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天川魔法使い協定

初回掲載:2026年7月28日

登場人物

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《第三話 天際の天秤》(3)‐1

(三)

 昨今の天川市における奇怪な事件は、もはやあの二人のせい、ではなくなってきた。

「こ、これは……。何と言って良いのか」

 天川市内でも最高に評判が悪い内科医院・西園寺クリニックに隣接している築六十年の木造住宅の玄関前で。クリニックの医院長をしている是鷹の息子・西園寺鷹一さいおんじたかいつは、丁度鉢合わせしてしまった人物達に顔を引きつらせざるを得なかった。

 時刻は十八時三十分。西日が濃くて眩しい。その濃い橙色に映える「凶悪な人相」をした人物が鷹一を睨みつけていた。いや、睨んではいないのかも知れない。元々が笹の葉のような涼やかな一重の目。お顔立ちは至って端正。ただそのスッと切れ長の目の吊り具合が、人の手でワザとキツネ目を作ったような角度くらいに上がっている。この凶悪な人相に、幼少の頃はひと目見た瞬間で泣いた。今でもトラウマなのだ。

 そのような人物が、自分の父親の家の玄関先で立ち尽くしているように見えた。

 しかも彼の左肩には、茶色い小動物(見間違いでなければフェレット)を乗せ、そして緑地の唐草模様が描かれた風呂敷包みを右手に持ち立っている。服装のみが人間界では良く見かける、白のワイシャツに濃いグレーのスラックス姿。それ以外は、何が何だか理解が出来ない有り様だった。

「パルティシオン。其の方の父は不在なのか」

「え、あ。お、おそらく」

 不在。このボロ家から人の気配は感じられない。普段は他のクリニックとは違い午後二十時まで開けている。しかしそちらも臨時休診のプラカードがクリニックの自動ドアに下がっていた。それを見て「やはり」と思い、鷹一もこの母屋へとやって来たのだ。

 そう。つい先ほど、天上にいても「アレ」の気配がしたのだ。だから天上界で執務をしていた彼は、その確認のため人間界へわざわざ降りてきた。父が「アレ」に対する何らかの行動(首を突っ込む)をしたのではないかと。「アレ」の出現した時点であの人が大人しくクリニックで患者を診ているはずはない。そしてここへ来てみれば、案の定、クリニックは臨時休診。思った通りだった。

 が。しかしそんな状況で、なぜ目の前の人物もこの西園寺家へやって来たのか。しかも風呂敷包みとフェレットを肩に乗せて。とは言え、この人自身に聞くのは憚られた。正直、おっかない。顔が。顔だけ。別に噛み付いたり、いきなり刃物を出して斬り掛かられたりはしない。この人、いや、この方だってあのスットコドッコイ上司の弟。天上界の王の弟殿下。そう。むしろ上司より常識的で理知的で、この人が王様の方がいいんじゃないのか? と内心、思えるお人柄。性格も常識的で、能力だって光の神の三代目。天界王としては申し分はない。

 でも。その御顔。顔の恐さからいったら、今のままの方がホッとするので。結構、パルティシオン・ランベルセからすると。なんとも言えないのだった。

 なので。今の一番訴えたいことは「早く、誰か帰ってきて」。こんな怖い顔の人に、緊張しないでお話するのは無理。自分が天界最高責任者補佐官であっても、天界外事局の局長であり他世界との争いを収める凄腕調停人である自分であっても、この謎の状況を収拾することは「……勘弁してください」と、白旗を上げる状況だった。

「父さん。オレは別にこの姿に慣れている。だから、まあ、不便だけどすぐには困らない」

「いいや。不便というより不憫なのだ。それに凜が激怒している。もうどうしようもない」

 鷹一が手を拱いて(?)いると、フェレットがしゃべった。しかもニホンゴ。しかも少年の声。さらには凶悪な人物に向かって「父さん」。と、いうことは。

「殿下。何か大事が起こったのでしょうか。先刻、第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストの気配を感じました。もしやそれと関係が?」

