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掃除神とオレ ~って、掃除神じゃないのか!?~

初回掲載:2026年7月10日

登場人物

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《第4話 水沢渓谷の洞窟》

 (四)

「な……なんだったんだ」

 あの緑の光。そして『よく来た』という声。

「ゆ、勇ちゃーん。どこぉー」

「何なんだっここはっ」

 でもゆっくり考えてはいられなかった。舞と隆司さんの声が反響して聞こえる。まるで洞穴で叫んでいるようだ。

「というか。真っ暗……なのか?」

 いつものクセで目をつぶって考えていたオレは、目を開けても暗い事に驚いた。それともまだ目を閉じたままなのか。いや,そんなはずはない。頬に手をあてて、そのままゆっくり上へと動かしまつ毛に触れてみる。まばたきを試しにするとそれはサワサワと動いた。やっぱり目は閉じていない。

「わーん、怖いよーっ」

 自分の様子さえも分からない中で舞の悲鳴が響いた。けれどそれがどこから聞こえてくるのか。近いのか遠いのかすら反響して分からない。

 オレはもう一度目をつぶって落ち着き、距離感とかを考えてみることにした。二人が近くにいることはまちがいない。だけどどのくらい離れていて、どうなっているのかは……。

「勇ちゃん、勇ちゃんっ」

「舞。そう連続して呼ばなくてもオレはちゃんと居る」

「うん。知ってるよ」

「へ?」

「だって。見えてるもん」

「は?」

 言われてオレは目を開けた。そこには、ぼんやりと二つの人影が目の前に立っているのが分かった。

「舞? 隆司さん?」

 どういうことだ? そしてその人影の後ろにはオレンジ色の小さな光が見えた。

「なんだ、あれ……?」

 その光は地面から数十センチの所をポンポンと弾むようにこちらへ向かってくる。

「ひ、火の玉か」

「分かりません」

 光はだんだんと速度を上げてオレ達の方へやってくる。舞と隆司さんは何となくオレの立っている方に近寄ってくると、闇に浮かんだ小さなオレンジの光を見守った。

 やがてそれは蛇行しながら間近まで来ると、オレ達の足元で止まった。

「これ……よく見るとロウソクじゃないか?」

 光が灯る下には白い筒状のものが見えた。

「な、何でロウソクが勝手に動くんだよっ」

 隆司さんはゆっくり後退る。

「お、お化け? それとも妖怪さん?」

 舞の方は少し怖がりながらも、興味があるみたいでロウソクの前にしゃがみ込んだ。

「ま、舞。危ないぞ、そんなに近づいたら」

「ちょっと隆司さん。オレを楯にして背中越しに言うのはやめて下さい」

「だ、だって。ひ、火は危ないだろう。火傷するかもしれないぜ」

 この人。火も苦手なのか? むしろただの臆病なのか……。

「火傷なんてしませんよ。ただのロウソクなんですから」

『みゃ~』

 え? みゃ~?

「舞。お前、何か言ったか?」

「ううん。何も言ってないよ、勇ちゃん」

 でもさっき。たしかに『みゃ~』って聞こえたぞ。

 ってことは、まさかこのロウソクがしゃべったのか? オレもしゃがみ込んでロウソクに手を伸ばす。すると再び「みゃーみゃー」と,しゃべりだした。と、いうより、これって鳴き声なんじゃ。

