YASOU SHUUTEI NO PURIN TEIDAN

夜送舟艇のプリン艇団

TEXT ONLY EDITION

榛名 暒

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初回掲載2026年9月4日

第5章

「可能性だけなら何とでも言える。けれど、僕としては、これは大事になるかも知れない。ああ、こんなことになるとは、三代目が心配でならないよ……」

「さ、三代目?」

 唐突にレゼッタ・ガレジィートェから出てきた言葉。ランベルセは、一瞬戸惑った。三代目。と、いう人物は一体、どこの三代目の何を指すのだろう。

「それって叔父さんが一番大好きで本当はずっと傍に居たい三代目の事ですか」

「勿論。それ以外は心配なんてならないよ」

「はあ。まあ、それも極端というか。どうかと思うけど」

 その会話にランベルセも、どこの何の三代目であるか分かった。

「レゼッタ殿。それはつまり、人世が危機であるということでしょうか。三代目とは、輝星の御方殿。彼女が居る世界が危ないと、そうおっしゃるのですか」

 彼の言葉にレゼッタ・ガレジィートェはとても悲しそうな表情で頷いた。

「そうなんだ。しかも、いつもならば彼女の護衛にカルス君が付いていてくれるだろう? けれど今はこの夜送舟艇に乗っている。だから今の彼女は、自分の身は自分で守らないといけない。それどころか、彼女が人間界全体を守ろうと剣を抜くだろう。それはすごく危ない事だ。だから僕がすぐにでも行って、彼女の力になりたいんだ」

「でも、ここから脱走してはランベルセの作戦が成り立たなくなっちゃいますよ」

「だか

夜送舟艇のプリン艇団 第5章の挿絵
ら僕は動けない。悲しい事だよ」

 とても美し過ぎる人の憂いているその顔。愛する人が危機に陥るかもしれないと、とても心配している姿。儚さと麗しさが織り成す芸術品のように見えてしまう。きっと、彼が心底想う人も、さぞかし美麗な方かと思われるかも知れないが、それは大いに違う。隣に並べると、ミロのビーナスとタヌキの信楽焼き、といった感じになる。

 それを想像し、ランベルセは思わず笑いを噴き出しそうになった。かなり的を射ている例えだと自分で思った。けれどそれを言うのはさすがに不謹慎。それに本気で愛していると思しき妖魔に悪い。

 むしろ。

「レゼッタ殿。タヌキ……ではなく、三代目が人間世界を守らなければ、とは。一体、どういう事でしょうっ」

 人間界が危険。それは、この夜送舟艇を狙うホンモノの悪党らが狙っているとでもいうのだろうか。考えてみたら、奴らの真の目的は未だに見えてこない。だからこそ、妖魔界を乗っ取るというようなまどろっこしい事をやっている訳なのだ。

「ランベルセ公爵。僕が天上へ向かおうとしたのは、こうなる事が予見されたからだよ」

「人間界が危険にさらされるということですか?」

「どこの世界であるかは分からない。しかしここまで来たので、探さなければならない物は人間界にと、いうことが分かった。だから人間界が危機だと分かった」

「探し物、ですか?」

「そう。憐れな呪術師だ」

「それは一体……」

 レゼッタ・ガレジィートェは再び神妙な顔になった。しかしこの人物の言っている事は、弟の妖魔王が言う通りだった。彼のペースで話を聞いていると「不思議な力で未来が見通せてしまえる人」と、勘違いを引き起すような内容。一体、何がどうなっているのか。どういう理由があって、そうなってしまうのか。全く分からない。ランベルセもそれを実感した。

 現在の彼が話している、人間界が危機になる。そして探さなければならない呪術師が居る。これでは一体、何を言われているのか分からない。

「レゼッタ殿。貴方がそう思うに至ったのは、モドメーブフの輝石が、祠の台座から落ちていたから、という事を聞いたから。それが発端なのですか?」

「そう。無機である輝石が勝手に動く事は無い。位置を変えるためには、必ず受動的な働きかけがあるはずだ。そして物体が、人の手に触られたり移動をすれば、その痕跡が必ず残るもの」