 彼らの会話を聞き、鷹一の中で湧いていた些細な恐怖と傷心が払拭された。瞬時に戻った冷静さで思考回路が一気に動き始める。

「呪いを受けたのだ。第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストの」

「ヴィ、第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストからっ!? まさかその呪いを受けたのは」

「ああ、そうだ。勇聖だ……」

 と、肩に乗せたフェレットを睨み、いや、おそらく邪神に対しての怒りを露わにしての表情だと思われる顔で、小さな動物の頭を撫でた。

「なんてことが……」

 予想だにしないことが起こっていた。邪神の出現。それは起こることもある。誰も想像していない時に。それが奴の特性のひとつでもある。しかし奴の出現によって、天上界の王族が呪いを受けた。しかも出現してからあっと言う間に、こんな事態が起こってしまった。そこは本当に予測もできないことだった。

 しかし邪神の対処に父は向かったのではないのか。まさかそこで失敗をし、なにやら余計な騒動を巻き起こしたのか。いや。いくらあの父であったとしても、邪神に対して手を抜き、おふざけ対処はしないはず。むしろ、邪神によって父も何らかの危機に陥ったのではあるまいか。心配さえしてしまう。

 けれど父の傍には、妖魔界最強の剣士であり王兄レゼッタ殿もいる。そしてなんだかよくわからない理由で天上界から「しゅっちょーでーす」と、しばらく人間界へ出て行った自分の上司、つまりは天界王もこのクリニックにいたはず。昨晩、大層なお怒りで最高神が王の執務室へやって来た。そのせいで「えーえーっ。人間界行きなんて、メンドーですぅ~」とか言いつつ、こっぴどく叱られ、しぶしぶ人間界へ上司は行かされていた。鷹一も「陛下の仕事が貯まるから、人間界行きは止めて欲しい」と進言をしたのだが。この目の前にいる「人相が凶悪」の妻は、それを「こっちは静かに人間界で暮らせないのよっ」と、鷹一の意見など怒りで斬り捨てたのだった。

 そんなこんなで、現在、この人間界は邪神の分割体の一つが出現したくらいで危機に陥ることはない。天上界最高の神術使い、妖魔の剣士、そして何気に最強の天界王(風神でもある)がいるのだ。

 では、それにも拘らず、なぜ天界王の弟殿下の息子に第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストの呪いが掛かったのか。

「しかし第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストは、隙あらば弱者に何かを容赦無く仕掛けてはくる」

 鷹一はやはり父たちと面会し、事情を聴くまでは分からないと判断した。

 彼は渡されている西園寺クリニックの母屋の鍵を懐から取り出し、玄関を開けると。謎に満ちた来客たちを中へと招き入れ、家主を待つことにした。


 それから五分ほど経過し、玄関の方が騒がしくなった。その間、鷹一は真夏であるのに異常な寒さで満ちている居間と、出されているコタツに二人(一人と一匹なのか)をすすめ、熱い日本茶でも、と用意に取り掛かろうとしていた。尚、この寒い環境(摂氏十五度)は、コタツをこよなく愛する西園寺家の家政夫が、年中無休でそれを楽しむために調えたものである。

 だが、家主の声と「おやっ。このピカピカに磨かれているクツは、公爵のクツだねっ」という声と「なんだかウチの弟とケモノ臭さを感じますぅー」という、誰が帰ってきたのかソッコーで分かる声もした。

「ちょっと。おじゃまします、もナシに勝手に上がり込むなんて。貴族や王族にあるまじき下品な真似してくれるじゃな~い」

 そして居間の襖が開いた。

「は? 父上こそ……」

 と、いつもの必要以上な軽口に言い返そうと、襖の所に立っている人物を見る。だがそこにはいつもの人ではない、しかし、いつもの人が立っていた。

「父上っ。なぜ、若返ってるのですっ」

「は? そりゃ〝サイセンタンイリョウ〟っていう技術を使ったからだよ~。明日から、西園寺ビューティークリニックを開業するの。こんなに若返っちゃうなんて、もうがっぽり儲かるよね」

