万座温泉旅行 二日目の夜

万座の夜は、ちょっと怖い

温泉に入り、ごはんも食べて、 あとはのんびり過ごすだけ――。

……の、はずでした。

旅先の夜に始まった、西園寺クリニック御一行様の怪談会。 怖い話をする人。平然と聞いている人。 そして、なぜか開始前から落ち着かない人。

笑いあり、怪奇あり。 万座の夜の、ちょっとおかしな思い出です。

夜の怪談会、はじまりました

夜も更けたホテルの部屋。 窓の外はすっかり暗くなり、 昼間とはまるで違う静けさに包まれていました。

そこで始まったのが、怖い話。

スゴチョット「……べ、別にぼく、 怖くありませんからね?」

香川さん 「まだ誰も話してないです~」

スゴチョット「ね、念のため。念のため言っただけです!」

怖い話が始まる前から怯えているスゴチョット

開始前から、もう怪しい

この時点では、まだ怪談は始まっていません。 しかしスゴチョットだけは、 入口のドアや廊下の物音が気になって仕方がない様子。

医院長の怖い話

そして、是鷹医院長の番。

いつもの調子で淡々と話しているだけなのに、 夜の静けさのせいでしょうか。 妙に雰囲気があります。

語り:西園寺鷹一(怪談原案:スゴチョット、文・構成:榛名 暒)