「それがあった、という事なのですね。だから貴方は気になり、実際に調べたりしたのでしょう?」

「勿論。輝石が普通で無い状況になったのだから、調べに行ったんだ。その結果、普段の輝石が放つ力とは別の、まったく異なる力を放出した跡が残っていた。それから輝石の表面に、何かが蒸発して消えた痕跡が微かにあったんだ」

「何かが蒸発した、跡?」

「そう。妖魔界には存在しない成分が付いていた。但し、一見しただけではわからない。僕は臭いがしたんだ。それから石の表面を指でこすって舐めてみた。するとそれはとても苦くてね。良い感じがしない。あの感覚は人間界で口にした事があった。あの世界の水だ」

「に、人間界の」

 と、いう事はモドメーブフの輝石は、一度人間界へ持ち出された事になる。だが、その事実もさることながら、目の前の美し過ぎる人の行動にもとても驚かされた。気になったから食べてみる。そんな事、大昔の麻薬捜査官がやっていた原始的な手法でしか聞いたことが無い。それを一世界の王族がやってしまうとは。信じられなかった。

「人間界の水はどうも沢山の細かい物質が混じり合っているみたいで、それが僕には苦味に感じるんだよ。でも輝石に付いていたものは、とても苦くて。あの味の水は、空から水の降り注ぐ現象、降雨の水だと思う。しばらく前にそれがたまたま口に入った時に、随分と苦いものが降って来るものだ、と思った記憶があるから。間違いない。同じ味だった」

「叔父さんっ。そうだったんですかっ」

 さっきから黙って聞いていたミルトスもいよいよ大きな声を上げた。

「お、おお叔父さんっ。と、いうことは。誰かが、モドメーブフの輝石を人間界へ持って出た、ということになるじゃないですかっ。そして持ち出した人はどうなったかは分からないけど、でも言い伝え通りなら、その人には神罰を与えられて石になり、輝石は元の場所へと自ら戻ってきた、ってことなんじゃ……。いや、むしろ叔父さんの話通りなら。逆説的に、モドメーブフの輝石が人間界からやって来た、というより妖魔界へ戻ってきたという事になる。そして、石は勝手に移動する事はできないから、妖魔界からやっぱり持ち出した人がいることになる。つまり、伝承通りの事が起こり、その通りの事が輝石にも、盗み出した人物にも起こったって事じゃないですかっ!!」

「うん。ご名答だよ、ミルトス君」

 レゼッタ・ガレジィートェはあくまで落ち着いて話をしている。しかし隣のミルトスは爽やかな顔がどんどんと蒼くなっていった。

「お、おお叔父さんっ。ご名答、なんて暢気に言っている場合じゃないですよっ。そそそそれって、誰かが身を以って、モドメーブフの輝石の神罰は本当にある、という証明をしたことにっ。だ、大事件ですよーーーーっ」

「そうだよ。だから天界に通報をした方が良いって、君やファイゼンに言ったんだ」

「レゼッタ叔父さんっ!! だったら、ちゃんと初めから最後まで詳細に話してくださいよっ。僕らには〝モドメーブフの輝石が台座から転がっている。大変だよ〟って、言っただけじゃないですかっ」

「だから大変な事がおこったじゃないか。あの輝石はそもそも六源神の力そのものの一部だ。一世界の大地を支えている。つまり、それがないと妖魔界の大地が成り立たない、輝石が妖魔界の大地を支配している、と言っても過言ではない物。そんなモドメーブフの輝石に少しでもおかしな事が起こったら、普通は重大だと捉えるべきなんだ。ただ台座から転がり落ちていただけ、だとしても」

「それは……」

 甥は叔父に対して、何も返せずに押し黙ってしまう。

 一方で、ランベルセはなるほど、と感心した。これが父の言っている妖魔の王弟レゼッタ・ガレジィートェの侮るなかれ、といった部分なのか、と。確かに良く見ている。そして少しでも違和感を持てば、自分で行動を起こし、自らで確かめている。