「なーにーをーっ。やってらっしゃるんでーすーかーっ」

「ったく、うるさいな~。うちの子は」

 つっ立っていた人物は、明らかに息子である鷹一より若い、そして、自分の姿によく似た焦げ茶色の青年だった。まるで医学生か研修医。

「あれれ? それよりも、坊。君の弟と、その息子も、な~んか私みたいに姿を可愛くして来てるみたいだね~」

「ええ~っ⁉ ボクよりも可愛い王族はいませんよ~、おじさん」

 言っている意味がよく分からなかったが、父と思しき青年の後ろから、自称可愛い王様であり、自分の直属の上司が人間界の姿で現れた。

「えー、あー、これは……。もーっ。第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストめ~~~っ」

 と、居間へと入ってくるなり、上司はぷんすこ、と怒りを露わにした。

「なーんてことをしてくれちゃったんですかーーーっ」

 彼は弟と甥の姿を見るや否や叫んだ。同時に、鷹一にもゾゾッとする冷たく邪悪な力が感じられた。コタツの、今まさに上司が向かい合った人物の方からだった。

「くっ。やはりオレにも何かを仕掛けていたのか、あやつは」

 と、言う声が聞かれた。しかも若々しい少年の声が。

「んんんっ。大丈夫かいっ。悪気がするよっ」

 今度は慌てた様子で買い物袋を手に握りしめたこの家の家政夫をしてくれている人物も、部屋へと飛び込んできた。

「こんなザマになるとは。一体。どういうことなのだっ」

 先ほど、凶悪な人相の三十代男性をコタツへ案内したはずだった。しかし、今、そこには彼の息子と同じ年くらい、いや、それよりも少し幼い十歳くらいの少年が肩にフェレットを乗せた状態で座っていた。しかも着ている服がだぼだぼとなっている。これは明らかに、そこに座っていた人物が……。

「ふ~ん。君も若返っちゃったね、おちび君」

 鷹一は、この状況が。もう何がなんだか分からなかった。


 神聖な神の祝福で若返った父。邪悪な神の呪いで若返らせられた天界王家の王子。

「つまり、父上らが第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストと戦い、小学校に巣喰っていた邪神の分割体を退けた、という訳なのですね」

「そう。でも、奴は余興をまだ続けるつもりで何かを仕掛けることを宣言していった。だから私は戦う為に効率が良いから、魔道士君の大地の神の力をそのまま借りて、この姿になっているんだよ。名前はナツタカ。君の弟セッテー。覚えておいてね」

「はあ」

 相変わらず父は、突拍子もないことを思いつき、言い出してきた。

「で。貴方の姿のことはともかく。邪神を退けた結果として、どこかで邪神の影響が出る、という宣告も受けた。その結果が……」

「そう。おちび君とその息子のフェレット君に出ちゃったってことだね。ま、これだけが奴のいう余興とは限らないけど」

「なんということだ……」

 事態は深刻さが増していた。

「ルイ先生。つまりかなり前から第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストは人間界に入り込んでいた、ということなのか?」

「そうだと思うよ。少なくとも、暮坂亞未という子供が紫色の鏡を拾った段階で、その前には三橋慎太という子が接触し、そのせいで彼は痩せ衰えた。まあいつもの通り、こちらが感知できるまではナリを潜めてたって訳だけど」

 それを誰も気づかなかった。ここには、父をはじめ、邪神と戦う宿業を持ち合わせた六源神も複数人いる。妖魔界最強の剣士であり妖術使いの王族もいる。まして、最悪神を劫の昔から追い続けている創造神ですら居る人間界であるにも拘らず。誰一人として気づいていない。これは本当に異常な事態といえた。

「けれどそれは仕方がない事だよ。何べんも言うけれど、リドールはそういう存在なんだ。だから今後も油断をしていると、誰に何が降り掛かるか分からない」

 ナツタカ、と名乗った青年となった父は腕を組み、それ以降は黙ってしまう。

「うぅ。ボクが一番の可愛い天界王族キャラだったのにっ。子供とフェレットの出現で、その地位が危ぶまれちゃいます~っ」

「大丈夫だよっ陛下!! 大人の中では一番可愛い存在に見えるよっ」

「でもでも、総合一位がいいんですぅ」

「うーん。そうすると……難しいかも知れないねっ。子供は子供というだけで可愛い存在、という認識がみんなにはあるからねっ。それにフェレット君は僕が見ても可愛らしい動物だよっ」

