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妖魔界。その世界はほとんどが広大な森に占められていた。何千という種類の木々が、六源神の恵みを受け、すこやかに生育し、又、その木々たちから多くの動植物が恩恵を与えられ、共存共栄をしている。天上と同様に、空は光の神と闇の神の力が、それぞれ躍動と安穏を与える天恩として交互に均衡を保ち、常にどちらかの祝福で満されていた。それがこの妖魔界の昼と夜だった。
「今日も穏やかな一日の始まりだね、グラウクス・ジェイル伯爵」
安らぎを齎す闇の力が治まり、活力を湧き立てる光の力に役割が移って間もない刻、妖魔界に朝が訪れた頃。高い高い石造りの塔の上から、朝の光を受け、眩しそうに遠くの山々を見渡す人物がいた。しかし、眩しそうに目を細めている人物へ対し、世の人々は著しい眩しさを感じ、まともに見る事が出来ないと思われた。彼こそ美麗すぎる男性だったからだ。
妖魔は元々、男女問わずに美しい容姿をした人型の種であった。けれど、現在、塔の上に立って、朝の風景を楽しんでいる人物は種族の中でも群を抜いて美しかった。王族特有の紫色をした髪は、ひときわ濃く、紫水晶のように光り輝く艶やかさをしていた。それを右肩辺りでゆるく結わえてまとめ、長い髪をはらりと前に垂らしている。そんな綺麗な髪を有するうえ、きめ細やかな白肌に、整った顔立ち。瞳も髪の毛同様に濃い紫の瞳をし、それこそ宝玉で出来ているかの如く煌きを保っている。その上、鼻筋がスッと通り、薄い唇は少し白んで瑞々しい。まるで陶器の釉薬で仕上げられた本当に美術品のようだった。
そんな妖魔の美の象徴は、今日も常時付けている愛用の白いマントに、夜が明ける直前の白んだ空に見えるような薄い透明の紫色を基調にした膝丈まである上着と、白のズボンを着て、塔に立っていた。
そこへ空高くから、灰白色に黄金色が交じった翼の鳥が、優雅に石の塔の縁へと舞い降りてきた。その姿は人間界にも見られるフクロウに近い。ただし、顔や体、羽の灰色掛かっている所は同じであるが、人間界の森で見られるフクロウの茶色や褐色の部分がすべて金色だった。そして大きさもひと回り位は小さい。爪を立て、石の上に留まっている体長は二〇センチほどだった。しかも人語までも喋る。現に――
「畏れながらレゼッタ様。私は歴とした高級妖魔貴族であるフクロウ族のフク爺でございます。気軽にグラウクス・ジェイル伯爵などと呼ばれませぬよう、お願いいたします。たとえ貴方様が妖魔王陛下の兄上だからと申しましても、人の名前を軽っ々しく、渾名で呼ぶ事は、甚だっ下劣極まりなく、このフク爺に対しましても失礼であっりませんかっ」
「う、うーん。そう思ったから、僕は君をグラウクス・ジェイル伯爵、と呼んだんだけど」
「はて? そうでしたかな?」
「そのつもりだったんだけどね」
「そうですか。それは失礼しました」
レゼッタと呼ばれた人は、一旦、フクロウの方を見て、とても綺麗な顔に少しだけ困った表情を浮かべた。それから小さくため息を吐いてから、もう一度朝の景色へ視線を戻した。
ここは大森林に囲まれた石造りの大きな古城が高く聳え立つ妖魔界の中心だった。そしてその古城には、この世界を支配する妖魔王とその一族が住んでいた。現在は王様と第一王子殿下、それから王様のお兄さんが、そこそこの人数の召使いと一緒に暮らしていた。
「あれ? フク爺。今日は午後から城へ上がる予定じゃ無かったの?」
古城の東側に立つ塔。王様のお兄さんが気に入っている場所へ、また一人、今度は爽やかな青年がやって来た。
「これはミルトス殿下。おはようございます。ですから、ワタシはフク爺、ではなく高級妖魔貴族であるフクロウ族のグラウクス・ジェイルです。先程から何度も申し上げているではありませんかっ」