 そして弁えてもいる。

「お話はよくわかりました。これは我らが天上界の長がおっしゃった通り、他世界間で起こった外事案件とも考えられます。妖魔界の中でモドメーブフの輝石が窃盗に遭った場合は、天界は関与をしません。しかし妖魔界の物が人間界へと持ち去られたのであれば、話は別です。しかもこれは人間界へ対する侵攻罪に値する案件になるかも知れない、ということですね?」

「そうです、天界外事局長。人間は基本的に他世界へ自ら渡る術を持っていない。死にでもしない限り。ゆえに人間がモドメーブフの輝石を自世界へ持ち出し、人間界の大地を潤すためにやったとは考えられない。と、すると。人間では無い者が、それをわざわざ人間界へ持って行ったことになる」

「であるならば。一妖魔である貴方がこれ以上、他世界との関与がある案件に動き回って良いのか、と考えた。むしろ自分も動きたいのであれば、手順を踏み、協力をするというカタチで加われば、問題なく動ける、と思われた」

「その通り。異なる世界間で問題が生じれば、必ず天上界の預かり知ることになる。ならば、手間は省いた方が素早く行動できる。しかし事態は猶予の無い、思ったよりも深刻なものだったようだね。申し訳ない」

「いいえ。我々も、と申しますか。私も昨晩、父によって事件解明を要請され、調査の結果で現在に至ります。夜送舟艇が狙われ、ウォルシオム侯爵夫人が人質に取られている。しかし彼女を救い出すためには、彼女の所属する天界執行役、死神たちでやらねばならない。それが我らが主の思し召し。ですから、私は彼女の友人として秘密裏に救出に手を貸しているのです」

「その割りには、実行している作戦自体はとても派手だね。まあ、それが今の天上補佐官のやり方なのかな」

 と、レゼッタ・ガレジィートェは「ふふっ」と、少しだけ小さく微笑んだ。

「そういうレゼッタ殿とて、ただ時間が経つのを優雅に過ごしていた訳ではないのでしょう。ある程度まで、お調べ頂いたのではありませんか?」

 さっきの彼の発言にあった「今の天上補佐官」という言葉。それを使ったからには、自分は『どこぞの誰か』と比べられたということなのだろう。そういう事は、いつの世でも誰の身の上でも起こる事ではある。しかし、少なくとも自分のひとつ前、ふたつ前の補佐官たちは、歴代の中でもとりわけ優秀だった。それらと、レゼッタ・ガレジィートェは幾度となく、剣や魔法を交えていた。彼らと比較されるのは少々、癪だった。

「うん、いや、まあ。少しだけ。けれどそれを詳しく説明する時間は勿体無いから、省かせてもらってもいいかな」

「結構です」

 しかしレゼッタ・ガレジィートェという人は、本当に裏表のない人なので、純粋にランベルセの作戦を「派手だね」と思っているだけのようだった。劣等感からくる僻みだと、つくづく自分の小ささを感じつつ、ランベルセはレゼッタ・ガレジィートェの話の続きを聞いた。

「掻い摘んで言うと、妖魔界で今現在、所在不明になっている者が一人いた。僕は同種族がどこの世界にいるか、すぐに感知できる。それが分からないということは、その者が死んでいるか、又は現状から考えると、石になってしまい、一時的に生命力が大地の力で封じられて停止させられているか、という事だと判断できる。だから昨日のうちに、大地の神と妖力の組み合わされている物が、人間界に落ちていないか、と探してみた。すると居た。案の定、石になった同種族が」

 そして彼は右手の中指と親指をぱちっと弾いた。すると三人で囲んでいるテーブルの中心に、長方形に区切られたメルカトル図法の人間界の地図が浮かび上がる。縦が三〇センチ、横は六〇センチほどの大きさだった。その右の端辺りにある小さな島の真ん中が赤く点滅していた。

「この地図は緯度経度をゼロにしたものですね?」

「そう。だからこの、点滅を地図の真ん中に合わせて拡大すると……」

 レゼッタ・ガレジィートェは左手で地図を撫でると、赤く光る場所が中央に来る。

「これは日本列島ですね」

「うん。そして僕は驚かされたよ」

 それから両手で地図を左右に外側へ引き延ばすように動かすと、地図の尺度が拡大されていった。

「ほら、見てごらん。ここは貴方も知っている場所ではないかな?」

「これは……」

 場所が拡大していくにつれ、そこが衛星画像のように建物や森、道路に至るまでがしっかり分かるようになっていた。しかもそれはとても見覚えがある街。先程まで滞在していた西園寺の屋敷がある広瀬市の隣、天川市だった。

