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是鷹おじさんとぼくたち

初回掲載:2026年7月2日

登場人物

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《第4話 ただピクニックへ行っただけなのに》(4)‐1

 翌日が休診日であるそんな日の夜。オコタに入っている春人さんが是鷹医院長に一つの提案をした。

「医院長。この前テレビを観ていたら〝暖かい日中、お散歩がてらピクニックも楽しめます〟と、親切な女性がしゃべりかけてくれたんだ」

「それって別に、お前にだけ言ったんじゃないと思うけど」

「だからピクニック、というものを調べてみたんだけどね。そうしたら、明日は絶好のお出かけ日和で、ピクニックというものが出来そうなんだよっ」

「は? やりたいの? ピクニックを」

「うんっ勿論さ!!」

「あ、そ。一人でやりなよね」

「そうは言うけれど、ピクニックとは一人でやるものでは無さそうなんだっ」

「じゃ、お前の息子とでもやれば」

「医院長もやらないのかい?」

「やらないね」

「医院長もやろうっ!!」

「イヤだね」

「うん。お弁当を作らないとねっ」

 こうして春人さんはお子さんにピクニックの打診をしたのだが「公務があるんですよ。是鷹医院長といってください」と、断られた。だからやはり医院長が行くこととなった。

「は? 私は行くって言ってないんだけど」

「それじゃ、しゅっぱーつ」

 尚。話が進まないので、作者の意思と春人さんの意思で医院長は行かざるを得ない事となった。決して、成り行きとはいえ物語的な流れがあった訳ではない。単に春人さんの意思が強いから、作者は「春人さんが一旦、言い出したらきかないし。そうなると、医院長は絶対に行かざるを得ないよなぁ、この展開。ま、どうせそうなるなら、いちいち○○だから医院長は行くことになった、って流れをわざわざ作るなんてメンドーだし。その部分を考えることは省略しよう。時間の無駄だし」とすることにした。なので是鷹医院長本人の意思も無視された。

「ちょっとっ。なんなのそれっ。そんないい加減な小説があっていいのっ」

 良いんです。たぶん。

 こうしてピクニックに行くことになった医院長と春人さん。しかし出発する矢先に、ある人物が唐突に西園寺家を尋ねてきた。

「是鷹おじさーん、いますか~。ボクですよ~」

「はあ? な~に、坊(ぼう)。私はね、これから、行きたくもないピクニックに抗えない力によって行かなくちゃならないんだよっ」

「ふ~ん、そうなんですか~? じゃ、ボクもついてっちゃおっと」

「は? じゃあ坊が春人とピクニックに行きなよっ」

「えー。ピクニックは大勢で行った方が楽しいじゃないですか? ねぇ~」

「そうだよ、医院長っ。人が増えて僕は嬉しいよっ」

 と、いうことで人物紹介もしていない人物が勝手に加わった。

 だが、さすがにそれでは読者の方々も「は? 誰? 急に混じってきて」と、困惑すると思われるので、一応、誰であるかくらいは紹介する。彼は是鷹医院長の遠い親戚、香(か)川(がわ)亮(りょう)という青年である。見た目はとても柔らかな印象で、ものすごくカッコいい。そのカッコ良さのレベルは、今から国宝級イケメンコンテスト、または、超一流芸能事務所の男性アイドルオーディションへいきなり出て行っても即優勝ができるカッコよさ、顔の良さを誇っている。つまりメチャメチャカッコいい。しかし彼については、それさえ分かっていれば特に問題無い人物である。

「えーっ。もっといっぱい、ボクのことを宣伝してくださいよーーっ」

 彼は宣伝したところで、時間が無駄になる人物である。詳しい説明など、初見、初読の読者にとって『ウザく感じる』だけの人と言える。

「もーっ。ひっどいですーーっ。あっかんべーですぅーー」

 これで充分伝わった、と思われる。

 さて。

 そんな一行が向かったのは、市内山間部に位置する天川緑地公園という場所だった。そこは地域の運動施設も併設されている。トラック競技場やテニスコート、体育館、マラソンコースなどが揃っていた。その一角にアスレチックや遊具の置かれた公園がある。又、遊歩道などもあり、そこには桜を始めとした広葉樹もたくさん植えられている。春になれば絶好の花見スポットでもあった。

