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《第3話 是鷹おじさんとイセカイテンセイのケン》(3)‐1
「あのさ。アタマ、へーき? 貴方」
九月に入っても連日三十五℃以上が続く日々だった。そんな日は、冷茶と正光堂の黒糖生どら焼きを春人さんに用意させよう。そう考えていたところに、またもやってきたイカレポンチ。
そう是鷹医院長が本気で思ったニンゲンが目の前に着席していた。自己申告表の年齢欄には二十四歳。性別は男。たしかにその通りに見える人物だった。しかも別段、見てくれだけなら異常なし。半袖のワイシャツに紺色のスラックス。少し筋肉質で、身長が百七十八センチとのこと。それも至って普通人の範囲。髪も短髪で、清潔感と爽やかさが取り巻いている。
しかし雰囲気がなんだかどんよりしていた。暗い。重々しい空気をまとってもいる。そして何より、開口一番が。
「なんだかダルいんです。こっちの〝世界〟に戻ってから……」
「は? あっそ。じゃあどっちの世界に行ってたの? あの世? それとも妖精界? 妖魔界?」
「異世界です。でも人間が住んでいましたけど」
「ふ~ん。あっそ。でもね。ここは、イセカイ、とやらから帰ってきて、ダルいって症状を診ることに対応してないの。そういうクリニックじゃあ、全っ然っ、ないの。違うの。よそに行ってよ、よぉ~そっ。天川総合医療センターのココロノヤマイ科にっ」
「違うんですよ、ドクターッ。オレ、ホントにダルくって、食欲不振だし。でもっ。それは異世界から帰ってきてからなんですっ」
「あのねー!! だから、このクリニックは、そんなのは診られないのっ。もうっ。さっきからイミフメーなこと言っちゃっちゃってくれてるけどっ。そういう〝非〟現実的な事を言っていい場所はね、ここじゃないのっ。まだ詐病と仮病なら対処のしようもあるけど。妄想は科が違うのっ。科がっ。なんでこーゆーヘンテコなのを受け付けるのさっ。あー、もう君は失っ格っ!!」
最近はそれでも詐病、仮病が減ってきたと思われた矢先。やはり内科クリニックをやっていると、とりあえず何科のドアをノックすれば良いのか分からない人間が、適当にフラ~ッとやって来ることは相変わらずだった。そうした場合は、入って来られたからには、仕方なく、そこの医師が適切な科を案内せざるを得なかった。
ゆえ。
是鷹医院長は「医療センターの水之尾クンに回すから。彼なら、どーーーんな話でも真面目に、親身に、真剣に、聞いてくれる、懐のふっかーーーい医者だから。そっちへ行って行って」と言い、しっしっしっと目の前の青年を追っ払った。いや、追っ払おうとしたのだが。
「ドクター!! オレ、もう挫けそうなんですっ。折角、こっちの世界へ帰ってこられたのにっ。オレは……。オレはっ。やっぱりあのままパーティに居続けるべきだったんだーっ」
ガタンッと自分の座っていた椅子をぶっ倒し、うおーっと叫ぶ勢いでその青年は立ち上がった。
「大丈夫かいっ。医院長っ!!」
「閣下っ。敵襲かねっ」
臨時で受付に就かせていた春人さんと、院内のお掃除をしてくれていたヒナリさんが、慌てた様子で診察室へ飛び込んできた。
「んっむおぉぉ~~っ。何度言ったらわかるんだーーっ。患者がいるのに、お前らは入ってくるなーーーっ」
当然。是鷹医院長の怒りは、この部屋の自分以外の全員へと向けられたものだった。
** ** ** ** **
「オレ、地元の人がエレガンディの森、と呼んでる場所の奥にある古城へ向かってたんです。そこを根城にしてる魔王を倒すようにって言われて。その世界の魔法使いに召喚されたんです。でも途中で、仲間の戦士と僧侶がケンカして、パーティーが分裂。オレと、オレを召喚した魔法使いと戦士だけで、魔王の所まで行く事になっちゃったんです」
「なるほどっ。んんん? では僧侶はどこへいってしまったんだい?」
「それが、行方知れずに。アイツも悪い奴じゃないんだけど。ケンカっ早いっていうか。それに、戦士のことが実は好きだったらしくって。いわゆる痴話げんかみたいなモノをしちゃって。それがエスカレートして、僧侶が『もう知らない』っつって、パーティから離脱しちゃったんです」
「そうだったのかいっ。戦士と僧侶は恋仲だったんだねっ。なんて抒情的な話なんだろうねっ」
春人さんはとても感慨深そうな表情で聞いている。
「しかし、仮にも魔王を倒しに行く者同士の集まりなんだろう? 本来の目的を個人の感情で放棄してしまうようでは、大きな目的は果たせないよ。まして出て行ってしまったのは僧侶なのだろう? 僧侶とは、少なくとも自分が信仰している神にその身をなげうってお仕えし、その神が邪神でもない限り、聖職者は平和を尊ぶ意識を高く持っている者ではないのかい? それが世界の平和を叶えるという志を蔑ろにし行方をくらますのは、自らの信念も捻じ曲げてしまったのと同じ事ではないのかな」