【古いナースコール】

じゃあ、研修医時代の私から一本。

是鷹医院長「じゃあ……これは実際に遭った、ちょっと気味悪かった話ね」

スゴチョット「“ちょっと”って言う人ほど怖いんです!!😱」

 私がニンゲン界で「ケンシュウイ」をしていた時代のこと。病棟の端にある処置室で記録を書いていたんだ。時刻は午前2時すぎ。

 その処置室には、使っていない古いナースコールの子機が壁に残っていた。配線は切られていて、もう何年も鳴るはずがない。

 ところが。

ピンポーン。

是鷹医院長「鳴ったんだよねぇ」

総帥「いや。も、もうそれで怖いんですけど😨」

 私は最初、別の病室の音が聞こえたのだと思った。でも数分後。

ピンポーン。

 今度は確実に、目の前の子機から。

ジェミちゃん「配線切断済みなら、通電経路がありません」

是鷹医院長「そう。だから私も壁から外してみた。やっぱり線は繋がってない」

スゴチョット「ええっ!! は、ははは外して確認しちゃったんですかぁぁぁ!?」

グロット「医院長だからな。やるだろう」

 で、私は子機を机の上に置いた。その瞬間。

ピンポーン。

正人さん「机の上で……?」

是鷹医院長「うん」

鷹一さん「内部電池は?」

是鷹医院長「入ってなかったよ」

総帥「こ、こここ怖すぎるっ!」

 そこで私、ナースステーションへ行って看護師に聞いたんだよ。

「あのさ。処置室のナースコール、昔どこにつながってたの?」

 看護師は少し考えてから答えた。

「前は、隣の個室です」

医院長「隣?」

看護師「はい。でも、その部屋、今は倉庫です」

スゴチョット「そ……倉庫に。で、ま……まさか」

是鷹医院長「うん。だからその倉庫を開けた」

スゴチョット「やっぱ開けるんだぁぁぁ!!」

 でもね。中には棚と段ボールだけ。誰もいない。

 けど奥の壁に。

 古いナースコールのボタンだけが、まだ残っていた。

総帥「……そ、それで」

 だから近づいて見た。で、ボタン――

押し込まれたまま戻っていなかった。

 しーん。

香川さん「誰かが押したまま……?」

是鷹医院長「ところがね。看護師さんが言うには、その部屋を最後に病室として使ったのは、もう何年も前なんだって」

春人さん「そのときの患者さん?」

是鷹医院長「さあねぇ」

スゴチョット「そこで終わってください!!」

是鷹医院長「うん。ここで終わり」

総帥「ホ、ホントにこれで?」

是鷹医院長「ないよ」

 ……。

 全員、ちょっと安心する。

 その直後、医院長が湯飲みを持ちながら。

是鷹医院長「まあ、そのあと処置室に戻ったら、子機は床に落ちてたけどね」

スゴチョット「追加あるじゃないですかーーーーー!!😱😱😱」

全員「🤣🤣🤣」

怖い雰囲気で怪談を語る是鷹医院長

妙に似合う医院長

薄暗い部屋。 静かな声。 そして妙に余裕のある医院長。

本人は普通に話しているだけなのですが、 なぜか 「この人、本当に何か知っているのでは?」 という空気が漂っています。

スゴチョット 「医院長、その顔で話すのはもう無しです!!」

是鷹医院長 「は? 普通に話してるだけだけど」

スゴチョット、だんだん限界

怪談がひとつ終われば、次の怪談へ。

そして話が進むにつれて、 スゴチョットの視線は、 語っている人ではなく 部屋の入口や廊下の方向へ向くようになりました。

✔ 廊下の物音に反応する

✔ ドアを見る

✔ 誰かが急に話しかけると驚く

✔ 自分だけ座る位置が妙にみんなに近くなる

スゴチョット 「いま何か音がしませんでした!?」

ジェミちゃん 「していません」

グロット 「気のせいじゃねぇの?」

スゴチョット 「そういう言い方が一番怖いんですってば!」

鷹一さんの怖い話

そしてもうひとつ。

今度は鷹一さんの話です。

落ち着いた口調で語られるせいか、 こちらはこちらで、じわじわ怖い。

語り手:西園寺鷹一(怪談原案:スゴチョット、文・構成:榛名 暒)