「うっおーっ。だから言っただろうっ。鳴いたぜっ。ロウソクが鳴いてるぜ」

 オレも伸ばしかけていた手を止めた。が、その手にふわっと何かが触れた。

「わ、わわぁっ」

 黒くて柔らかく、毛皮のようなふわふわしているものがオレの手のひらに当たった。

「みゃ~みゃっ」

 再びロウソクは鳴く。よ、よっし。こうなったら。

「は,始めまして」

 オレは黒いものを優しく撫でてみた。よ、妖怪でもお化けでも。あ、歩み寄りが大切だ。た、多分。

「んっみゃ~っ」

 奴もまるでネコがじゃれるような声で鳴いた。って、コイツは本当に。

「お前は猫か」

 ふわふわから手を離しロウソクを手に取る。その下には小さな黒猫がいた。

「可愛い~。ネコさんのお出迎えだ~」

 舞は喜びの声を上げた。

「た、たくよぉ。で、出迎えてくれるならもっと早く来いよ」

 隆司さんは文句を言いつつ、ほっと胸をなで下ろす。

 でもどうして黒猫にロウソクが? しかもそれは明らかに黒い猫の背中に立っていた。でも蝋で固定されていたふうでもない。猫は猫背なんて言葉があるくらいだから、安定して立っていたとは考えにくい。どうやってロウソクを乗せてたんだ?

「ネコさん、もしかして舞達を案内してくれるの?」

「みゃっ」

「すごーい。言葉も通じるぅ!」

 舞は安心しきったのか猫のノドもとをくくすぐり喜んだ。猫のほうも気持ちよさそうに「みゃーみゃー」とじゃれる。見たところ子猫じゃないようだ。でも立派な大人猫にも見えない。細見で全身が真っ黒。目は薄い青の猫だった。

「じゃあネコさん。舞達を水沢渓谷の仙人さんの所まで案内して」

「みゃ~」

「ありがとう」

 舞は猫と打ち解けたようで道案内(?)までも頼んだ。けど本当に人間の言葉なんか通じてるのか?

「みゃ~みゃっ」

「さあ、みんな。ネコさんが連れて行ってくれるって」

 でもオレの疑問をよそに、舞は明るい声で猫と一緒にさっさと歩いて行ってしまう。

「お、おい。良いのか、あんな化け猫と一緒に行って」

 ば、化け猫って。オレには今のところ普通の猫に見えるけど。まあこんな所にいる猫だし。近所のノラたちとは違うだろうけど。

「でもここで何もしないよりは良いんじゃないですか」

「そ、そりゃそうだけど。でも」

「いいんですか? 妹さん、化け猫に付いて行っちゃってますよ」

「そ、そうだな。舞は俺が守ってやらなきゃいけないしな」

 後ろで完全に腰が引けている隆司さんも怖ごわと舞の後を追った。

「もぉーみんなっ。早くーっ。明かりが無いと道が見えないよー」

 あ、そうだ。言われてみたらロウソク。オレが持っていたんだ。

 色々疑問はあるけど。オレも一番後ろから二人と一匹の方へと歩き出した。



 黒猫を先頭にしてオレたちは進んだ。ロウソクが映し出す周囲の様子は少し滑らかな岩の壁。高さはかなりあるみたいだ。けれどロウソクの小さな明かりでは、天井の高さがどれくらいなのかよく分からない。道幅は三人が横に一列で並んでも、両脇に一メートルくらいの余裕がある。広めの鍾乳洞の中のようだ。ひんやりしているが、外にいた時ほどの寒さは感じない。さらに進んでいくと、幾つか脇道らしき穴がぽっかり開いていて、そこから風が吹いてくる。それが「おおーん」という不気味な音にも聞こえてくる。こういう穴から穴へと風が吹き込み反響して聞こえてくるんだろうけど。不気味だな。

「まだ着かないの? ネコさん」

「みゃ~」

「そっか」

 舞はときどき猫と会話らしきものを続けていた。うーん。本当に言葉も通じてるのか? それもオレにはよく分からない。でも舞は猫へと色々しゃべりかけ、ヤツもちょうど良いタイミングで鳴いている。通じているような、ちがうような。やっぱりわからない。