「うんうん、確かにヒナリの言う通りだねっ。聖職者は志こそが生きる指針。世界平和を叶えようという気持ちが変わり、そこから離脱してしまうことは。余程のことだよ」
「ま、それが後からわかったんですけど。どうやら僧侶の奴、戦士の子供を身ごもっちゃったみたいで。だから離脱したんです」
「なんだってーーっ。それは……一大すぺくたくる、というやつだよっ」
「なんだろうね……。たしかに人間らしい行動というべきか」
春人さんは目をキラッキラさせ、ヒナリさんは前職の時のような事情聴取をしているような空気を醸した。
** ** ** ** **
「で。じゃあ、春人。エレガンディの森って知ってる?」
「ん? 妖魔界では聞いたことは無いね」
「あっそ。じゃ、ヒナリ。このニンゲン界で聞いた事は?」
「私の知る限りでは、この五〇〇年間で一度も無いよ」
あれだけ診察室に患者以外は入るな、と禁じていたのだが。今、ここには、春人さん、ヒナリさん。
それからさらに。
「じゃ、外事長。君は」
「は? 急に喚びつけておいて、何なのです。言っている意味すら分かりませんっ」
「あそ。じゃ、魔道士クン。君、知ってる?」
「さあ。唐突にそんな事をおっしゃられても。私はケーキの配達に来たのです」
診察室には、現在、エリートサラリーマン風の三十代くらいの男性と、ご近所でケーキ屋さんを営んでいる男性もなぜかいた。
しかもサラリーマンはひどく、本当にひどく、基本是鷹医院長に似ている。そっくりさんだった。医院長が若返った姿。そのような人物が、品の良いオーダーメイドのダークグレーのスーツを身にまとい、医院長の隣に立っている。彼はいかにも仕事が出来そうな風貌、雰囲気だった。
一方。その反対側には、ケーキの箱を持って立っている菓子職人さんがいた。彼は、チョコレート色の半袖、黒いズボンのパティシエユニホーム姿だった。配達の為に外へ出たのでエプロンははずしている。本来はこれに茶色の帽子と白のエプロンをつけている。そんな職人さんは、サラリーマンと同じ三〇代前半だった。だがこちらはよく見ると、春人さん並みに綺麗な顔立ち、目鼻立ちをしていた。少し冷たい感じがする女神様。そんな風に見えるし、実際、彼の素顔を知人たちは〝氷れる女神〟と称したりする。しかし、普段はそれを打ち消してしまうようなニッコニコの笑顔をしている。けれど今日のこの場では、その笑顔も引っ込め、美しい顔に不思議そうな表情を浮かべ医院長を見ていた。
「しかし是鷹医院長。私のケーキ屋はこのような配達サービスをしていません。第一、なぜ医院長にケーキが必要なのですか?」
「あ、それね。ウチの子が今日、おっ誕生日だからさ。ソフィア達はご馳走を作ってるの。だから私がケーキ係。それなら此の世で一番美味しいケーキを用意しようと思って」
「はあ。その評価はありがたいですが。しかし天使さん。貴方、未だにお父様からケーキをもらうような扱いを受けているのですか? 立派な大人でしょう」
「それは父が勝手にやっていることなのです。私はケーキの所望どころか、誕生会などして欲しいとも言っていません。しかし我が家の者達はイベントが大好きなのです」
どうやら医院長のそっくりさんは、彼の息子さんのようだった。しかも本当は天使らしい。
「そうなのですか? まあお金持ちの方々は、それを持て余していますから。我々のような庶民としても、このようにケーキの注文をしてくださり、報酬を支払って頂けることは、大変ありがたいことです。しかし」
「うんうんっ。カルス君の考え方はますますこちらの世界に馴染んできているねっ。他世界から移住をした先駆者として、僕は君をしっかり見習いたいと思うっ。このニンゲン界で立派に生きていける妖魔になってみせるよっ」
「はあ。まあ、なんと言ってよいやら。私は妖魔ではなく、別の人間界の人間なんですけど。しかし、それはさておき。先程のエレガンディの森。それに近い名の森。人(にん)裏(り)界(かい)に一つありましたよ。私の実家近くにあるエレガンディアの森です。そこは闇の森と呼ばれ、周辺的村人たちからは大変恐れられていましたねぇ」
「そ、そそそそそっそれ!! ケーキ屋さんが言ったそれだっ。オレ、闇の森って言われてる場所を目指してたんだよ」
「はあ。しかし〝闇の森〟などというものは、こちらの世界では、ゲームでもアニメでも、映画や小説でも、数々の作品で沢山使われていると思いますけどねぇ~」