「そうなの? あれ? それって、叔父さんもフク爺をフク爺って呼んだってこと? 珍しいね。レゼッタ叔父さんがそう呼ぶなんて。昔、一度、フク爺の事をうっかりフク爺って呼んで、その時にものスゴく嘴で突っつかれたから、それ以来、まったく呼ばなくなったと思ったけど」
後からやって来た青年も、綺麗な顔立ちをしていた。それにレゼッタという人物を叔父と言うだけあって、目鼻立ちが良く似ていた。違う所は、叔父さんより少しだけ髪の色が青味がかっているところと、叔父さんよりも溌剌とした爽やかさがあった。それに比べると、レゼッタという人は、落ち着いて上品さを醸し出していた。
「そうなんだ。あの時はとても痛い目に遭ったから、以来、フ……と、呼ぶことは怖ろしくて避けているよ」
「軽くトラウマになってますね、叔父さん」
ミルトスと呼ばれた若者は、愛想笑いを浮かべた。レゼッタという人もミルトスの方を見て苦笑いをした。しかし話題の中心に上っている当のフク爺、もとい、グラウクス・ジェイル伯爵は「名前を正確に呼ばぬ事は未だ王族としてマナーがなっておりませんぞ、ミルトス殿下。これでは王太子として恥ずかしいかぎりです」と、翼を羽ばたかせながら若者へわめいた。
「わ、わかったよ、フク爺。今度から気を付けるから。抑えておさえて」
言っているそばからフク爺、と呼んでしまうミルトスに「殿下っ。なってませんぞっ」と、フク爺は彼の目へと移動し、翼を羽ばたかせた。さすがにこれには敵わないとミルトスも「ごめんごめん、グラウクス・ジェイル伯爵」と本名を呼んだ。そして「わかったから大人しくしてよ」と、両手でフクロウをふり払う。伯爵もそれにやっと納得したのか、始めに降り立った塔の縁へ戻った。
「はあ。朝から羽だらけになっちゃったじゃないか、フク……伯爵」
「おや、ミルトス君。服にもマントにもついてしまったようだね。しかし伯爵の羽は金色の装飾のようで綺麗だよ。君の白い詰襟にはよく映えている」
「そうかなあ」
ミルトスも白いマントに、白を基調にした詰襟の上着と白のズボン、それから焦げ茶色のロングブーツを身につけていた。
「でも、あとで羽は『コロコロ』で取ります。ところで叔父さん。今日はこれから天上界へ行って、例の件を相談するんでしょ? 支度をした方がいいんじゃないんですか」
「ああ、そうだったね。わざわざ呼びに来てくれたのかい? けれど僕としては、最早、相談をするだけじゃすまない気がするよ、ミルトス君」
「そうですか? ぼくは、まあ、あまり気にならないけどなぁ」
不安そうな表情に変わった叔父さんに対して、ミルトスは服に付いたフク爺の羽を叩き落している。甥の方は叔父が懸念している何事かよりも、目の前にある鳥の羽の方がよっぽど気になって仕方が無いようだった。
「いいや。ミルトス君。あの件はもう少し真剣に考える必要がある事だと僕は思う」
「そうかなぁ」
そう言っている人物の顔がとても真剣になっていた。
「例の相談というのは、もしや先日の、モドメーブフの洞窟での一件ですかな」
「その通り。グラウクス・ジェイル伯爵の耳にも入っていたのかい?」
「勿論でございます、レゼッタ様。ミルトス殿下の教育係兼、第一の従者である、このグラウクス。事件発生の報告が入ってすぐに聞きました。確か、森の神を祀る洞窟内の祭壇から、神の化身とも伝わるモドメーブフの輝石が転がり落ちていた、という話でしたな?」
「そうそう。洞窟の中にある神を祀る小さい祠から、御神体の翠の宝玉が祠から転がり落ちていたってだけの話。きっと、近所に住んでいる森人族の子ども達がイタズラしただけじゃないのかとぼくは思ったけど」
「うぬぬ。確かに宝玉が祠から転がり落ちていただけですから。まあ、それ程の大事件という臭いはしませんぞ」