「おい、勇聖。俺ら、あの猫に誘い出されてるんじゃないか?」

 オレの隣を歩く隆司さんが心配そうな声でコソコソと話しかけてきた。

「明らかに怪しくないか」

「そうですけど。でも、もうこんな所へ来たこと自体がスゴくおかしいことですから。今さら疑ったり、怖がったりしても仕方がないと思いますよ」

「そりゃ……まぁそうだけど。お前、本当に落ち着いてんな」

「別に焦って事態が良くなるならそうしますけど。今はもう、運を〝天に〟任せる、じゃなくて〝猫に〟任せる,しかないんじゃないですか?」

 オレたちの運命なんて、こんな場所へ招かれた時から未知数になっているんだ。だったら用意されたものを受け入れるしかないんじゃないか。

「猫に任せる、ねぇ」

 それでも隆司さんは納得できない、という気持ちのこもった口調でそうつぶやいた。


「ここは……?」

 歩き続けてきた道が一気にひらけた。着いたのは円形になっている広い空間だった。しかもそこの壁には、何故か松明が二メートルくらいの間隔でオレンジ色の明かりを灯していた。だから周りの様子がはっきり見える。

 天井には鋭い鍾乳石のツララが幾つも下がり、周囲は一面白茶色をした冷たい岩の壁。地面には人間くらいの大きさをした岩や大小さまざまな石が転がり、ごつごつと歩きにくそうな場所だった。

 そして。

「よくここまで来たね,君たち」

 舞、猫、オレ、そして隆司さんが足を止めた時。辺り一面に声が響いた。それは物腰の柔らかい男の人の声。口調は穏やかだけど、少し冷たさをオレは感じた。

「誰だ。どこにいるんだっ」

 対して、オレの声は男の数倍反響し、こだました。

「わからない? ここまで連れて来てあげたのに」

 舞の足元に居た猫が、ちょこちょこちょことオレ達の前へ歩み出た。それからくるりとこちらを向き、みゃ~と鳴く。

「君たちもずいぶんとのん気だね? ノコノコ付いて来ちゃうなんて」

 黒猫は愛らしい瞳を向けてそう言った。

「ネ、ネコさんっ」

「しゃ、しゃべった! こ、今度はしゃべりやがったっ」

 舞と隆司さんはそれぞれ一歩後ずさる。

「お前はやっぱりただの猫じゃなかったのか」

 オレはヤツをじっと睨んだ。隆司さんが言った通りこの猫はやっぱり化け猫なのか。それとも、まさかこいつが水沢渓谷の仙人なのか?

「敵地で油断するなんて。所詮は子どもだね」

 猫は天井の方を見上げ「にゃぁぁごぉぉっ」と吠えるように唸り声を上げた。と、同時にゴゴゴゴッと地面が揺れ始め、壁も同じくみしみしと音を立て揺れ出した。

「君たちをここに連れてきたのはね」

 猫の声がだんだんと大きく、そして低くなっていく。それと共にさっきまで軽々と抱き上げられる大きさだった猫が、みるみるうちに一メートル、二メートルと大きくなっていく。

「きゃぁぁぁっ」

「デ、デカい。デカ過ぎるっ」

 これは。こんなものは猫なんかじゃない。本当に化け猫、いいや。

「怪物だっ」

 高さが三メートルぐらいまで大きくなると、奴は「にぎゃ~ごぉぉ」と鳴き、大きな皿のような真ん丸の青い目でオレたちを見下ろしていた。

「僕らの計画を邪魔する人間は、ぺったんこにしてやる~っ」

 しゃべった猫の口からはギザギザにずらっと並んだ白い歯が見えた。ぺったんこにした後、オレ達をバリバリ噛み砕きそうだ。

「きゃーっ」

「どうなってんだよっ」

 猫は右の前足を振り上げ「にゃごっ」と、オレ達目掛けて巨大なネコパンチを繰り出してきた。

「逃げろっ」

 オレは舞と隆司さんの腕を引っ張り入口へ向かって走り出した。

「にゃはっ。逃がさにゃいもんにゃ~」

 猫は大きい体をゆらしながら素早い動きでオレたちに追いつくと、再びバシッバシッとオレたちに向かってパンチを繰り出してくる。そのたびにオレたちは、右に左に、行ったり来たり。これじゃ入り口になんて到底戻れないっ。