どうやら患者さんの話には信憑性があるのかも知れない。と、思われた矢先に、ケーキ屋さんが冷静な見解を述べてしまった。
「でっしょ~。そうなんだよ。だからこの人は、ココロノヤマイ科に運び込んだ方が良いって言ってるのに。ちっとも私の言うことを聞かなくてさ~。困ってるの」
ココロノヤマイ科、という名称が正しいのかはさておき。是鷹医院長は大変に立腹していた。そこでケーキを配達してくれた職人が提案をする。
「こういう場合は、昨今、警察さんを呼び、対処してもらうべきと言われていますよ。たしか〝かすはら〟と、呼ばれている人種だとか。何かの略語……ああ、そうです。ゴミ粕ハラハラていめんと、というものの略だそうです」
「なるほどっ!! ゴミ粕(かす)なんだねっ。ケイサツという人たちは清掃活動も行ってくれるのかいっ。良い人たちだよっ。街がきれいになるねっ」
「まあ、世間のゴミを清掃してくださる事には間違いありません。しかしレゼッタ君。お掃除は通常、自分でやるべきものです」
「たしかにそうだねっ。ん? それなら、そこのニンゲンは、こちらで処分をしなくてはいけない、ということかい? それなら晩のおかずにでもしようか」
「いいえ。ニンゲン界では、ニンゲンを食べてはいけないという決まりがありますから、以前のように勝手に捕食し、調理してはいけません。是鷹医院長もそう教えてくれませんでしたか?」
「あっ!! そうだったねっ。ついつい、要らない物は再利用した方が良い、とテレビで言っていたからねっ。最近、さすてなぶる、という言葉を習ったんだっ。だからそうしてみようと思ったんだよ」
やけに物騒なサスティナブル感覚を持った真面目な妖魔の春人さんだった。だが妖魔なので、その考えは妥当と言えた。
「怖いんだよ、お前は時々」
「んんん?」
** ** ** ** **
診察ベッドに座っている自称・異世界へ召喚されたニンゲン、宮澤賢一を囲み、ケーキ屋さん、ヒナリさん、春人さん、医院長の息子さん、そして椅子に座っている是鷹医院長は、彼に視線を向けていた。
「しかし、ただの空想話をしているごびょーきサン、とも思えませんねぇ~」
「ん? ではケビョーかサビョーかい?」
「春人君。それはそもそも違うよ。嘘を吐いてはいない、と言っている話をしているんだ」
「しかしヒナリ殿。仮に、こちら側のニンゲンが、あちら側へ渡ることなどありえない話です。逆は……まあ、こうして魔道士殿がこちらに来ている訳ですから。ありえる訳ですが」
「でもさ。魔道士君は、それが出来る能力と資格があるから、結果としてここに居られる訳じゃない? けどこの患者はさ、明らかに違うでしょ? 見るからに」
どこからどう見ても、来院してきた人はニホンのどこにでもいそうな青年サラリーマン。
「第一、私にはこのニンゲンから特別な能力なんて、ひとっ欠片も、感じないけど」
「まあ、是鷹医院長のおっしゃる通り、私もこの人から特別能力を感じません。無能力です。しかし私も、貴方の息子さん同様〝仮に〟の、お話させて頂きますが。宮澤さんの言ったことが事実だとすれば、彼は『喚ばれた』。つまり異世界の者から召喚されてしまった、ということです。しかもどうやら喚び主は、もう一つのニンゲン世界。私の出身地である人裏界(にんりかい)らしい、というお話。私の実家がある側のニンゲン界、人裏界には、たしかに魔法使い、魔道士が実在します」
「そうだねっ。あちら側のニンゲンは、邪神を討ち滅ぼす定めの神・六源神(ろくげんしん)が、遠い昔に齎した祝福のお陰で、魔法力、つまり、魔力という特別な力を持ったニンゲンがたくさんいるからね。だからそれらを術に転化し操る、魔法使いや魔道士、僧侶や聖職者も大勢いる。中にはカルス君のように都を瞬時に壊滅させ、何十万人も殺害できる魔法を操れる、素晴らしく偉大な大魔道士もいるからねっ。いや。君ほど凄い魔道士はあの世界でも他にはいないっ。本当に立派で素晴らしい魔道士だよ、カルス君は!!」
「ま、まあそうですが。ちょっと嫌な褒め方、ニュアンスですねぇ~。レゼッタ君の言い方は」
「そうなのかい? ニンゲンとは思えないほどの魔力と魔術が使える事は、とても誇れる事だから大丈夫だよっ。君は謙遜し過ぎている。本当に慎み深い子だねっ。でも有能で優秀であることは事実だよっ。僕は本当に感心しているんだっ」
「はあ。どうも」
春人さんの褒め方は独特過ぎて、違うニンゲン世界のニンゲンですら「ビミョー」と感じる。又、それを隣で聞かされている天上界出身の医院長の息子さんも「私があのような賛辞を受けても、ビミョーだな」とやっぱり思った。やはり妖魔は独特なのである。