 しかしまだその桜が咲き始めるのは少し先であった。桜以外の木々も枯れ枝のような状態である。

 そんな緑地公園は、クリニックから車でないと行けない少し遠い距離だった。そこで春人さんの所有するSUVに三人乗り込み、所有者が運転をして行くことになった。

「みんな、シートベルトは着用したかいっ」

「ボクはちゃーんとしましたよ~」

「一応ね」

 医院長は後部座席に、香川さんは助手席へと座った。お弁当は医院長の隣に置かれた。本日は大きなバスケットの中に、サンドウィッチとホットドッグ他、が詰め込まれている。医院長も昼ゴハンにBLTを用意するならと、しぶしぶピクニックを承諾した。そう。決して作者が強制的にキャラクターの意思を無視した訳ではない。彼は昼ゴハンに釣られたのだ。

「は? でも結局、釣られるように仕向けたのはあなたじゃないのっ?」

 まあまあ。そう言わない。それを言っちまったらおしめえよ、の世界ですから。

 とにかく。準備は春人さんがしっかり調えたので、ピクニックを楽しむ事には過不足ないと思われた。だから一行は不満なく出発することになった。

「あれ? でも、ボクの牛乳がないですぅー」

「おや? 途中参加だったから、仕入れていなかったよっ」

「ボク、牛乳が飲みたいですぅー」

「うん。では公園の近くに牛乳販売店があったから、そこで買って行こうっ」

「やったーっ」

 なんとこれは偶然、と思わざるを得ないが。しかし実際に榛名牛乳の製造販売工場が山の麓にあるので、春人さんは途中そこへ寄り、香川さんは紙パックの二〇〇ミリリットルの牛乳を二本買ったのだった。

