう。フェレットであっても、レイモンドが唯一、まともだった。その彼を天上界へ帰してしまった今、頼みの綱は、もうカルスしか考えられなかった。

『わかった。それなら、輝石に仕掛けた結界を解くよ。良かった。言ってもらえて』

「は?」

 その直後だった。モドメーブフの輝石が突如、カッとまばゆい光を放った。

「ど、どういうことですかっ」

『防犯用の結界を掛けておいたんだ。だから、その輝石、持ち出そうとした者に、手にした瞬間で石になるよう、今はなっているんだよ。その石自体の力を少し歪曲させてみたんだ』

「そ、そんな。早く、おっしゃってください」

『ごめん。忘れていたよ』

 こ、このお気楽な王子様は……。一般人や、それこそイタズラで触ろうとした子供はどうするつもりなんだろう。

 ランベルセはしばし輝石を見つめた。見た目や、輝石から放たれる大地の神力以外は感じない。しかし、先程も結界で覆われている様には見えなかったし、妖力なども感じられなかった。つまり、レゼッタ・ガレジィートェの術は、上手に隠され、輝石に掛けられていたという事。まったく、本当に最強の妖術使いと言うか、困った人物というか。

『もう大丈夫だよ』

「では、少しの間だけ、お借りします」

『どうぞ。貴方になら構わないよ』

 ランベルセは輝石へともう一度、手を伸ばした。そして、少し躊躇いながらも、輝石を手に取った。

「……温かい物ですね」

 彼の手のひらに、じんわりとした温かさが広がった。その石を持っているだけで、不思議と心が落ち着く感じがした。まるで心が、雄々しい何か、によって支えられているような気にさえした。温かさが自然と心を労わってくれている、そんな気持ちになった。

「安定を司るが大地の神。その齎す神力は、とても心強さを感じさせられるもの」

 ランベルセはその力に、自分も癒される思いがした。だが、この輝石で助けなければならない人はもっと他にいる。その人の所へ急がなければならない。

『では、公爵。なるべく早く人間界へ来て欲しい。僕が出来る事は、石になった生命を見つける事という条件付きだからね』

「分かりました」

 レゼッタ・ガレジィートェの声は、ここで一旦、途切れた。

 ランベルセも体に青色の光を纏わせる。再び階段を登る時間も労力も勿体無い。彼は術を使い、夜送舟艇へと急いだ。


「どうやら、人間界の方でも何かが起こらんとしているようだ」

 船の、しかも医務室として使っている小部屋にランベルセは瞬時に移動した。室内は、なぜか公爵邸の客間くらいに豪華で、足の短いテーブルや、それを挟んで設えてあるソファも五人位は座れるような立派な物だった。その一方にカルスが寝かされ、白御影で出来たテーブルの上ではネズミが座ってカルスの方を見ている。

「プレンティスを攫った者たちが、何かを起こすという事なのかい?」

 そしてテーブルを挟んだ側で、相変わらず顔色を悪くしているアレックスが心配そうにランベルセを見つめていた。ランベルセは、カルスが横になっているソファの背もたれの後ろに、丁度、術で出てきていた。その為、アレックスを見落とす形で「おそらくそうなのだろう」と、返事をした。それから、持って来たモドメーブフの輝石を、仰向けで横になるカルスの右手を握らせた。彼は、目を瞑り、顔をしかめていた。相当な疲労感なのだろう。父の所業に、この三代目の大地の神を気の毒に思いながらも、彼のもう一方の手を右手の上へと重ねた。その状態にしたまま、彼の胸の上へとそっと乗せた。

「とにかく、これで応急処置をさせて頂きます。急がないと、人世が危ないとの報告を受けました」

 カルス当人からは反応が無い。それほどまでに、エネルギーが急激に切れてしまっているのだろうか。むしろ、そんな弱っている人をすぐに戦地へと向かわせて良いものかと、とも思った。