「では、このまま魔道士殿の仮定で話を進めますが。すると彼は、実際に向こう側の誰かから喚ばれた、という可能性もやはり視野へ入れるべきなのでしょうか……?」
「はぁ? 君。天上界の外事局長のくせに、そ~んな莫迦を言っちゃ~困るよ」
しかしこの発言に対し、常に彼へ容赦ない人物から、すかさず反撃が繰り出された。
「天界外事局長。君ね、あちら側のニンゲンが魔法を使えたとしてもだよ。同空間内なら、同次元率だから、転移転送魔法は使用可能だよ。で~も。他空間への転移転送は、空間それぞれ次元率が違うから、他世界同士に接触点を持とうとすると大爆発する。わかるよね~」
「勿論ですよ。他世界への干渉をしようとした瞬間、術を施行した空間側、つまりアクションを起こした方へ、異次元率の時空間エネルギーが触れられた瞬間。混じり合わない異エネルギー同士、つまり同次元率ではないエネルギーが反発する。ゆえの大爆発です」
「そっ。空間はそれぞれ凄まじいエネルギーを保持し存在している。互いにとって同化できないエネルギーは反発するしかない。だから他空間がふれ合う形になる術は、とても危険なんだよ。って、ホントに知ってた~? 天上界一の術師の息子さんは~」
「も、勿論です。ですから、他世界との往来をする場合、まずは接触点に反動を起こさせないよう、安全に世界へ亀裂を入れる術を使い、尚且つ、六(ろく)源(げん)神(しん)の大地の神から『安定』の力を借り、亀裂を入れて開放させた出入口を安定させ、その間に通過する。知っていますよ、それくらい」
「ふーん。一応、分かってるんだね」
「ですから、今回の件は『起こり得ない』と考える方が、本来は妥当なのです」
「だよね~。向こう側の人は、それ、出来ないからね~」
「ええ。向こう側のニンゲンは、まず自分たちの住む世界に亀裂を生じさせる、ということが出来ません。元々、彼らが持つ魔力の特性では、異次元率に影響を与えるほどの力が備わっておらず、ゆえにそんな術は持っていないのです。よって、他世界との転移転送という発想すらありません。研究をしている者がいたとしても、出来る特性が無い以上、無駄な努力をしている、ということになるのです。
たしかに彼らも、妖精や妖魔の存在は知り得ていますが、他にも別のニンゲン世界があることは、架空、空想的、物語、などの想像の域でしか考えていません。現実に他のニンゲン世界がある、と知っているのは極少数のニンゲンのみ。一〇名もいません。そして向こうも、魔法は魔法の法則に則って、術を使い、法則に従い術を改良発展させていっているのです」
「そうそう。魔法だって、出来る事と出来ない事がある。法則は無視できないし、無視したら、当然、出来ないって結果にしかならない。当たり前だよね~」
「はい。ですから、他世界との転移転送は、妖精や妖魔、または神々や我々天上人の力のような法則上可能である種族になら出来ることなのです」
「そうそう。可能であるから可能。よくできました~。さすが、一つ大きくなっただけのことがあるね~我が子よ」
と、言って医院長はあっはは~、と笑った。
こうしたすかさずの反撃は毎回息子からすると本当に嫌なものだった。すべては、未だに子離れが出来ないお父さんの方がいけないんだ。と、いう心境だった。気に入らなかった息子は、もうこれ以上の反撃を喰らいたくなかったので追加事項も言ってやった。
「更にあちら側のニンゲンは、安定の力を司る大地の神から、その甚大な力を借りられる能力も持っていません。そもそも本来、どこの世界のニンゲンであっても、ニンゲン自体が六源神からの大きな力を借りることは出来ないのです。向こう側のニンゲンの持つ魔法力とは、六源神の力を古の昔に、ニンゲンが宿せるほどに弱め、しかも加工したモノが齎されたのです。
人体は、純粋で甚大な神の力を受け入れられるだけの耐久性が備わっていない。一部例外として、特別な許可の下りた者、例えば、我ら天上の主から許可を得た者や、それこそ大地の神が許可をした者ならば、彼(か)の神の祝福に守られ、その力を身に宿し操ることも出来る。そんなことは本当に特例措置です」
これくらい言っておけば、もう自分も気が済む。父が何かを言ってこようとも、今、自分が言えるだけの事は言った。
それが分かったのかそうでないのかは不明だが、是鷹医院長は息子さんの追加発言に何も言わなかった。替わってケーキ屋さんが少々考え込むような仕草をしながら「しかしですね、天使さん。私は少なくとも、ここ最近、誰かに私の力を与える許可をした覚えはありません」と、言ったのだった。
「ふ~ん。じゃあやっぱり、向こうに喚ばれたって言い張る、君。天川総合医療センターのココロノヤマイ科、決定だね」