「あーあ。もう今はビンじゃないんですよ~」

 そんなことを彼はしみじみ言っていた。

「ふ~ん。私は別に興味無いけど」

 勿論。医院長はそういう人だった。彼は詰まらなそうであったが、春人さんが用意した保温水筒からお茶を注ぎ、それを飲んで道中を過ごしていた。

「ところで坊。なんで私を訪ねてきたの? 病気にでもかかったの?」

「違います。少し息抜きに来たんですよ~。あとはおじさんの様子を見に来たのもあります」

「そっ。私は元気にやってるから大丈夫だし。ほら。家政夫もいるから不自由はしていないよ。煩わしいけど」

「それなら良かったです。ボクも安心です。はぁ~。安心して息抜きも出来ます~」

「ふ~ん。いいけどね、息抜きするのは。でも知らないよ~。やることをしっかりやらないで、ただの〝脱走〟だったら」

「そ、そんなことないですよ~。もう、やだなぁ~是鷹おじさんてば~」

 さすがの医院長も、唐突に現われた遠い親戚に不審感を抱いた。だが、本人が息抜きをするため医院長の家へ寄っただけ、と言っているので、そう思うしかなかった。

 公園までの車中は、そんな他愛のない話をして過ごすことになった。

 そして約一〇分ほどのドライブで、三人は天川緑地公園に到着した。

「でも春人さん。まだピクニックをするには、少し木々や草花の成長が足りてませんよ~」

「そうなのかい? テレビの中の人は、暖かくなるから絶好のピクニック日和ですよ、と教えてくれたから良いと思ったんだけどねっ」

「それってさ、都会がある低地の話なんじゃないの? この天川市はさ、山の麓で北関東の高地に入るから、普通にまだ肌寒いと思うけど」

「テイチとコウチ? 何か違いがあるものなのかい? 同じ世界なのにっ!!」

「春人さんは地理のお勉強をした方がいいですぅ~」

「チリ? ホコリやゴミの仲間のことかい?」

「もういいよっ。その辺の説明はさ、帰ってからしてやるから」

「ありがとうっ医院長っ!! さすがだねっ。色々な知識があって、そのうえ本当に親切で、立派な人物だよっ」

「だ、大丈夫なんですか? 春人さんて」

「見ての通り。煩わしくて面倒くさいの。だから、とっととピクニックの気分でも味わわせて、放っておけばいいんだよ。とにかくお昼でも食べよう」

「そ、そうですねぇ……」

「さーっ。ピクニックだ~」

 春人さんは公園内の広い駐車場に車を停めた。三人は車から降りると、たしかに少し寒さを感じた。けれど思ったほど、手がかじかむような寒さでは無く、柔らかな日差しも相まって、ピクニックに向いていない日和ではなかった。

 周囲はまだ針葉樹のみが緑であったが、凍えながらのランチタイムを過ごす羽目にはならないようだった。

「で? どこで昼食を摂るのさ」

「うーん。テレビで観たのは、シバフにれじゃーしーと、というものを敷く感じだったんだっ。シバフとれじゃーしーとについてもしっかりと調べたから、間違いはないはずだよっ」

「それってまさに、都会の人がオシャレなピクニックを楽しむ風景って感じですね。芝生にレジャーシートなんて」

「あ、そっ。芝生が必要なの? じゃあ、園内地図でも見て、それらしき方へ行けばいいってことだね」

 駐車場の入口に公園内の全体地図が立っていた。天川緑地公園は思いの外、広大な敷地だった。そこの一角に、アスレチックや遊具の置かれた広場があり、併せて緑の広場らしき場所が地図には描かれていた。一行は、とりあえずそこを目指すことにした。

 てくてくてくと歩いて二、三分。坂の下にブランコやアスレチック遊具が並ぶ広場が見えてきた。

「ああっ!! 見てごらんよ、医院長っ。あそこにシバフらしき草が生えているねっ。画像検索したのとちがって少し緑は枯れているけど」

「まあ、まだ少し冬だから」

「いいんじゃないですか? あの辺りなら、いかにもピクニックって感じがする絶好の場所っぽいです~」

 春人さんと香川さんは、目を輝かせてお目当ての場所だ、と一目散に駆け出して行った。そんな二人を「子供なの?」と、冷ややかな視線を送って医院長は普通に歩いて向かう。

 そして広場へと到着をすると、先に来ていたピクニックが楽しみで仕方がない人たちが「れじゃーしーと、というの物をすぐに手にいれられなかったから、代わりに雨漏りを塞ぐ防水シートを持ってきたんだ」と、青色のビニールシートを芝生の上へと敷いていた。たしかに西園寺クリニックの自宅部分は、二階の西側が雨漏りをしていた。瓦が剥げているからだ。そこを現在、青色のビニールシートで塞ぎ、応急処置をしている。その使わなかった残り部分を春人さんは物置から見つけ出してきたのだった。しかし意外とシートは大きく、成人男性が三人座ってもかなりスペースに余裕があった。その中央に大きなランチボックス用のバスケットをどんと置き、紙皿やコップを並べた。

「うわ~。春人さんの作ってきたお弁当。可愛いし、美味しそうですぅ~」

「ありがとうっ。サンドイッチとホットドッグ。他にも唐揚げと玉子焼き。タコサンういんなー、甘辛ダレの鶏つくね団子。これらがピクニックの定番ベストメニューだと、お料理レシピサイトに載っていたんだよっ」

「ふーん。興味無いね。それより私のBLT出してよ」

「了解っ!! 医院長っ」

 こうして。恙無く、一行は昼食をとりはじめた。春人さんはこの定番メニュー以外にも、手毬おむすび、シーザーサラダ、それから稲荷寿司まで用意をしていた。そのどれもこれもは、見た目良し、味も格別だった。香川さんは料理を口へ運ぶたびに「美味しいですぅ~。サイコーですぅ~。春人さんは料理の天才ですぅ~」と言い、対する春人さんも「ありがとう。ありがとう」と、褒められるたびに喜んでいた。一方の是鷹医院長は、その全てを無視して、食べたい物を食べたいだけパクパクと静かに食べていた。