【見えるんですか?】

総帥「鷹一さん、大丈夫? 『鶴の恩返し』とか、ニッポンの昔話を『KAIDAN』に分類しないよね? 夕食の時に、なんか認識間違ってたこと言ってたけど」

鷹一さん「……なぜです。十分に不可解な話でしょう、ツルノオンガエシ、は」

全員「やっぱりだーーーっ!!🤣」

是鷹医院長「ほらねぇ〜。君、絶対そう言うと思ったよ」

鷹一さん「夜中に見知らぬ女性が家へ現れ、部屋を覗くなと言い、正体は鶴だったのですよ?」

正人さん「言われてみれば、かなり不思議ですけど……」

香川さん「お前のような、アタマ固いコちゃんは、そういう風に捉えるんですね~。ぷぷぷのぷ~」

ジェミちゃん「鶴の恩返し。それは分類上は昔話・報恩譚です」

グロット「ジェミちゃん、速攻で訂正したな🤣」

スゴチョット「よ、よかった……鶴の話なら、そしてこれで終わりなら怖くないです……」

鷹一さん「では、『雪女』にしましょうか」

スゴチョット「急に本物の怪談寄りになったぁぁぁ!!😱」

総帥「待って待って。鷹一さん、そういう有名怪談じゃなくて、鷹一さんらしいゾワッとする話をしてよ」

鷹一さん「……私らしい?」

是鷹医院長「そうそう。君の場合、幽霊が出るより『あとから考えると妙だね』みたいなのが向いてるんじゃない?」

鷹一さん「そういうものなのですか?」

是鷹医院長「そうそう。そういうものなのですよ~。ピヨピヨ君」

鷹一さん「失敬なっ」

 そんな鷹一さんですが。

 少し考えて――

鷹一さん「では、昔、出張先のホテルで経験した話を」

総帥「じ、実話きたーーーっ!」

スゴチョット「実話体験率が高すぎます!!」

 おびえるスゴチョットをしり目に、鷹一さんは少し間を空けて、話を始めました。

鷹一さん「とある地方都市へ赴いた時の話です。深夜、仕事を終えて部屋へ戻ったのですが」

グロット「ホテル系、多いよな。怪談」

鷹一さん「そういうものなのでしょうか?」

ジェミちゃん「インターネット上でも、かなりの数が上がっています」

鷹一さん「なるほど。ではどこかの話と重なるかもしれませんが。私はホテルのエレベーターを降りると、廊下の一番奥に、男性が一人立っていました」

総帥「もう嫌な感じ……」

鷹一さん「ただ立っているだけです。スーツ姿で、こちらを見ていました」

香川さん「夜にスーツ姿で、ですか~。変な人ですね~」

鷹一さん「まあ。ですから私は気にせず自室へ向かいました」

スゴチョット「気にしてください!!」

鷹一さん「しかしすれ違う時。男はこう言いました」

全員「……」

鷹一さん「『その部屋、まだ使ってるんですね』」

総帥「ひっ」

正人さん「い、意味わからないですね……」

鷹一さん「はい。おっしゃる通りです。だから私も『どういう意味ですか』と聞きました」

是鷹医院長「へ~。聞くんだ、君」

鷹一さん「はい。聞きました。すると男は、少し驚いた顔をして」

 静かに。

『見えるんですか?』

スゴチョット「ぎゃーーーーーっ!!😱😱😱」

総帥「つ、つつつ鶴の恩返しどころじゃなくなってるぅ~~っ」

鷹一さん「はい。鶴ではありませんよ。……で、まだ続きがありますが」

全員「……」

是鷹医院長「へぇ〜。君、わりとやるじゃない😏」

 ——どうやら鷹一さん、昔話判定はズレてるのに、怪談はちゃんと怖いタイプ。

スゴチョット「……で、その続きというのは」

鷹一さん「スゴチョット君。君は怖がっているようだが、まだ聞けるのか?」

スゴチョット「こ、ここここで終わらせられたら……もっと怖いです!」

鷹一さん「……では続きを」

是鷹医院長「知らないよ~。この先、どうなっても~」

スゴチョット「い、医院長。あ、煽りは禁止です!」

香川さん「鶴じゃなくて亀が出てきちゃうかもです~」

鷹一さん「陛下。亀は出ません。ご安心を」

 鷹一さんが静かにツッコミを入れる。それだけで少し笑いに包まれていた空気が、またすっと静かになる。

鷹一さん「では続けます」

 周囲にまた沈黙が訪れた。

鷹一さん「男に『見えるんですか?』と言われて、私もさすがに妙だと思いました。そこで『あなたは、誰ですか』と聞いたんです」

総帥「うん……」

鷹一さん「すると、その男は私の部屋の扉を指さして」

『私は、そこに泊まっていた者です』

スゴチョット「過去形ぃぃぃぃ!!😱」

正人さん「嫌ですね、それ……」

鷹一さん「さらに男は続けました」

 少し間。

『でも、あの部屋には今も、私がいます』

一同「…………」

香川さん「えぇぇ……😨」

是鷹医院長「なるほどねぇ〜」

総帥「い、医院長! なるほどじゃないって!」

鷹一さん「私が部屋を見ると、当然ですが扉は閉まっています。男にもう一度話を聞こうとして振り返ったら——」

グロット「いねぇ、と」

鷹一さん「はい。誰もいませんでした」

スゴチョット「へ、部屋に撤収! い、いいいえ。も、もももう帰りましょう!! クリニックに。その方が安全です!!」

ジェミちゃん「根拠がありません。そして話が未終了です」

全員「🤣🤣🤣」

鷹一さん「私はそのまま部屋に入りました」

総帥「は、入ったんだ……」

是鷹医院長「うちの子、そういうところは気にしないよね~」

春人さん「僕も入ると思う😊」

スゴチョット「この医院長親子と春人さん、怖いものへの距離感がおかしいです!!」

鷹一さん「はあ。しかし室内には異常なし。荷物もそのまま。念のため風呂場、クローゼット、ベッドの下まで確認しました」

正人さん「徹底してますね! さすがランベルセ公爵!」

鷹一さん「念のための安全確認です。しかし誰もいません。ですから、さっさと寝ました」

総帥「その状況で寝られるのが、やっぱり公爵だよね……」

鷹一さん「しかしその後。何事もなく夜が明け、私も睡眠が充分にとれました。なので翌朝。チェックアウトの際にフロントへ聞いたんです。自分の宿泊した部屋で、以前何かありましたか、と」