そして。なかなか診断確定のなされなかった若者をみなさんが見守る中。遂に、是鷹医院長はそう最終結論を下したのだった。
「天川総合医療センターの……ココロノヤマイ科、なんッスか。オレって」
** ** ** ** **
「ところでさ。君、さっきの話が〝仮に〟だけど。魔王とやらを倒しに行ったとか言ったじゃない? でさ。一緒に行ったのが、戦士、僧侶、魔法使い、って組み合わせだったんだよね。ってことは。君ってもしかしてその役割は」
「勇者じゃないのかい!? 絶対、勇者だろう!! そうだろうっ!!」
「っうっさいな~、お前は。なんで勇者に興奮するのさっ」
「ミルトス君(お忘れかも知れませんが、春人さんの甥、兼、息子さん)が、以前に勇者の凄さを語ってくれたんだよっ。勇者は勇気ある者、どんな困難にも挫けず、悪を倒して平和を齎す選ばれし者だ、って。うんっ。なんて素晴らしい存在なんだっ」
「なんて大雑把な存在なの? 勇者って。具体性に欠けてるね」
「確かに騎士や魔法使い、僧侶、などは職業でありますし、戦士、というのも剣技を扱えば剣士、武術の使い手であれば武道家となり、それも職業でしょう。ですが勇者、とは。やはり是鷹さんのおっしゃる通り、具体的な業種ではありませんねぇ。強いて言えば戦士のひとつ、でしょうか?」
ケーキ屋さんの言う通りだった。勇者とは「職業ではない。選ばれてなるもの」と世間では通説になっている。だが実際は、一体、何なのだろうか。
「オレ、喚び出された時に、そのセオリー通りの〝貴方こそが選ばれし伝説の勇者です〟って言われました。それから〝伝説の勇者のみが携える事ができる剣〟ってのを渡されたんです」
「ほらほら~。やっぱり具体的じゃ無いっ。まず根拠がないよね、根拠が。君なんかが選ばれる根拠」
「そうなんッスけど。あと、今、みなさんに色々言われて少し考えたんですけど。勇者のみが携えることができる、ってのも具体的じゃないですよね? その携えるってところ。だって剣をくれた魔法使いは、剣を手渡ししてきたんだし。つまり物理的には誰の手でも持つことは出来るってことっすよね? 携えてますよねー。じゃあ、ぶっちゃけ魔法使いだって、剣を振り回す腕力を持っていたら、扱えるんじゃないんですか? 違います?」
「だね。選ばれし者以外は触れられないんだったら、そもそも魔法使いから君には手渡せない。じゃあ、その伝説の剣を携える、って意味はなんなの? それって、剣に隠されている真価を発揮できる、ってこと? だったら初めから〝この剣に秘めたる力は、それが出来る者しか、その秘めたる力は扱えないよ〟と、呼ばれる剣ってした方が分かりが良いよね」
「はあ。しかしそのような名前では長いですよ」
「けど、それじゃあそもそもだよ。その剣の出所は? だって『真価が発揮できる人に限定』にして作られてるんでしょう? むしろ、限定的に扱える道具を作りだす奴の方がよっぽど凄くない? だって誰でも扱える量産品を作る方が簡単でしょう? 物理的に」
「そう思います。ホームセンターで売られている包丁なら、どこのご家庭の誰でも、それなりにしっかり食材を切ることができて重宝されます。しかし名工の出刃包丁となると、扱いが難しかったり、切る食材も限定的です。しかも名工もそれなりに時間を掛けて作りだします。お陰で結果、料理人側も、逸品の料理を生み出せる技が使え、素晴らしい料理を作る事が出来るのですが」
「んんん? そうなると、伝説の勇者のみが携える事ができる剣、という物は……その存在自体が、とても不思議な物ということだね。君に合わせて作った、と言っても過言ではないものだろう。では作り手は、なぜ君に合わせる事が出来たのだろうね? 君のことを知らないのに。君に合わせて作る。作り手にとっては、未知の相手。つまり、存在していないと同様な者に対し、何かを生み出せるものなのかい? ニンゲンは。僕には、僕にとって存在が認識出来ないモノに対し、何か働きかける事なんて絶対に無理だよ。だって想像もできないからねっ」
春人さんの指摘はその通り、としか言えない事実だった。
そもそも。いつ、どこで、使用するのか。そんな曖昧で、未確定な武器の必要性とは、なんなのだろう。まして作り手が想像が出来ない使い手に渡す。一体、そんな物をどうやって開発が出来るのか。
それとも、作り手やその周囲の者には取り扱うことが出来ないが「何かの要素を持っている者ならば使える」とでも、言いたいのだろうか。そういう意味の武器だとしたら、条件を満たした特定の人物が使うことは可能であろう。だが。その何らかの要素、というものがないと使えない代物を開発する意義。それは一体なんなのだろう。その何らかの要素が、凄まじく強大な力であるとでもいうのか。しかしそんな凄まじく強大な力を制することが出来るなら、それができる職人が一番すごい存在になる。彼がそのまま彼に合わせた武器を自分のために作り、それで揮えば良いのではないかと思われる。