「それに叔父さん。あの輝石って、御神体とか云われているけど、本当は六源神の大地の神様の神力を結晶化させたものなんでしょう? その力によって、妖魔界の大地は支えられていて、大いなる恵みも齎されている。言わば妖魔界の大地にとっての活力源みたいなもの。
でもそれだけに限定されている条件付きの神力の結晶。だから、奪ったりしても、自分の妖力に転化は出来ないし、他の何かの動力源にもならない。この世界に置いておかないと、ただの石。しかもこの世界から他所へ持ち出そうとすると、出た時点で持ち出した者は全身が石になる。そして輝石は元の祠へ勝手に戻ってくる。だから持ち去るメリットはないし、妖魔界でも大地の支え以外には意味を持たない。しかもそれは妖魔界の誰でも知っている事だよ」
「そうですなぁ。子供の頃から、皆、誰かしらから聞かされ育つ昔話、のようなものでございますなぁ。ええ、であるからして。祠から取り出してイタズラをする、という粗末な扱いは褒められる事ではございません。んが、しかし。その輝石を用いてこの妖魔界を滅ぼすような大事件には至りませぬゆえ……。レゼッタ様。ミルトス殿下のおっしゃる通り、あまり深く考えずとも良いのでは?」
「そうですよ、叔父さん。あ、それとも。叔父さん、毎日ヒマ過ぎるから、ただ単に天界へ遊びに行きたいだけなんじゃないの? ボクもとっとと人間界に行って、edgeの限定Tシャツが欲しいんだよね~。ああ、一昨日から通販開始したから、インターネットで注文して、今日あたり、人間界のぼくの郵便私書箱に届いてるはずなんだよ~」
「殿下っ。まだ人間界のくだらぬ歌唄い、を追っかけまわしているのですかっ。毎日、えっじ、えっじと。そんな事よりも勉学に打ち込み、剣術の稽古をなさりませんと、立派な妖魔、立派な男子、延いては立派な王にはなれませんぞっ」
「もう伯爵。いいじゃないか。好きな事に打ち込む事だって、善い大人になるためには大切だって王様もレゼッタ叔父さんも言っていたんだから。そうですよね、叔父さん」
「う、うん。まあ、間違いじゃないけど……」
甥の言い分に、どう返事をすれば良いのか言葉をつまらせる。好きな事へ情熱をもって打ち込むことは、たしかに良い事だとレゼッタはミルトスに以前話したことがあった。
「でもミルトス君。好きなことばかりに気を向け過ぎてはよくないよ。しっかり身につけなければならない事と、好きな事はバランスよく、両方を頑張らないとね」
ミルトスにとって都合の良い話の捉え方は間違いである。レゼッタ・ガレジィートェは優しく微笑んで甥っ子に諭した。そして再び、すぐさま表情を硬くし「けれどモドメーブフの輝石は心配だよ。子供の頃からみんなが大事なものだと知っているなら、尚更、子ども達もイタズラはしないと僕は思う」と、ミルトス、そしてグラウクス(フク爺です・笑)をそれぞれ見て言った。
「何か善く無い事が起こらなければいいのだけれど……」
妖魔界の王兄は自分の眉間に少し力が籠った事を感じた。なんとなく自分の顔が強張ったな、と思った時だった。
「――なっ!!」
さっきまで自分が眺めていた方角から、とてつもない力をレゼッタ・ガレジィートェは感じた。今は背を向けている。その背中がザワザワッとした。
「お、叔父さんっ」
「ややっ。な、なんですかっ。あの、巨大な真っ黒い物体はっ」
ミルトスも大きな声を上げ、グラウクス伯爵はバサッバサッと翼を羽ばたかせながら、その場から足を浮かせた。
「あ……あれは、船だ」
レゼッタ・ガレジィートェも振り返る。そして目に入ったのは、自分たちが居る塔から少し離れた上空に、沢山の黒い帆を張り、怪しいほどの艶やかな黒光りをした巨大な帆船が空に浮かんでいた。朝の光に照らされたそれは、重厚感と鮮やかに漆黒の輝きを放っている。正直、格好良いとも思える。しかし船の先頭には、二台並んだ大砲がこちらの方を向いていて、とても不気味だった。もし、そこから弾が打ち出されたら、この塔などはあっという間に吹き飛ばされてしまうかも知れない。