「……これは…………初代の……力では」

 しかし、心配をよそにカルスがしゃべった。なんとか目もこじ開けて「どういうことでしょうか……」と、ランベルセを見上げていた。

「魔道士殿、申し訳ありません。父が後先を考えずに大きな術を使い、貴方へ負荷を掛けてしまい……」

「……いいえ。大地の神ですから……どこの誰からでも……救いを乞われれば……と、言いたいですが。本当に……ルートヴィッヒさんは私の考えの及ばない人物ですね」

「それは私も同じなので……。いえ。今は、あんな人の考察など無用です。時間が無いのです」

「はあ。……しかし、この、なんでしょうね。私に持たせたものは、とても心地が良いものです。何と言いますか。失われた神力が徐々に回復してきます」

 それはランベルセも感じていた。先程までの苦しそうにくり出す言葉が、流暢になってきていた。

「実は、今、魔道士殿へお渡ししているのは、この妖魔界を守るモドメーブフの輝石というもので……」

 ランベルセは、先程までの経緯、そして輝石の力を得てもらい、急いで人間界へ赴かなければならない事、などを簡潔に説明した。カルスはそれを、時々、大きく深呼吸をしなが、静かに聞いていた。

「と、いう事になりました。魔道士殿には、体へ負担が大きい所、大変申し訳ありませんが、次は人世にて一戦交えて頂きたいと思います」

 すると、彼の代わりにテーブルの上から「いいでちゅよ。戦って、あっげマウス~」と、ネズミが勝手に返事をした。

「そこまで、お前が言うのなら仕方がないでマウス。このボクが、引っ掻いたり、かじったりして、敵を退治してきてあげるでちゅ~」

「はあ。しかし、香川さん。私は魔道士殿に頼りたいと思っているんです。貴方では、ちょっと」

「何を言っているんですか。ボクは非常に攻撃的なネズちゃんなんです。なんなら、お前の鼻をこの前歯で低くしてやることだって出来マウスよっ」

「結構です」

 ネズミは後ろ足だけで立ち、なんとなくカラダ全体を反らしている様に見えた。前足も胴体へ付け、人で言うと、腰に手を当てているつもりのようだった。おそらくそれは、えっへん、という得意気を表しているのだろう。

「そうですね。ネズミでは、確かにそれくらいしか出来ないでしょうから、貴方はただのますこっと、というものに専念して頂く方が良いですね」

「ええーっ。折角がんばろうとしていたのにっ。ひどいでちゅ~っ。性格鬼ーっ人格悪魔ーっ。大地の神のいじめっ子~~っ」

「凄まじい悪口ですね。しかも面と向かって」

 そう言いながらカルスはゆっくり体を起こして、ネズミの首筋辺りを左手でつまんだ。右手には光が未だ放たれたままの輝石があった。その上にネズミを乗せた。

「どうですか? この力、スゴくないですか?」

「うはぁ。温ったか……ぬくぬくでちゅね~」

 ハムスターは輝石を腹ばいで抱えるように、ぴたーっと身体をくっつけた。

「その石には、一空間の大地を半永久的に潤せる力が、確かに保たれています。それを身を以って分かるレベルの者ならば、逆説的にこの力を手に入れ、我がものにしたいと思うかも知れません」

 カルスは輝石に視線を落とすと「私の神力も多少、補わせて頂けました」と言って、輝石に張り付いているネズミをまた摘まんで、輝石から引き離した。

「ぬくぬくだったのに~」

「使い捨てのかいではありません。それに元へ戻さないと、石化しますよ。妖魔の呪いで」

「ええーっ。コワいでちゅ~」

「レゼッタ君は正常に戻ってからの方が、とても厄介な妖魔になりましたからねぇ。この石にも、おかしな妖術が掛かっています。術は一応解いてあるようですが、少し不十分のようです。あまり触っていると徐々に石化してしまうかもしれません。解除が中途半端の遣りっ放しのようですね」

「ええーっ。何なんですかーっ、レゼッタ・ガレジィートェは」

「昔は違ったんですけどねぇ~」

 そんな会話をしつつ、紅の魔道士は「危険ですから、元へ戻します。召喚逆転リ・バース」と、黄金に輝く石へ術を施した。直後、石は青色の光に包まれ、そしてサッと消え去ってしまう。