第一、武器という物は即効性が求められる。すぐに、訓練もあまり必要としないで、強い効力が発揮できる物が一番ではないのか。武器が必要な者はそんな道具を欲するものだろう。それをわざわざ、限定的な取扱者の現われることを待って使わせるとは、かなり悠長で受け身な道具である。そんな非効率的な武器の開発に、どんなメリットがあるのか。そんな運を天に任せた武器と使い手が現われることを待っている間に、応戦する側に被害は出るし、武器の開発者も殺されてしまう可能性だってある。そんな一か八かの存在の為の武器は、武器として本当に必要なのか。
そして春人さんの指摘も加味すれば、どう考えても、〝伝説の勇者のみが携える事ができる剣〟というものは、その存在自体が怪しい物でしかない。それを宮沢賢一青年は渡されたという。
「しかし、これをあの道理に則って組み立てると、実に筋が通る話にもなる。違うかな、医院長閣下」
「ヒナリは本当にしっかりと他者の話を聞いているねっ。さすが元死神っ。素晴らしいっ」
「いやいや。おそらく医院長や紅の魔道士殿は最早お気づきだろう」
すると名指しをされた両名は「まあ、起こり得ない事は起こり得ませんからねぇ」と言ったり「勇者はさておき。戦士と僧侶も、まあ除外だよね」と応えた。
「宮澤さん。仮に、貴方の話を事実として。異世界へ喚び出したのが魔法使い。それは間違いありませんか?」
「は、はあ。信じてくれるんですか、オレの話」
「ですから、仮に、と申し上げているのです。貴方の話が事実かそうでないかは、それを判断しなければ分かりません。事実であるなら信じます。事実ですから。だからちゃんと答えて欲しいのです」
「分かりました。オレを喚んだのは、たしかに魔法使いです。マリアっていう女でした。すげー静かで、歳はオレより年上に見えました。若い女です。灰色の長い髪をしてて、ビロビロって感じの服、それこそ、昔のゲームに出てくるような魔法使いがするようなカッコをしてて。あ、でも、そのビロビロなドレスみたいな、裾の長い服。それは青っぽい灰色をしてて、腰の辺りを赤い細い紐をふた巻きして、キュッとしたやつです。それからいつも、杖を持ってたんです。魔法はその杖から出してました」
「灰色基調のローブに赤紐を着けていたのですか?」
「はい。オレ、絵、描けます。イラストとか、結構、得意なんです」
と、言って医院長に紙と鉛筆を宮澤さんは所望する。彼は、バインダーにコピー用紙を挟んだものと、2Bの鉛筆を借りると「あざーす」と言って、すぐにかきかき始めた。
「へー。たしかに巧いもんだね~」
「す、凄いねっ。みるみる人が描かれて……しかも上手に、綺麗な人が表れていくよっ」
「絵描き勇者ってところですねぇ」
「人物とか動物とか描くの、好きなんッス。でも建物とか、あっ後は風景画なんかは、こう、うまくいかないんですよねー」
などと言いながら彼は紙面に一人の女性を描いた。立ち姿と、それ以外に彼女の横顔と正面からの顔も一緒にあった。
「こういったローブは、こちらの世界でいう〝ゆにほーむ〟として、同じ団体に所属を表わす場合もあるんです。あとは服装は自由としても、所属団体や集団の印、紋章を刺繍したりします。しかし今回はそのどちらでもないですねぇ」
「じゃあフリーの魔法使い?」
「いいえ。そうではありません。これは明らかに向こうの世界で、とある神殿が抱えていた魔術部門の親衛隊所属魔術師の姿です。この腰に着けている紐の結わえ方。それが特徴を表しています。本来の親衛隊はローブも決められた物で統一されているのですが、この絵に描かれているそれは違いますね」
「じゃ、紐だけ?」
「おそらく癖、なのでしょうねぇ。ついつい出てしまった。とはいえ、まあ向こうの世界でも、一般の人には紐の結び方で、どこの魔術師、魔道士、ということは判別が難しいでしょう。
余談ですが、かく言う私の実家がある国などは、魔法が盛んではなく、医術や自然科学を研究対象にする学者たちが大勢いる国です。だから魔法が存在する向こうの人間界であっても、全員が魔法について詳しかったり使えたり、精通している訳ではありません」
「そうだね~。君のお父さんだって名医じゃない。それ室内なのに息子が、世界三大魔道士の一人になっちゃって。ああ、親不孝者だね~」
「はあ。別にどちらも私は出来ると思います。しかし私にはよりどちらが向いているか。自分でしっかり判断し、魔道士の道を選んだだけなんです」