「あーあーあーっ。ね、スピーカーの音、入ってる?」
レゼッタ・ガレジィートェはドキドキしながら真っ黒な船を見上げていると、そこから聞き覚えのあるような無いような男の人の声が聞こえてきた。しかも普通に聞こえてくる自然な声では無く、ザァザァと雑音がところどころで入ったり、無理矢理大きな音に変えているような奇妙な声がした。
「ま、いいや。要は向こうにちゃんと聞こえればいいんだから」
「父上。改造を施したというのは、外部用スピーカーも取り付けたのですか」
「そう。だって、いっちいち、拡声器を持って船から身を乗り出しながらしゃべるのって面倒じゃない。それに落っこちたら恥だし。だから夜送舟艇にスピーカーを搭載したの。便利でしょ?」
「貴方がね」
「そうそう。私が良ければそれでヨシ」
一人目の声は遠い昔に聞いたことがあるような声。しかし二人目の声は、つい最近聞いた事があるものだった。それに加えて、乗っている人物が口走った「ヤソウシュウテイ」という言葉。それにも聞き覚えがある。
「お、叔父さん。あの船は……?」
「多分、死者を天上へと導き運ぶ船。夜送舟艇みたいだ」
「ヤソウシュウテイ? って、なんですか」
ミルトスは顔をしかめながらレゼッタの隣に並んで同じく空を見上げた。
「なんとっ!? や、夜送舟艇ですとっ」
そんな彼らの間に、フク爺が翼を羽ばたかせながら躍り出る。
「話だけならばワタクシも聞いた事がございます。一度に多くの生命が死する時、天上はその移送に大型の乗り物を用いる。それが夜送舟艇というもの。しかしそれは黄金に輝く大きな箱舟。ワタクシの記憶ではそう承知しておりますが」
「じゃあ、現われたのは別物じゃない? 誰が見ても、今、空に現われたのは真っ黒な船だよ」
「そ、そうですなぁ。これは如何に」
グラウクス伯爵の言う通りだった。夜送舟艇は黄金に輝く大きな箱舟。しかし、それが常にそうであるとは限らない事をレゼッタ・ガレジィートェは知っていた。
「いいや。あれは夜送舟艇だよ」
「レゼッタ叔父さんはなぜ、そう思うのですか?」
「それはあの船を設計した人物が乗っているからだよ」
「えっ!?」
レゼッタ・ガレジィートェは険しい表情のまま軽く船を睨んだ。
「ルートヴィッヒ・ランベルセ。またそんな物騒なものを持ち出して、僕に仇でも討とうというのかい」
そして船に向かって、普段よりもやや大きく声を張り上げた。
すると漆黒の船から「そうだよ、レゼッタ・ガレジィートェ。私はね、いつ如何なる時でもお前の首を狙っているんだ。邪悪な白き妖魔め」と、ひと際、大きな声とキーキーッと耳障りな奇妙な雑音が、妖魔界の大空にこだました。
それから船の先頭に並ぶ二本の大きな筒が、ウインウインと音を鳴らしながらレゼッタたちのいる塔へと向きを合わせたのだった。
「お、叔父さんっ。あの船、明らかにこっちを攻撃しようとしてませんかっ」
「ルートヴィッヒ・ランベルセが居るようだから、絶対、そうするつもりだと思う」
「な、ななんて事で御座いましょう~~っ」
「昔から彼は頭が変だったからね。僕には理解が出来ない事ばかりを言って、最後にはいつも神術で私に攻撃をしてきたんだ」
「そ、それは、叔父さんが変なことを言ったからなんじゃないんですか」
「そうは思えないけど。ルートヴィッヒ・ランベルセの方が狂っていたような気がするよ。まあ、僕もつい最近まで邪神の影響でおかしくなっていたから何とも言えないけど。それでも彼が変だという事だけは、しっかり覚えているよ。もしかしたら、彼の方が邪悪の影響を受け続けて、心がおかしくなっているのかも知れない憐れな生命なのかも知れないよ。今思えば……」