「うお~っこうなりゃ~っ!!」

 オレの前を走る隆司さんがいきなり雄叫びを上げた。

「勇聖っ! 舞っ! 俺が囮(おとり)になってあの化け物を引き付けるからその隙に逃げろ。いいなっ」

「は? 隆司さん!?」

 なに言ってるんだ。さっきまであんなにヘタれて怯(おび)えていたのにっ。

「ダメよっ。お兄ちゃんがぺっちゃんこにされちゃう!」

「大丈夫だっ。兄ちゃんに任せておけっ」

「でもでも」

 舞の言う通りだ。ぺっちゃんこ、どころか下手をすれば、しまってあるであろう猫の爪の餌食にだってなりかねないんだぞ。

「隆司さん、もっと考えて」

「考えてる暇なんて無いっ。行け、二人ともっ」

 と、言ってる間にもオレ達の行く手には、黒い猫の手が降ってくる。あぁっ、もうすぐ入り口は見えてるのにっ。

「いいか、勇聖。俺達は、俺達の住んでいる所を守らなくちゃならないんだろ。だから、ここで三人がいっぺんにやられちゃダメだっ」

「でも」

「いいから行くんだ。俺も後から必ず行く。オレの運動神経の良さを知ってるだろう」

「でも隆司さんっ」

「舞のことも頼んだぞ。ほらっ。行くんだっ!!」

 そういうとオレと舞の背中を思い切り突き飛ばした。

「わぁぁ~」

「きゃぁ~」

 オレ達は一気に入り口の方へと押し出され、真っ暗な洞窟へ続く穴が目と鼻の先に見えた。

「勇ちゃんっお兄ちゃんを助けないとっ!」

「だめだっ。行くなっ」

「やだよぉっ。だってお兄ちゃんがっ」

「バカッ。隆司さんなら大丈夫だ。それに今、オレ達が戻ってどうなる? 足手まといになるだけだろうっ」

「でも」

 舞は遠ざかっていった隆司さんの背中の方を見る。

「お兄ちゃんっ」

 彼の姿は大きな岩の裏に入り込んで見えなくなってしまう。猫のわさわさしている黒い毛だけが、その岩から踊るように揺れるのが見えるだけだった。

「隆司さんの言葉を信じるんだ。大丈夫だ、きっと」

「……お兄ちゃん」

 オレは舞の右手を取った。心細さと心配な気持ちでいっぱいの顔を彼女はしている。でも残ったオレ達は、仙人に会うという目的を果たさなければならない。そのために隆司さんが囮になってくれたんだ。

「行こう」

 黙ってそのまま来た道の方へ舞の手を引いて歩き始めた。舞ももう何も言わない。

 洞窟の中へ戻ると、持っていた明かりがもう無かったのでお互い顔がよく見えなかった。だから舞の表情ももう分からない。オレは舞の手をしっかり握り直した。舞もぎゅっとオレの手を握り返す。これで少し安心してくれればいいけど。でもこれからどうすれば良いのだろう。


 オレたちは隆司さんの言った通りに、あの危険な場所から離れた。でも正直にいうと、あの場所から離れただけでどこへ向かっているのか全く分からなかった。壁に手を当ててそれに沿って進んでいるだけ。オレも舞も何も言わない。

 舞と手をつないでいても何となく気持ちが重かった。舞も同じなのか、重く静かな空気がオレたちを取り巻いていた。

 このまま進んで何があるのか。どこへたどり着くのか。都合良く、オレ達が目的にしている仙人の所へこのままたどり着けるとは思えない。オレたちはやっぱり歓迎されてはいないみたいだし。そして隆司さんが無事でいるのかどうかも心配だった。

「勇ちゃん」

 どのくらい歩いたのか。それすら分からなくなったところで、舞が突然立ち止まった。

「なんだ?」

「ねぇ。何か……聞こえない?」

「何が?」

「……雨」

「雨?」

 オレは耳を澄ました。

「聞こえるでしょ?」

 舞に言われてよく耳を澄ましているつもりだが、オレにはそんな音は聞こえない。この洞窟に入った直後から聞こえている、動物が唸るような音が遠くからしているくらいしか分らなかった。