「うちの子もさぁ、本当は神術使いにしたかったのに。よりにもよって剣士になっちゃってさ。ああ、親不孝者だよ。もう世の中、親不孝ばっかりが横行しているね~」
「うーむ。しかし、医院長も医者ではなく、天界王の第一補佐官として立って欲しかったと、貴方の父君からは散々愚痴を聞かされたものだよ。もう何百年も昔のことだがね」
「んんんっ!? つまり医院長も、親不っ幸ーっをしてまで医者になり、多くの生命を救っているんだねっ!! 素晴らしいよっ。具体是鷹医院長っ!!」
「お前はねっ。親どころか、そこここで不幸を掛けまくりの妖魔だろーがっ。この全生命の、世の中にとっての不幸者っ」
「ん」
と、脱線している人々を尻目に、ケーキ屋さんが「しかしですね。もっと注目するべきは、この杖です」と少し顔を厳しくさせ、イラストに指を差す。
「これはいけませんね。みなさんもお分かりだと思いますが」
女性の右手には、彼女の身長より少し短い棒が握られている。その先端には、座の上に縦に伸びたひし形をした、おそらく宝石のような物が乗っていた。そのてっぺんには宝玉がひとつ付いている。
「この杖に付いている宝石部分は赤、もしくは黒ではありませんでしたか?」
「は、はい。いつもは黒い透き通った宝石なんッスけど。魔法を使う時には、赤く光って火の玉とか吹雪を起こしたり、カミナリなんかも落としてました」
「普段は黒。術を使うと赤。そしてこのひし形。さて。もう答えはお分かりかと思います」
するとずっと沈黙していたせいか、少々影の薄くなっていた是鷹医院長の息子さんが「いってきます。が、魔道士殿もお付き合いいただけますか?」と、ケーキ屋さんを指名した。
「時間が経ちすぎているような、無いような。しかしアレにとっては、時の流れなど無いようなものですから。アレの決めた時機で動き出します」
「でもさ。道具なんだから、ただの影の方でしょ? 同じことを繰り返しているだけかもよ~」
「天上へ報告が上がってきていない点から、おそらく、この宮澤健一氏が初めて、なのでしょう。しかし、彼は離退し、こちらへ戻されている。ですからアレは次へと進んだ、または、小康状態」
「そうでしょうねぇ」
ケーキ屋さんは右手の親指で中指をパチッと弾いた。すると服装を一瞬で変化させる。紅い袖と裾が長めの、しかし動きやすそうな出で立ちへと変わる。そして容姿も、アクアマリンの長い髪を頭の上で一つに結った、大変美しい人へとなった。これはまさしく容姿端麗、頭脳明晰な魔道士以外に見えない。
一方の医院長の息子さんも、背に真っ白な羽を負う、昔の欧州貴族がしていたようなジャケットとズボン。焦げ茶のブーツを身に着けた姿になっていた。髪も金色で、目の色は碧い。どこの誰が見ても天使だった。
「僕も何か手伝った方がいいかいっ!!」
「お前は、クリニックを手伝ってればいいの。ほら、受付に戻る」
「わかったよっ、医院長!!」
「私もまだ玄関の掃除が終わっていないんだよ」
「ヒナリはそれを片付けて。それから母屋の方の玄関も履いておいてね」
「承知したよ、閣下」
春人さんは春人さんのまま。ヒナリさんはヒナリさんのまま。診察室から出て行った。
「まったく、今日は君の誕生パーティーなのに。ホント、アレは迷惑極まりないね。主賓が死んだら困るじゃない」
空間医院長も医院長のまま。
「あー。そういうことで。どうやら君。君はココロノヤマイ科行きじゃなくて、ここでも診られそうなことが分かったから。ここで処置するね」
と、電子カルテの方へ向き、タタタタタッと何かをPCへと打ち込み始めた。
「な……。ちょっ。ど、どどどどどどーゆーことッスかぁぁーーーっ」
勿論。元勇者、宮澤賢一さんは、しばらく言葉が出てこないようだったが。あとから、物凄く驚き上がり、叫んだ。
「ちょっと。うるさいな、君は。ココロがびょーき、じゃないのが分かったんだから。それだけでも、原因が何かって、近づいたんだから。いいでしょ」
「そ、そそそそそーゆー問題じゃないッスよーーーっ」
「そういう問題なの。ほら。じゃあ、普通に体を診るから」
「い、いいいいいやいやいや。このじょーきょーで、診察なんて、マトモに受けられないッス。ホントっす。マジっす」
「なーに? そのうるさいしゃべり方は。それとも、やっぱり帰る気にでもなったの? せっかく、晴れて内科で診ても良さそうな食欲不振と怠さに加えて、私が診た方が安心安全ってことも判明したのに」
「だっ。だからっ。そーゆー事じゃないんですってばっ。だ、だだだだだって。ケーキ屋さんと、スーツのリーマンが、そんな。いきなりコスプレっちゃったから」