「そしてここには三代目の輝星剣士が居住している場所でもありますね」

「そうなんだよっ」

 途端にレゼッタ・ガレジィートェは、ぶんぶんぶんっと頭を振った。顔も苦悶に満ちた表情で。

「ここには三代目が住んでいて、もしも彼女に何かがあったらと思うと。僕はいてもたってもいられないんだっ」

 とても美し過ぎる人は、胸の辺りを両手で押さえて、非常に憂いの顔をさせた。さっきも見せた愛する人を思い、とても心配している表情。しかし、さっきと同じでミロのビーナスが、なぜタヌキの信楽焼きを心配しているのか。ランベルセには、そこがどうしても理解できない点だった。

 だが実際には、レゼッタ・ガレジィートェの心配している三代目輝星剣士・朝倉奏の住んでいる家からは、赤い点滅は離れていた。むしろそこは、一昨日の晩に大地の神や初代輝星剣士が、夜中に酷い雷が鳴った時に向かった水沢山の麓。広い林の広がっている場所だった。

 つまりランベルセ自身も訪れたことのある所。突然、死者が蘇り、彷徨い出した鉄塔の折れた場所ではないか。

「なんということだ。あそこには、もっと重大な何かがあったのか」

 迂闊だったのかも知れない。午前中に訪れた時、いきなり死霊が現われた。それにかまけてしまい、更に大地の神である紅の魔道士も現れた為、ランベルセはあの場所をもっと詳しく調べる事はしなかった。

 しかしそれこそが、敵の狙いだったのか。勿論、紅の魔道士カルスの出現は、突発的な事であり、考慮には入れない。だから、死霊があの場に現れたことのみを考えるとする。確かに自分は、死霊の出現理由やその目的を考える事に集中してしまった。その為、周辺に対しても、それに関わるようなものばかりを探ろうとしていた。だが死霊出現の理由は、目くらまし。それ以外に関心を向けぬよう、敵側が仕掛けた術。今になりそれが分かった。あの場では情報が少なすぎ、決して解けない出現理由とも言える。

 と、なると。敵にとって、あの場所はこちらの想定以上の重要な場所、なのかも知れない。だからこそ、モドメーブフの輝石を妖魔界から持ち込もうとした者が出でたと考えられる。敵はその石にされた妖魔が居る事も隠したいとも思っている。それを収容する為の時間稼ぎか、それともその痕跡自体を消す為の何かを仕掛ける時間稼ぎか。

 とにかくあの場所は、重大な何かがあると考えて間違いはないだろう。その為に、敵は誰であっても、一刻も早く遠退かせたかった。

「なんにせよ、人世のあの場所を調べる必要がある。そういう事になる」

 ランベルセは腕組みをしながら、自分の顔も険しくなっているのを感じた。

 しかし現状から、この船に乗っている者で人間界へ向かわせて良い人物は居ない。紅の魔道士は神力ゼロなので回復を待たなければならないし、父には夜送舟艇を動かしてもらわなければならない。アレックスの姿のプレンティスに行かせるのも、未だ精神的に余裕がなかろう。そして小動物たちは、はっきり言って役に立たない。かと言って、ランベルセ自身が単身向かう事も、表向き悪党プリン艇団を率いている状況では無理だった。

「仕方がありません。外事局の長として、お二人に頼みがあります」

 外事局の部下たちに知らせ動き出すのでは、時間が掛かってしまう。だからといって天上界の外事長として放っておく訳にもいかない。

「どなたか天上へ赴いて、私の部下へ伝令をして頂きたい。内容は〝人表界に対する非常時対応レベル5〟。外事局の窓口にいる取次役のリーブス、という若者へそれを私からの伝令として言って頂ければ良いのです」

「非常時対応レベル5、ですか? それは」

「リーブスへ伝えた段階で、それを目の当たりにするでしょう。口で説明する事は時間が掛かります。それに、もう一つ、やって頂きたい事もあるのです。だから申し訳ないのですが、お二人で手分けをして当たって欲しいのです」