「さて。これで、私も大地の神力を得られました。とは言え、あの石から全て神力を頂く訳にはまいりませんでしたので、しかし、その辺は魔力の方で十分補えます。ですから、戦う事は可能ですよ、プリン船長」

 カルスは左手の上に居たネズミを右肩へと乗せた。それから立ち上がる。見たところ、彼が言う通り回復はそれなりにしているようだった。それは言葉――プリン船長――にも表れている。

「では。大地の神、風の神を前に、この船の船長として僭越ながら御言葉を述べさせていただきます。まずは魔道士殿。私はこの船を人間界へと出向させます。おそらく、レゼッタ殿の報告から考えて、現状、敵側はもう待ち構えているものと思われます。そして、人間界へも何らかの危害を加えようとしています。
 そこで魔道士殿には、敵側との戦いにおいて先鋒をお願いします。人間界の保護に関しては、私の部下、天上界の外事局と妖魔界からミルトス殿下が加わり、対処に当たります。こちらの目的は、あくまでただの人助け。それ以上でも、それ以下でもありません」

「分かりました。私も、とても強い術師がいて、その者に興味があるからついて行く、という事が目的なので。それさえ達成できれば、何の文句もありませんから、結構ですよ」

 そう。ここは、言葉を慎重に選びたい所だった。あくまで、ランベルセも、父に言われた上に、自分も友人を助けたいから、が動機。紅の魔道士カルスの方も、自分が興味が湧くような強い術使いがいるから見てみたい、そして叶うなら一戦交えてみたい、が動機。

 決して執行役を手助けしている訳では無い。それが伝わらなければならなかった。

「では、魔道士殿は甲板に出て頂いて、準備の程をお願いします」

「わかりました」

 カルスは「あ、このネズミさんにも指示を出してあげてくださいね」と、肩に乗せていた小さい丸まっちい毛玉をランベルセの肩へと預けていく。それからドアの傍に立っていたアレックスにニコリと微笑むと「これは貸し借りではありません。私は強い者と戦ってみたい気分になっただけです。以前、そんな事をおっしゃっていた方のようにね」と、扉を開け、軽やかな足取りで出ていった。

「では、香川さん。いいえ、王陛下。引き続き貴方にやって頂きたい事は、一つ」

 肩に乗せられたネズミを右手に移し、ランベルセはそのまま自分の顔の前、目の高さまで持ってくる。自分と王の視線が交差した。

「天上へお帰り下さい。これより先は各部署で対応に当たります。よって、貴方の出る幕は最早ございません」

 ランベルセは静かに言い放った。ネズミはそれに対して沈黙している。

「そして、執行役らの本懐を見届けたいとおっしゃるなら。執務室から篤と。ご覧ください。これより先は戦闘が行われるゆえ、危険でございます。ワタクシは陛下の補佐官として、主の身を慮り、早々に天上へお戻り頂くよう、お願いを申しあげます」

 続けた言葉も、いつもより淡々としていた。そして、そこで彼も沈黙する。

「ランベルセ。そうですか。危険が伴う場所へ行きますか。それならボクは、お前が言う通り、補佐官が主人を心配するというのであれば天界へ帰りましょうか。そこで、お前の連れている外事局の者と、自分たちの種族が罪を犯した事に対する責任の追及へ向かった妖魔の後継者、ならびに、ボクが自ら手持ちにしていた死者の管理者である天界執行役の重責を解決する所を見せてもらいましょうか」

 黙っていたネズミが口を開いた途端。彼を中心に、途方も無いほどの冷たすぎる風がサワサワと部屋の中を抜けていった。そして一気に空間の温度が零下に落ちた。ランベルセは身震いを覚え、耳の辺りが千切れてしまうくらいの寒さに取り巻かれた気がする。

 この冷風は怒りの表れ。現天界王は己が怒りを極限の凍てつく風を以って示されるのだった。決して荒ぶれた風でなく、大風を立てる訳でもなく。ただただ冷たく、そして心底震え上がらせる冷たい風。