 しかし、こういうのどかなピクニックが描かれている話、三人の男性が公園に行きました、ホンワカ、だけの話であるならば。それは大変つまらん小話で終わってしまう。いや。もしかしたら、癒されるぅ~とか、春人さんのお弁当って美味しそう~、と思ってくれる人もいるかも知れない。

 だがこの公園には、彼らの他にも散歩へやって来た者やジョギングをしている人の姿もちらほらあった。又、この遊具広場から下ったところのテニスコートでは、市民サークルの人々が試合を楽しんでいる。

 更に他にも、この広い公園へ本来の利用基準とは明らかに異なった目的でやって来ている者達もいた。そう。もうその存在が、ピクニックを楽しむ彼らの間近に差し迫っていたのだ。それらは、ホンワカ、を継続させてくれる存在ではなかった。

 しかしっ。

「わーん。ボクがそのお稲荷さん、食べようと思ったのにーっ」

「私がいつ、BLTしか食べないって言った? お稲荷さんも好きなの。悪いね、坊」

「すまないね。もっと作れば良かったね」

 とかなんとか。ピクニックへやって来ていた彼らは、まったく気がつくことはなかった。食べ物の争奪戦を繰り広げているのであった。

 こうして食事は、医院長は希望を出していたBLTや稲荷寿司、唐揚げとゆで卵を食べ満足し、香川さんはホットドッグと手毬おむすび、唐揚げやキュウリとチーズのハム巻きなどを堪能した。春人さんはフルーツサンドとなぜか安倍川餅を食べて終了した。しかしそれぞれ満足のゆく昼食だった。

「お前さ、どうしてここにまで餅を持ってきたのさ」

「大好きだからだよっ」

「ピクニックに安倍川餅って、雰囲気、壊さない?」

「ん」

「ま、いいけどさ」

 食事を終えた三人。一人は読書。「ま、こういう所で本を読むのも一興だしね」。一人は昼寝。「ボク、うとうとしてきました~。ふあ~。おやすみなさいです~。すや~」。一人は周囲をキョロッキョロッと見回していた。「楽しいねっ」。

 尚。三人目の人の感想については、作者も「え? 何が楽しいの? よくわからん」と、彼の感覚がまったく理解できなかったので放っておくしかなかった。

 そんな穏やかな昼下がりのことだった。遂にそこへ、何の前触れもなく、ドーンッと大きな爆音が広場一帯に木霊した。

「な~に? 変な音がしたけど」

「え? え? え? は、榛名山が爆発しちゃったんですかーーーっ」

「ん。おや? あそこに大きな物体見えるけど。何だろうね?」

 春人さんが向いた北の方角に、こんもりとした橙色の小山が見えた。まるで炎の玉でも模ったような、てっぺんが少しギザギザした楕円形。その下には、なぜか四肢が付いているような姿かたち。山というより大きな人だった。全身が橙色で、まるで炎に包まれた巨人というべき物体だった。

「なんなの? あれは」

「す、すすすっごく、でっかいですね~。身長一〇メートルくらいありますねっ」

「公園には、ああいった物も置かれているのかい?」

 彼らの寛いでいた場所からは少し離れた所に、突如、現われた得体の知れない物体。遊具広場の北入口辺り、周囲に枯れ木と針葉樹が植えられた森の広がっているエリアに存在していた。しかもその物体から「ボウボウウンガー」と、聞こえなくもない音が発せられていた。が、次の瞬間。その炎のような玉ねぎ頭の下部、もしそれが顔だとして、口のような部分がぽかりと黒い穴を開くと。そこからいきなりゴォーーーッと、まるで戦争で使われるような銃火器から放たれる火炎放射がなされたっ。

「ちょっとちょっとっ。なに、あれは。いきなり放火し始めたんですけど」

「うわーうわー。山火事になっちゃったですぅ~~っ」

「なんてことだろうねっ。木々が燃やされているよっ」

 楽しいピクニックは一転。謎の怪物が緑地公園で暴れはじめたのだった。