「いや。それだけじゃ……ないっ」

 その動物の唸り声の中に、舞が言っているザーザーという雨に似た音も聞こえてきた。

「勇ちゃん、音、大きくなってない?」

 ザーザーという音は次第に川の急流のような音に変わっていく。

「前の方から聞こえてくるぞ」

「これ以上進んだら舞たち危ないのかな?」

「かもな。戻るぞっ」

 オレ達は逃げ出してきた方へ向き直ると走り出した。

 音は大きな滝が流れ落ちるような激しさに変わってくる。空気もひんやりして湿っぽくなってきた。

「み、水だ!」

 足元に冷たさを感じると、靴が濡(ぬ)れてあっという間に重くなってくる。

「急げ」

「う、うん」

 でもオレや舞は特別に早く走れるワケじゃない。スポーツテストの成績だって全て平均値。けどそんなことは言ってられない。

 足元も石がけっこうゴロゴロと転がっていて、水を吸ったクツは足が取られそうになる。

「きゃーっ」

 叫び声がしたかと思うと、ぐっと腕が引っ張られた。その勢いで舞とつないでいた手が放れる。

「どうしたっ」

「転んじゃった。痛いよぉ」

「ケガしたのか?」

「足、スリむいたみたい。ジンジン痛い」

「大丈夫か?」

「ううん。舞、もうダメだよ。痛くて立てない。歩けないよ。だから勇ちゃんだけでも走って逃げて」

「何を言ってるんだ。舞を一人にして置いて行けるかっ」

「でも逃げないと水がっ」

 あぁ、もうこうなったらっ。

「舞っ。オレにおぶされ。ほら、こっちだ」

 オレは舞の気配がする方へ背を向けしゃがんだ。とにかく今は少しでも先へ進まなければならない。水はもう膝丈ぐらいまでかさを増している。

「でも舞なんかおんぶしたら走れなくなるよ。二人ともおぼれちゃうよっ」

「置いていくよりかマシだ。さ、早く」

「でもでも」

 煮え切らない舞を無理やり背負いオレは立ち上がった。

「肩にちゃんとつかまってろよっ」

 オレは走り出した。

 が、さすがに人を背負って走る事は今まで無かったから足がふらついた。それでもオレはできるだけ走った。いや、走っているつもりで、もう普通に歩くよりも遅いペースになっていた。それでも前へと向かって突き進む。

「あぁもうっ」

 水かさもどんどん増してゆき腰のあたりまで来た。もう自分の足で歩いているのではなく足が勝手に流されるようになっている。

「……勇ちゃん大丈夫?」

 背中の方から弱々しい声がした。舞の方がケガをして、冷たい水に浸(つ)かって体がこたえているはずなのに。オレの心配なんかして。

「平気だ」

 できるだけ穏やかに、でも言葉には力を込めて返事をした。

「ごめん、舞。変な事に巻き込んで」

 オレは川の神の言葉を思い出した。〝お前たちには計画を止められない〟と言っていた事を。そして水沢渓谷の仙人も川の神同様、怒っているんだ。川の水を汚し続ける人間に。そんな人が住んでいる場所に、人間であるオレたちが歓迎されるはずはない。もっと慎重に行動しなくちゃダメだったんだ。それなのにオレは。馬鹿過ぎる。甘く考えていた。

「勇ちゃん、謝らないで。舞も、そしてお兄ちゃんも、自分たちで行きたいって決めたことなんだから」

「でも、こんな危険な目に」

「良いのっ」

「オレは良くないっ」

 普段は困った人達の舞や隆司さんだけど。でも二人は幼稚園の頃からずっと隣同士で一緒だった。家族と同じくらいに近い存在んだ。それをオレは危険な目にあわせてしまった。その上、守ってやることも、どうする事も出来ないなんて。

「なぁーっくっそっ」

 水はオレの胸の辺りまで来ていた。体に水圧までかかって苦しい。

 その時だった。後ろからさらに大きな轟音(ごうおん)がした。振り返る間もなく、すさまじい勢いの鉄砲水がオレ達を一気に飲み込んだ。声をあげる前にオレは押し流され意識があっという間になくなった。