すると「これは、こすちゅーむぷれい、つまり衣裳だけを変化させ、その職業やキャラクターに成り切って楽しむ、というものではありません。この姿は、実家がある世界での普段着です」と、美しい魔法使いは言い「本来の姿がこちらなので」と、天使は素っ気なく一言で終わった。
「おそらく、人裏界に潜んでいた邪神の陰影の引き金(シャドー・トリガー)が、何かの拍子で解放された。アレは、知り得ない時は存在していないと同様ですが、知ってしまっては存在していると捉えるべき相手。そして把握した瞬間から、もう一刻の猶予も無い邪悪」
「そうですね。まさに、レゼッタ君が言っていた『存在し得ないものに働きかけられない』という事です。彼の言葉を素直に受け取ると、それが成り立ってしまうということは、我々の世界の理から外れた、法則外の存在が関与しているから。邪神とは法則外のもの。だからそんな『曖昧な剣』が世に現われてしまったのでしょう」
魔法使いはそう言って、宮澤賢一を見た。
「宮澤さん。貴方がこちらへ戻って何日経ちましたか?」
「え、えーと。あ、あのあの。その。二週間くらいは」
「向こうでの滞在日数は?」
「そ、それは二か月くらいかな」
「そうですか」
と、聞いて少しだけ考える。
「やはりです。通常、向こうとこちらの時間軸は同じです。ですから向こうで二か月経ったなら、こちらへの帰還も二か月後。その間はこちらを留守にしていた事になります。しかし貴方は仕事もクビにならず、捜索願も出されていなかった。失踪届も出されていない。それどころか帰ってきても、生活に変化は無かったのでしょう?」
「え? あ。いや。それは……異世界に行くと、時間の流れが違うのかと思って。ほら。元の世界に戻ったら、向こうの三か月の体験は、実際は三日で済んだとか。よくマンガとかゲームだとあるじゃないっすか」
「ありえない。法則的に」
腕組みをしていた天使が厳しい口調で言い放つ。
「魔道士殿が言う通り、人間界の表裏は同時率。君は向こうで二か月いたのなら、こちらの世界も二か月経っていなければおかしいものだ」
「え、でも。あの時、こっちに戻ると二日しか経ってなくて。金曜の夜に喚ばれて、日曜の夜にはこっちに帰れました。だからはじめは夢かと思って。でも実感があったっていうか。その」
「アレが時空間に干渉し、一定期間を歪曲させたのでしょうね。アレ、ならばできます。勿論、目的があるからやるのであって、のべつ幕無しにはやりませんが」
「はい。しかもこの青年をこちらへ帰したというならば、もう、用済み。むしろ不要」
魔法使いと天使は、揃ってもう一度、宮澤青年を見た。
「急いで対処をしなければなりません。手をこまねいていては、天使さんの上司が降りてくるかもしれませんし。しかし来ていただいても、まあ御自身で解決して頂くのは構わないのですが。私も、自世界を余(よ)所(そ)の六源に救われても、それは上げて私の面目も立ちません。その上、後に風神さんから自慢をされても、ただただウザったいだけですからねぇ」
そんな彼らの周りを青い光が包んだ。いつの間にか魔法使いの足元を中心に、青い光で円陣が描かれていたのだった。
「それでは是鷹医院長。我々でアレの対処をしてまいります。貴方はケーキを冷蔵庫へ入れておいてくださいね。今は保冷剤が入っていますが、消費期限は本日中です」
「了解、要冷蔵だね。じゃ、おっ誕生日パーティーまでに帰れなかったら、私達で全部頂くから。君。主役なんだから、夜までにはケリを着けてきなよ~」
「はあ。我々が赴くのですから、陰影(シャドー)に時間は掛かりません。父上こそ、ケーキのクリームの角、先行して召し上がらないように」
「もう。いつ私がそんなつまみ食いをしたっていうのさ」
「毎回です」
「じゃあ、もうそれは癖だね。諦めなって。ほら。とっとと行ってきなよ~」
是鷹医院長は笑いながら、青い光に包まれた天使と魔法使いへ手を振った。
「ま、油断だけはするもんじゃないよ。いくら陰影の引き金(シャドー・トリガー)だからって」
すると「では……召喚逆転(リバース)っ」と、魔法使いが言った瞬間。あっという間に〝三人〟の姿が消えたのだった。
「なっ……」
そう。数秒前のこと。魔法使いが「リバース」の「ース」と言った辺りで、宮澤賢一は「オレも連れて行ってくださーーーいっ」と、いきなり天使らの方へ飛びついたのだった。それはほんの一瞬の出来事で、天使も魔法使いも「なんですかっ」「ちょっ君っ」と、どうすることもできず、結果、三人がニンゲン界から消えたのだった。
「ちょーーっと。何考えてるのさっあの患者っ」
さすがの是鷹医院長も、このような予期せぬ行動は予期できなかった。
(3)‐2へ続く