「うぅっ。リドール神め~~っ。許せないですぅ~~~っ」

 こちらの発言は、まあどうでもいいとして。やはり問題なのは、天界王弟殿下である人物とその息子に掛けられてしまった呪いを解くこと。そして更なる被害者を出さないこと。但し、父が言うには邪神が何かを仕掛けてこなければ対処のしようがない。

「でもでも、英雄者様は自分の夫と子供を追い出しちゃうなんて。結構、薄情ですぅ~」

「まあ、凜は俺を追い出したというよりも、勇聖を戻すまでは帰ってくるなと言ったのだ。勇聖が自宅で、正確には庭に出ていたらフェレットになってしまった。そしてこのフェレットになるという呪いは、前世からの因果だ。勇聖の前世は皆も承知の通り、大地の神に仕えていた一族の天上人。彼らはリドールの『呪姿』という呪いを受けた一族だ。体力が消耗した宵の口になると、呪いが発動し動物や植物へと姿が変化してしまう。今の勇聖は、その前世に受けていた呪いをこうして現世へと影響を与えられてしまった。と、いう状態だろう」

「えーっ。じゃあ、それって、リドール神をやっつけて、息子を元に戻さないと家に入れてやらないってことじゃないですかーっ。そんなこと、いっくら光の神であるお前であっても、一人で出来るわけないじゃないですかぁ~」

「だから、ここへ来たのだ。阿呆であっても兄とてリドール神を滅ぼす宿業の風神。他にもルイ先生やレゼッタがいる。だから不本意であるが、救助を求めに来た」

 そんな事情ではあるが、しかし、である。

「で~もさ。おちび君。君自身はもう戦力のうちに入れられないでしょ?」

 黙っていた父が呪われた親子を見た。

「ああ。まさか俺自身にまで呪いを掛けてくるとは思わなかった。実際、俺は神力が大きく制限され、火の玉すら作りだせない。姿を小さくされ身体能力も大幅に制限された。この子どもの姿自体が、俺のあらゆる力を全て抑え込んでいる。そんな感覚だ」

「な~るほど。とりあえず君たちは、因果律の逆行、つまり起こり得ないことを起こされ、エラーが起こった訳だよね」

「そうなる。この変則は本来は起こり得ない。だが存在しない存在、この因果法則から外れている奴ゆえに、我々に対し、この呪いが成立した」

「だね」

 父は腕組みをして、天井を見上げた。あれは長考が必要な時のクセ。彼が若い頃もああして考え込んでいたのか、とランベルセは思わず感慨深さを覚えてしまう。現状は至って深刻であるにも拘らず。

「そう考えると、悠長にしてはいられないねっ。来る者を待つ、ではなく、来る者が来たくなるようにする。どうかな?」

 その提案。至極真っ当な答えだった。それを発言したのは作務衣姿のこの家の家政夫を買って出ている妖魔の王族であった。

「しかしレゼッタ殿。アレを、誘き出す、など簡単にゆくとは思えません。すぐにこちらの手の内など見抜いてしまうでしょう」

 良い案であるし、それが出来るのであればそうしたいところ。しかしそれをさせないのが邪神の分割体の狡猾で侮れないところでもある。

「そうなのかい? やっぱり一筋縄ではいかないのが第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストなんだね」

「ただ、レゼッタ殿がおっしゃる通り悠長にしていられないのも事実」

「そうだよっ。おちび君やフェレット君のような、力有る者に対してもこんな風に影響を与えている。そして力弱きニンゲン、まして子供という更に弱い者を苦しめたりもしている。これはとても許せない事だよっ」

 その指摘通りだった。父らが小学校へ向かったのも、苦しめられている存在を救うため。どこかで誰かが苦しめられないと、敵の居所や動向が不明という現状も決して良い訳ではない。

「でも、ですね。ボクは現在、第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストの気配を感じていません。完璧に鳴りを潜めている、ニンゲンに潜んだのか、ニンゲンの姿へ化けたのか、または全く別空間へ移動したのか、空間の狭間、次元の狭間に潜伏しているのかわかりません」

 誰よりも何よりも、悪神に対する感知能力が高いとされている現天界王であり風神でもあるランベルセの上司が、そう指摘する。であるなら、その事実は覆されない。まさに八方ふさがりだった。