 けれどそんなものを、常と、吹かせている訳でも無い。現天界王は、平和こそ天上、ゆえに、天上こそ平和、その言葉の下に、あらゆる生命を見守っている。常春の如く、そよ風のような温和で、初夏に抜ける涼風のような雄々しい人物なのだ。だが一たび、邪悪な神が世界に現われ、生命を脅かす所業に出、暴れ回った時は違う。その時こそ、この怒りに満ちた極限の凍てつく風を纏い、奴の前へ現れ、対峙する。そういう姿。そして滅多にない事だった。

 しかし今。悪神を相手にしている訳でも無しに、ここまでの心持ちへと主はなられている。それほどまで、今回の出来事に、怒りを覚えているということなのだ。

「スタリート様。貴方様の生命へ対するご慈悲に、それを無下にした執行役らへ持たれた怒り。ワタクシめには理解できぬほどの怒りで御座いましょう。しかし、執行役らは貴方様の怒りを髄まで染み入らせ、今度こそ己が本懐を示さんとしている。ワタクシ如きの言葉を以って、許されるはずもない事ですが、どうか、今一度、彼らに本懐を遂げる機会をお与えください。怒りを鎮め、篤と、彼らの命に対する行いを、見守ってやっては頂けないでしょうか。彼らもまた、貴方の見守るあらゆる生命の一つひとつ。御願致します」

 右手を少し高く上げ、一方、ランベルセは自分の頭をゆっくり下げて目を閉じた。

 しばし沈黙が流れる。願いは誠実に、そして、心から思う事。それが大切だと、目の前の人物から遠い昔に教わった。

「……わかりました、パルティシオン・ランベルセ。忠実で、善き誠実な気持ちに、ボクは今回だけは応えましょう」

「ありがとうございます、陛下」

「頭を上げなさい、ランベルセ」

「はい」

 言われて、その通りにすると。ネズミは後ろ足で立ったまま、ジーッと真っ直ぐに部下を見ていた。その表情は動物に変化していて分からないが、主の瞳はぐっと力の有る視線でランベルセを見据えている。

「いいですか。執行役に、汚名を返上させる機会を与えます。けれど、彼らの失態はこれで二回です。もう、後は無いと考えるべきです。そしてボクは、彼らがしっかり本懐を遂げたという報告だけを天で待つことにします。お前が、彼らのそれを遂げる様をしっかり見届けなさい。それをありのままに、帰ってきた時に伝えなさい。わかりましたか」

「王陛下」

「ボクは一切、これから先は感知しません。全ての事の顛末を聞くことだけにします」

 ネズミはそう言って、自ら碧い光を全身から放つ。そして碧い光玉に包まれた状態で、宙に浮かぶと「ボクは神殿で本来の職務に就いています」と、言葉を残し、一瞬ぴかっと強く発光すると、元の天界の王である威厳ある姿を見せると、風をまとわせ消してしまった。

夜送舟艇のプリン艇団 第5章の挿絵

「陛下」

 ランベルセは主の心遣いに感謝はしつつ、本当に本来の業務をしっかりやってくれるのか? と、疑念も抱きつつ、ため息を吐いた。

「大丈夫かい? パルティシオン」

「ああ」

 扉の前で立ち尽くしていたアレックス姿のプレンティスが、一層の心配を抱いた顔でこちらを見つめていた。正直、上司へ進言する事は緊張と根性のいるものだった。まして、王に対して真面な事を願い出ることは、こちらもそれ相応の成果を上げて帰らなければならない。

 しかも今回は自分が何かを遣って退けるのではない。幼馴染みや友人たち、天界執行役らが、天上の主が納得する結果を示さなければならないのだ。

「アレックス。我々も外へ出よう。君にも、陛下がおっしゃられた通り、執行役の本懐を示してもらわなければならない」

「すまない、本当に。これでは、全ての責任を君へ負わせてしまうようなものだ。僕らが本懐を遂げられなければ、それを信じ、僕らにチャンスを願い出てくれた君が責任を取らなくてはならなくなってしまう」

「それは心配ない。私は君ら、天界執行役の者達を信頼している。だから問題無い」

「パルティシオン……」

「気にしなくていい。アレックス、もう時間が無い。行こう」

「……わかったよ」

 ランベルセは幼馴染みに向かって一つ頷くと、二人は部屋を出て、速足で甲板へと向かった。