「お、叔父さん。こ、これ以上、無茶苦茶な事を言わないでくださいよ。あっ、ほらっ。大砲がなんか、赤く光ってるっ!!」
「やっぱり言ったとおりだろう? 無抵抗な僕たちにいきなり攻撃をしてくるなんて。やっぱりルートヴィッヒ・ランベルセは頭がおかしいんだよ」
「若っ!! レゼッタ様っ!! こ、こここは一旦、お逃げくださいっ。危険過ぎますぞーっ」
「そうだね。レゼッタ叔父さん、逃げましょうっ」
フク爺は二人の周りを飛び回り、ミルトスもレゼッタの腕を掴んで走り出そうとしていた。たしかに夜送舟艇と思しき真っ黒な帆船の大砲は、大きなエネルギーを溜め込んで、その的をこちらへと向けている。逃げなければならない状況であることは明らかだった。
「いいや、ミルトス君。僕はここに留まるよ」
「な、なぜですかっ叔父さん」
「だって城を守らないと。ここには召使のみんなや弟のファイゼンもいるんだから」
「そ、そうですけど」
「ここで悪い奴に屈して城が落とされたら、妖魔のみんなを誰が守るんだいっ」
「そ、そうかもですけど……」
「だから僕は『戦う』よっ。命を懸けて妖魔のみんなを、この城を、守ってみせるっ」
「えっ!?」
「勿論、ミルトス君やグラウクス伯爵も守るから。君たちはひとまず城の中で身を守っているんだ」
「お、叔父さんっ」
そう言ってレゼッタ・ガレジィートェは、甥の手を優しく腕から放した。それからすぐに右手に自分の愛刀を妖力で喚び出した。右手には、自分達を狙っている船と同じ色をした漆黒の刃の輝く剣が現われる。それをしっかりと握り、ミルトスの前に立ち、改めて空を見上げた。視線の先には、赤々と光を宿した二つの砲台が、今にも凄まじい威力の砲撃をしてきそうだった。
「ちょっとちょっとちょっと、レゼッタ・ガレジィートェ。大人しくお前なんかの話をそのままにしていたら、とーんでもないことを言い出して。お前こそ相変わらず、本っ当ぉぉに狂ってる。嫌な奴だなぁ。絶対に私の手で殺してやるっ」
船からの大声は「目標、極悪妖魔レゼッタ・ガレジィートェッ」と高らかな宣言をした。そして間髪入れず「撃てっ」という叫び声と共に砲口から、ドンッドンッと二発の爆音が上空に響く。その鈍い音から距離も考慮するとすぐにここまでは到達はしない。
だがレゼッタ・ガレジィートェは「いけないっ」と、塔から飛び出し、城からできるだけ距離を取った空の上で両手を広げ「防護壁術」と唱えた。彼の手から大きな力が一気に放出し、妖力で出来た青い半透明の膜が生まれる。彼はそれを自分の前面に張り、そこを中心に四方八方に向かって大きく膜をぐんぐんと張り巡らせていった。下は地面へ、上は出来るだけ空高くまで。左右も、とにかく広げられるだけ大きく張っていった。
「ふーん。やっぱりお前って小賢しいね。会った頃からそうだったけど」
飛び出した砲弾が弧を描いて目標へ到達する。そう見えたかと思った時。飛び出してきた赤い大きな弾が突然、上空で無数の神力弾へと分裂し、ものすごい速度の飛翔弾へと変化した。その早変わりは一瞬で、鉄の大玉が飛んできた、などとのんびり構えていたら、あっという間にそれに撃ち抜かれているだろう。しかも数はおそらく数千発。人など体を散り散りにされ、城も簡単に粉々になってしまう。真っ赤な閃光が吹き荒ぶ大粒の雨のように叩きつけてきた。
レゼッタ・ガレジィートェは妖力で船からの猛攻を間一髪のところで防いだ。そうなる事を予想したからだ。昔もこうした目に、天界の最強と謳われた神術使いに大いに手を焼かされた。
「ルートヴィッヒ・ランベルセ。君は本当に頭のおかしい。けれど、それでいてやっぱり最高の術使いだね」
レゼッタ・ガレジィートェは顔を険しくさせながら、その強力な神力を歯を食いしばりながら必死に堪えた。城と家族らを守るために。