「もう一つ? 何をやれば良いのだい」

 ミルトスとレゼッタ・ガレジィートェは顔を見合わせてから、揃ってランベルセの方を向いた。

「もうお一方は、直ちに人世へと降り立ち、その赤い点滅が示す場所を調査して欲しいのです」

「調査を? 一体、何を」

「妖力、魔力、神力、などの人間界には存在していない力に関わるもの。それを見つけ出して頂きたいのです。些細な物証でも、痕跡でも、どんな物事でも構いません」

「具体的では無いね。しかし、人間が持ち合わせていない力のあらゆる全ての何か、ということのようだね。案外、たくさんあるのかも知れないよ。ランベルセ殿」

「妖魔であるお二人ならば、そういった気配や感知能力は高いでしょう。どうか、お願いできませんか」

「そうだね」

 レゼッタ・ガレジィートェは、うん、と頷いて「わかった」と返事をした。

「ではミルトス君。君が天上へ向かってくれないかな? 僕だと、他人へ上手に言葉を伝えられない事が多いから。それに大勢の人と関わるのは苦手だしね」

「わかりました。ぼくもその方がいいと思います。叔父さんの方が、色々なものに気がつくし、先入観が無い人だから良いと思います」

 二人はお互いに気を付けてるよう言ってから、ランベルセの方へもう一度向いた。

「天界外事長。では我々は貴方の申し出に応じましょう。僕は人世に着き次第、この道具に声が届くようにしておこう」

 と、1.5センチほどのアーモンド形をした紫水晶の粒が金の鎖の先端についた耳飾りを一つ、テーブルの上へと置いた。

「これは術者である僕の声を、その紫水晶を身につけた者へ届けるようになっている。綺麗だろう」

 だからと言って、術者も同じ物を身に着けなくてはならない物では無く、術者が音の送受信の基点を定める為の道具である、とレゼッタ・ガレジィートェは補足した。煌びやかで品のある宝飾品にしか見えない。それをランベルセは左耳へと付けてみる。見た目ほど重さを感じなかった。

「うん、良い感じだね。見た目も上品で、今の格好がより引き立つね」

 道具を渡してくれた人はにこりと微笑み、喜んでくれた。

「申し訳ありません。相当な迷惑をお掛けした挙句、このような申し出を快く承諾して頂いた上に御配慮まで」

「いいんだよ。天上界には、というより、貴方には数々の気遣いを僕はもらってる。貴方へ力添え出来る事あらば、僕は自分の最善を尽くすよ。ミルトス君だってそうだろう?」

「はい。ここで恩を売っておけば、Edgeの次のライブチケットが、タダでもらえるかも知れないし。俄然、やる気が出ます」

「うーん。君の場合は何か違うような気もするね。自分の利益につながるかも知れないという下心もあるようだけど」

「叔父さんだって、あわよくば、三代目の朝倉さんに会えるかもしれないって動機があるでしょう?」

「そ、そそんなことは無いよ。僕は彼女が危険に巻き込まれないよう、彼女が住んでいる人間界の安全のために働きたいだけだよ。三代目に会えるだなんて。そんな。夢のようなことは叶わないさ」

 一瞬、善い人だ、と思ったが。この美し過ぎる人も爽やかな青年同様に、何か他所の考えが垣間見れた。それぞれに、ちょっと楽しそうな雰囲気を醸し出している。はしゃいでいたり、照れ笑いを浮かべたり。妖魔とは、元来、妖精と近い気質、わりと楽天的な種族であることを忘れていた。

「わかりました、お二人共。外事局長として、今回の件が成功した暁には幾許かの謝礼をさせて頂きます。ですから。迅速に、そして確実に、私のお願いをしっかりお聞き届けくださいますよう、何卒宜しくお願い申し上げます」

 こうして。真面目過ぎて厳しい、と定評の天界外事局長の面を少しだけ晒し、妖魔界の王族の方々を船から追い出すと。ランベルセは、再びプリン艇団の頭目として、次なる行動へと移ることにした。