「あーっ。ダメだっ。どの案を挙げても、上手くいく気がしない。歯がゆい事だけど、現状、手出しは出来ないし、余計な小細工をしてこっちが撃って出ても、かわされるか、それを利用されてしまうだけだ。無理だね」

 黙っていた父も、とうとう音を上げた。

第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストが出てきたら叩いて呪いを解く。いや。今のこちらの世界には、対リドールの力を持つ、風神、それから大地の神である魔道士君もいる。そして、パルティシオン。君も力、貸してよ」

「は? 私ですか」

「そう」

 父から唐突な提案がなされた。そう。自分は天界王の補佐官ではあるが、決して神という訳ではない。

「君が持っている天界王補佐官の証たる英雄の剣の力を引き出して、呪いを打破する術を発動してみる。と、併せて風神、大地の神の神力も、同時にこの二人へ当てて、試しに呪いを解いてみる。それで、ダメなら、まあもうお手上げ」

 なるほど。たしかに自分が現在の職に就いた時に賜った剣は、リドールと戦う宿業を負う最古神・英雄者の力から成っている。呪いを解く効果はあると、むしろ、風神や大地の神の力を増幅させることもできるだろう。

「まあ、ボクもその案に賛成ですけど。でも。第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストは、今ここに風神であり天界王たるボクがいることも、地上には大地の神であるカルスさんがいることも、そしてランベルセが天上と地上を往き来できることも折紙付で、ボクの大事な弟とその息子にこんな愚かな事を仕出かしてくれているんですよ。やってみて無駄ではないでしょうけど、呪いが解けるとは思えません」

 しばらく黙っていた上司が真顔で発言をした。それだけで部屋の空気は、サーッと冷気で満ちた。本気で上司は怒っているようだった。

「ま、それもそうか。結果が思わしくない、として。それが現状だって分かるとなると、次なる手は『待つ』しかなくなる。坊の言う通りだね」

「ああ、俺も兄ちゃんの言う通りだと思う。解除がそうやすやすと出来るのであれば、この呪いは無意味だ。第一番目の引き金ヴィ・エ・アーストに目的が無いとは思えん。まして光の神を呪い、英雄者の身近でこんな所業をやるのだ。悪質極まりない」

 しかし、父、それから呪いを受けた当事者もやはりじたばたせずに結論を出した。冷たい空気も、物ともせずに。それだけでここにいる人物たちが、どれだけの大物であるのかがよく分かる。緊迫した事態であることに間違いはないが、不思議と安心感はある。

 だから上司の冷気もスッと解除された。そして。

「とりあえず、呪解法を使うのは明日です。カルスさんてば、おじさんに言いくるめられて自分の神力をけっこう使っちゃったみたいですから。一晩寝て、元気になってもらって参加してもらった方がいいです」

「まーね。どさくさまぎれに、搾り取れるだけ大地の神の神力を頂いちゃったからさ~。当面、若いままでいられそうだよね~」

「ホントにひどい術使いです~、おじさんて」

 そして、ここにいる人物たちの雰囲気もいつの間にか通常運行に戻った。

「じゃあさ、パルティシオン。ううん、『鷹一おっ兄たま~』。今日は、私のお家にお泊りしていってよね~」

「は? た、鷹一……お兄たま、とは」

 通常運行。つまり、父の悪ふざけも健在だった。と、いうより、この人は。

「あ、それから。今日の夕食はさ。冷やし中華だから。おっ兄たまは、ゴマダレとお醬油ダレ、どっちがい~い? 鷹一、おっ兄たまっ」

「ち~ち~う~えぇ~~~~っ」

 何が起こっていても、この調子。ふざけているか、悪乗りしているか。そのどちらか、だった。

「ランベルセ~。夏鷹になったおじさんのお兄たま、なんですから。残さずちゃんと冷やし中華、食べるんで~すよ~。おっ兄たま~」

「へ、陛下まで……」

「公爵っ。腕によりをかけて冷やし中華を作るからねっ。ささっ。どちらのタレがいいかなっ」

「春人さん。今はタレの問題ではっ」

「パルティシオン。もう諦めた方がいい。そして早く味を決めよ。俺は腹が減った」

 こうして。西園寺家に居候が三名追加されることとなった。