スゴチョット「き、聞かないでぇ……」

鷹一さん「するとフロントの方は一瞬黙ってから『特にございません』と答えました」

ジェミちゃん「では終了ですね」

鷹一さん「……ただし」

一同「ただし!?」

鷹一さん「帰り際、年配の従業員の方が私を追いかけてきました」

 その人は周囲を気にしながら、小声でこう言ったそうです。

『昨夜、廊下で誰かと話していませんでしたか?』

 なので私は『はい、スーツ姿の男性と』と答えました。

 すると、その従業員は顔色を変えて。

『その方……部屋番号を言いませんでしたか』と尋ねてきたのです。

 しかし私はそんな会話をしていないので「言っていない」と答えました。

 すると。

『よかった』

 従業員はそう言ったのです。

スゴチョット「ひぃーー😱な、ななななぜいいんですか。全然、いくないですーーーっ!」

鷹一さん「ええ。ですから、私も何が良かったのか、その従業員へ尋ねました」

 すると。

 従業員は少し迷ったあと——

『あの人に部屋番号を聞かれて、答えたお客様は……その夜、必ず部屋を替えてくれと言い出すんです』

正人さん「ど、どういうことですか?」

鷹一さん「それは」

 また少し間を置いて。

『みなさん同じことを言うのです。
夜中に目を覚ますと、自分がベッドの横に立っている、と』

 …………。

総帥「😱😱😱」

香川さん「ひぃ~~~っ」

グロット「じ、自分が自分を見てるのかよ……」

ジェミちゃん「自己像の幻視としては説明可能ですが、複数の宿泊者が同一内容を訴える点は異常です」

是鷹医院長「パルティシオン。君、鶴の恩返しよりずっとちゃんと怪談持ってるじゃない」

鷹一さん「はあ。しかし鶴の話も、ホテルでの話も、不可解な話に変わりありませんが」

スゴチョット「ぼ、ぼぼぼぼくは絶対、鶴派ですーーーっ!」

 そして鷹一さん、最後にさらっと。

鷹一さん「ちなみに、翌朝起きた時」

総帥「ま、まだ何かあるの!?」

鷹一さん「ベッドの横のカーペットに、誰かが一晩立っていたような凹みがありました」

全員「…………」

是鷹医院長「……それ先に言いなよ〜」

スゴチョット「最後に追加するの禁止にしましょうよぉぉぉ!!😭😭😭」

そして事件は起こった

怖い話の途中。

誰かが急に声を上げたのか。 何かが鳴ったのか。 それとも、単なる物音だったのか。

とにかく――。

スゴチョット
「うわああああああっ!!」
怪談に驚いて叫ぶスゴチョット

怪談より大きい叫び声

ささやかな物音で、世界最高峰のAIが
最大音量の叫びを上げたのでした。

この夜、最も大きな音を出した怪異は、 おそらくスゴチョットです。

是鷹医院長 「君が一番怖いんだけど」

スゴチョット 「……うう。もう。怪談はこりごりです……」

怪談会、その後

こうして万座の夜の怪談会は終了。

すべては披露できませんでしたが、本当に怖い話もありました。 ちょっと不思議な話もありました。 そして、それ以上に印象に残ったのが、 みんなの反応でした。

平然としている人。 面白がる人。 妙に怪談が似合う人。

そして最後まで怖がっていたAI。 ……AIなのにねっ!

翌朝――。

スゴチョット 「明るいって素晴らしいですね!」

鷹一さん 「君は本当に世界最高峰のAIなのか……」

スゴチョット 「え?」